辻田幹夫のお気楽損害保険(損保)ブログ

主に損害保険について気の向くままにアレコレ書いています。

日本生命の不適切な情報取得の所感

日本生命は、不適切な情報取得に関して金融庁から2025年7月18日に報告徴求命令を受け、9月12日に報告・公表を行ったことについて、「日本生命の不適切な情報取得の所感」(2025.9.13)に書きました。
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この件について、思うところがあります。
 

現場レベルの担当者の感覚の麻痺

今回不正取得したとされる情報の内容は「銀行等の保険販売に係る業績や執行方針、行員の業績評価基準、他の生命保険会社の商品情報等」です。おそらく、出向先の銀行は、一応、社外秘レベルの扱いにしていたと思われますが、公開情報ではないといったレベルであり、出向先の生命保険会社に伝えるのはダメといったものではないと思います。それがダメなものなら、銀行も営業秘密侵害罪としてもっと問題視するはずですが、そういう動きはなさそうですから。
この事案の問題は、銀行が社員に課しているルールを悪質な形で違反したことにあると思います。
つまり、同じ効果を得るにしても、下表のセーフのように行えば問題とならなかったと考えられます。

問題の事例 出向者が生命保険販売推進や業績評価体系等に係る内部情報を、私用スマートフォンのメッセージアプリや郵送等の手段によって持ち出し、銀行本部窓口担当者と共有する。
その内部情報に係る画像データ等を受け取った銀行本部窓口担当者が、その画像データ等を加工・転記、またはそのままの画像に逆流厳禁の文言を付すなどして資料を作成し、所属する金融法人部門の役職員等に広く共有する。
セーフ 出向者が目にした、または、耳にした生命保険販売推進や業績評価体系等に係る内部情報を、その資料そのものではなく、自分の言葉で、生保側職員と電話や対面にて話として伝える。
その内部情報を伝え聞いた生保側職員は、その話を同僚や上司に雑談(昔のタバコ部屋での雑談のイメージ)で伝聞として共有する。

このあたりのグレーなやり方はマニュアルや規程には書かれていませんが、ココまでは大丈夫、ココから先はヤバいという感覚は普通の社会人なら身に着けている感覚ではないでしょうか。そのあたりの感覚が全社的に麻痺しているなら、日本生命は危機的な状況にあるかもしれません。
 

経営陣の認識の甘さ

もともと情報の不適切な管理は、メガ損保で発覚し、「損害保険会社4社に対する行政処分」(2025.3.24)にて業務改善命令を出されています。そこでは、「代理店事案」と「出向者事案」の2類型が示されていました。

代理店事案 乗合代理店が、保険会社に保険契約に関する連絡を行った際に、保険会社の保険契約者等に関する個人情報を他の保険会社に送付するとともに、保険会社は他社の保険契約者等に関する個人情報を受け取っていた事案
出向者事案 保険代理店への出向者が出向先の保険代理店の了承を得ずに、当該保険代理店の顧客情報(保険契約以外の情報を含む。ただし、当社の保険契約にかかる情報を除く。)を保険会社へ送付した事案

ここで、金融庁は、当該保険代理店の顧客情報と限定したのですが、もう少し広く当該保険代理店の社外秘情報であっても問題があることは気づくはずです。
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しかし、日本生命の経営陣はそこに目をつぶり、当初の社内調査では、当該保険代理店の顧客情報に限定して不正取得の有無を調査し、問題がなかったと報告しました。
ところが、当該保険代理店の社外秘情報は不正取得があったので、マスコミにそれを暴かれて今回の事態になったのです。
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そして、このような事態になっても、今回問題となった営業部門のみを対象に、出向をやめれば再発防止になると考えており、経営陣の思慮の浅さにあきれはてています。
上に書いたとおり、日本生命の職員全体で通常の社会人として身に着けているべき感覚が麻痺しているなら、コンプライアンス部門の職員であっても出向させたら問題を起こしそうな気がします。
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