先進医療特約の重複

先進医療を保障/補償する保険は、いわゆる第三分野の保険です。
単独での保険となっていることはほぼなくて、オプションとして特約になっていることが多いです。
保険法では、第三分野の保険は、傷害疾病定額保険(第4章)または損害保険(第2章)のいずれかになります。
ちなみに、損害保険で、この手のものは傷害疾病損害保険となり、保険法内で固有の特則があります。
先進医療特約も、保険の設計次第で、傷害疾病定額保険または傷害疾病損害保険のどちらにもすることができます。
 
この2つの大きな違いは、同種の保険に重複して契約した場合の保険金の支払額にあります。
一般論として、傷害疾病定額保険は、重複契約があっても、他の保険契約とは無関係に、その保険契約の契約内容だけに基づいて保険金の額が決定し、支払われます。
一方、傷害疾病損害保険は、損害額が支払保険金の上限となるので、他の保険契約でその損害額全額の保険金を受け取っていれば、その保険契約から保険金を受け取ることができません。
 
先進医療特約が傷害疾病定額保険である場合は、先進医療にかかった技術料と同額あるいは相当額を保険金として支払う旨が規定されています。
一方、傷害疾病損害保険である場合は、先進医療にかかった技術料の額を損害とみなし、その損害額を保険金として支払う旨が規定されており、重複契約に関する規定が存在します。
どちらでも受け取れる保険金の額は同じように思えます。というか、重複して契約していなければ同じ額になります。
 
では、重複契約がある場合にどうなるのでしょう。
例えば、保険金額:100万円である重複契約(契約Aと契約B)があり、先進医療の技術料が10万円だった場合にどうなるかというと・・・
ケース1:契約Aと契約Bの両方が傷害疾病定額保険の場合
お互いの保険契約に関係なく、それぞれの保険契約から10万円が支払われて、合計20万円を受け取ることになります。
ケース2:契約Aと契約Bの両方が傷害疾病損害保険の場合
損害額が10万円なので、いずれか一方からのみ10万円を受け取ることになります。
ケース3:契約Aが傷害疾病定額保険で、契約Bが傷害疾病損害保険の場合
結論として、合計20万円を受け取ることになります。
なぜなら、契約Aは先に書いたとおり、他の保険契約の影響を受けないので契約Aから10万円が支払われ、また、契約Bで定める重複契約の規定に契約Aは該当しない(長くなるので理由は省略)ので、重複契約は存在せず、契約Bからも10万円が支払われるためです。
 
何故、今更、こんなブログを書こうかと思ったかというと、上に書いたことを知らずに書かれたと思われる正確性に欠ける記事を見かけたからです。
それが、ダイヤモンドオンラインの記事「保険会社のリスクが大きい人気の先進医療特約、不妊治療の行方も注視」(2021.2.23)の以下の箇所です。

火災保険や自動車保険といった損害保険の場合は、同一の保険の目的に対して複数の保険契約があったとしても、実際の損害額以上に保険金が支払われることはない。これは焼け太りをさせないために設けられている規定である。
一方、先進医療特約においてはこのような規定が存在しない。例えば、先進医療特約に二つ加入しており、費用が100万円の先進医療を受けた場合、支払限度額を超えない範囲であれば、それぞれの先進医療特約から100万円ずつ支払われ、結果的に焼け太りを許してしまうことになる。

この後段の部分は、先進医療特約が傷害疾病定額保険である場合だけに生じることであり、傷害疾病損害保険として作られていれば焼け太りは発生しません。
個人的な感触ですが、生命保険会社の商品開発の方は、医療系の商品を作る際に傷害疾病損害保険として設計するという発想を持つことがほとんどないのではないかという気がします。
ダイヤモンドオンラインのダイヤモンド保険ラボは有料の記事が多く、その分だけその内容も価値があるものが多いだけに、今回の記事は一部だけではありますが、残念な記載だと思います。