ライフネット生命の就業不能保険(其の弐)

「ライフネット生命の就業不能保険」(2010.2.15)で、ライフネット生命保険株式会社が新たに販売開始する就業不能保険が損保の所得補償保険−その中でもとりわけ日立キャピタル損害保険株式会社の PLTD(長期就業不能所得補償保険)によく似ているのではないかと書きました。
 
ちなみに、PLTD(長期就業不能所得補償保険)は、1999年7月にユナム・ジャパン傷害保険株式会社が発売開始した個人向けの所得補償保険の一種で、填補期間が超長期に渡るのが特徴です。
そのユナム・ジャパンはユナムが日本撤退後は日立キャピタル損害保険株式会社として存続し、PLTD も引き続き販売されています。日立キャピタル損保の他に、ソニー損害保険株式会社日本興亜損害保険株式会社も長期就業不能所得補償保険の認可を持っているようです。
 
販売開始にあたって、ライフネット生命のサイトにて就業不能保険の約款等の詳細が公開されたので、所得補償保険や PLTD と比較しつつ、どのような保険なのか見てみました。
ライフネット生命、就業不能保険「働く人への保険」を本日より販売開始」
http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2010/2369.html
ライフネット生命保険株式会社 ニュースリリース 2010.2.26)
 
まずは保険種目名にも使われている「就業不能」からです。
就業不能保険の「就業不能状態」は、普通保険約款第4条(就業不能の定義)にて、以下のように定義されています。

被保険者が傷害または疾病により、日本国内の病院もしくは診療所への治療を目的とした入院または日本の医師の指示により在宅療養をしており、少なくとも6か月以上、いかなる職業においても全く就業ができないと医学的見地から判断される状態をいいます。

私の知る限りでは、損保の普通の所得補償保険は、填補期間2年までは証券記載業務に従事できないことを、2年を超える場合は経験・能力に応じたいかなる業務にも従事できないことを「就業不能」としています。つまり、元の職業・職種をベースとしています。
比較してみると、就業不能保険で定義する「就業不能状態」は、所得補償保険に規定する「就業不能」よりも条件が厳しくなっています。これは、就業不能保険の填補期間が超長期に渡ることを考慮すれば当然のことと言えます。
ここは保険金支払要件の最大の肝なので、きちんと理解しておく必要があります。
残念ながら、PLTD に規定する「就業不能」は資料がないので不明です。
 
所得補償保険には、期間として「保険料払込期間」「保険期間」「填補期間」の3つがあり、それぞれ意味が違います。
「保険料払込期間」は、その名前のとおり、保険料を払い込む期間で、所得補償保険を含めた通常の損保商品のほとんどが「保険期間」と同じです。例外的に異なるのは、介護費用保険や年金払積立傷害保険くらいかと思います。
「保険期間」は、その期間内に保険事故が生じた場合に保険金を支払うという期間です。
「填補期間」は、保険金を支払う期間で、一定期間に渡り保険金を支払う商品だけにあるものです。普通の所得補償保険の填補期間は1年ないし2年です。
就業不能保険は、この3つの期間がすべて同じで、超長期で設定できる点が特徴的です。
調べた限りでは、PLTD は、「填補期間」は就業不能保険とほぼ同じですが、「保険料払込期間」と「保険期間」は5年で、自動更新するようです。つまり、5年毎に契約が更新され、保険料が上がることを意味します。
5年更新には、保険金額の見直しができるという面で一長一短があるかと思います。
就業不能保険は、保険金額の減額は可能ですが、増額はできないようです。おそらく、増額したい人はもう1本別の契約を締結しろということではないかと思います。
 
所得補償保険,PLTD,就業不能保険は、いずれも第3分野の商品で、保険法の分類では就業不能保険は傷害疾病定額保険に、所得補償保険と PLTD は傷害疾病損害保険(損害保険)に属するのではないかと思います。
そのため、保険金額は収入の範囲内で定めることを大原則とする点ではいずれも同じですが、万が一、「保険金額≫実際の収入」であった場合の取り扱いが異なります。
PLTD は約款の確認をしていないので分かりませんが、所得補償保険は平均月間所得額を支払限度とすることが明らかです。
一方で、就業不能保険は「保険金額≫実際の収入」であった場合の規定がありません。傷害疾病定額保険だから当然ですが、そのために不法利得を防ぐために契約締結時に定める保険金額の設定基準が非常に重要なものとなってきます。
これは賃金カーブを考慮する必要があるかもしれません。古い大企業(年功序列で役職定年が導入されている会社)の場合などはおそらく50〜55歳に年収のピークを迎えます。この年齢で就業不能保険に加入した場合、加入時の告知が正しいものであっても給付が過大になる可能性があります。
 
これは、就業不能保険と所得補償保険の違いというよりも、生保商品と損保商品の違いと言えるのでしょうが、免責事項に差異があります。
一般に、損保商品は戦争,核物質,地震は免責としています。PLTD は約款を見ていないので分かりませんが、所得補償保険についても戦争,核物質,地震に起因する就業不能は免責です。
一方で、就業不能保険の普通保険約款第5条(就業不能給付金の支払い)の免責事項にはこれらは含まれていません。