辻田幹夫のお気楽損害保険(損保)ブログ

主に損害保険について気の向くままにアレコレ書いています。

セコム損保 法人向けにがん保険販売

セコム損保が、自由診療を補償対象とするがん保険の団体保険の包括契約の引受けを開始しました。
ペットネームは、自由診療保険メディコムビズで、従来販売していた自由診療保険メディコム(新ガン治療費用保険)との共通点は多いです。新ガン治療費用保険(法人包括型契約用)が正式名称のようですが、普通保険約款が自由診療保険メディコム(新ガン治療費用保険)と同じものかどうかははっきりしません。
 

自由診療保険メディコムとの補償内容の差異

補償内容は、自由診療保険メディコムとほぼ同じですが、下表の違いがあります。

  自由診療保険メディコムビズ 自由診療保険メディコム
待期期間 なし 90日(継続契約はなし)
保険期間 1年 5年
通院保険金額 500万円/1年 2,000万円/5年
診断一時金 なし あり(募集チャネルによってはなし)

 

自由診療保険メディコムビズの団体契約の特徴

自由診療保険メディコムビズは団体契約であり、下表のとおりです。

保険契約者 法人
加入者 法人の役職員すべて(保険期間中の入社・退職者は自動的に加入者となり、それに伴う異動手続きや追加・返還保険料はない。)
被保険者 加入者と同じ(年齢:16~74歳)
最低加入者数 50名

役職員すべてを被保険者とするということは、健康に関する告知を求めないのでしょう。告知があったところで、それで以って引受謝絶や保険料の変更をしないので、意味がありませんから。
被保険者の年齢の上限を74歳としているのは、自由診療保険メディコムの新規契約を踏襲しているからかもしれませんが、定年の引き上げや撤廃をしている企業を考慮するとうまくないと思います。
団体契約なので、定足数の規定を設けるのは当然です。損保では10名が普通かと思いますが、50名は多い印象です。ひょっとしたら、認可上は10名だけど、実際の引受けは50名以上としているのかもしれません。
 

思惑?

数年前までは、自由診療に対して保険金を支払うがん保険は、自由診療保険メディコムSBI損保のがん保険くらいでした。しかし、近年は複数の生保が自由診療を保障するがん保険を販売するようになりました。
mikio-tsujita.hatenadiary.org
自由診療保険メディコムは、良い意味でいい加減にできている商品であり、そのため、他社に対抗して補償内容を改定する余地は限られていると思います。
セコム損保にとって自由診療保険メディコムは主力商品なので、何としても販売を拡大したいはずです。しかし、自由診療を保障するがん保険のマーケットに参加する他社が増えてきたため、何もしなければ現状維持すらできない可能性があります。
そこで、新たに法人マーケットに参入することで販売を拡大するために、この自由診療保険メディコムビズという商品を作ったのではないかと思います。
 

 
 

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アクサダイレクト ペット保険の顧客情報漏洩

アクサダイレクトは、ペット保険のシステムの一部が不正アクセスを受け、情報が流出した可能性があることを2025年7月25日に公表しました。
その後、同年10月24日にある程度詳しい情報を第2報として公表しました。
 

ペット保険の経緯

2024年11月末でペット保険から撤退し、現在はアニコム損保の代理店としてペット保険を扱っています。

日付 概要 備考
2011年4月 販売開始した。 ※1
2011年7月 アリアンツ火災海上保険株式会社から同社のペット保険契約を包括移転により継承した。  
2024年6月末 2024年6月末で新規の引受けを停止した。 ※2
2024年7月? 代理店としてアニコム損保のペット保険を取り扱う。 ※2
2024年11月末 2024年12月以降の継続の引受けを停止した。停止後は、アニコム損保のペット保険で引き受けてもらう。 ※2

※1 2011年4月1日公表 https://www.axa-direct.co.jp/company/official_info/pr/2011/110401.html
※2 2024年5月24日公表 https://www.axa-direct.co.jp/company/official_info/pr/2024/240524.html
 

漏洩した可能性のあるデータと所感

2025年3月19日~4月21日の約1か月間、ペット保険のシステムに不正アクセスされ、下表の情報が流出した可能性があるとのことです。

データ区分 件数 漏えいの可能性がある個人情報の詳細
既契約者・被保険者(解約も含む) 約14.3万件 住所、氏名、性別、生年月日、電話番号、メールアドレス、証券番号、保険金給付情報、交渉履歴、金融機関口座情報
見積もりや資料請求をされた方 約39.9万件 住所、氏名、性別、生年月日、電話番号、メールアドレス
賠償責任保険の被害者の方 約1千件 住所、氏名、性別、生年月日、電話番号、メールアドレス、保険金給付情報、交渉履歴、金融機関口座情報
動物医療機関・医療調査業務協力先 約1万件 住所、名称、電話番号、金融機関口座情報
保険代理店 199件 住所、名称、金融機関口座情報

データの内容からして、これらはアクサダイレクトが保有していた契約とそれに関連するものであり、アニコム損保の代理店として扱った契約は含まれていないと考えられます。もし、アニコム損保の契約が含まれていれば、アニコム損保からも何等かの公表があるはずですが、それが一切ないことからも推測できます。
アクサダイレクトからすると、撤退したペット保険に関する諸々のものは、もはや利益をもたらすことはなく、費用負担のみが発生します。
ちなみに、アクサダイレクトの主力商品である自動車保険のシステムについては、不正アクセスによる情報漏洩は起きていないようです。
勝手な想像ですが、ペット保険のシステムには、十分な保守費用をかけていなかったため、セキュリティのレベルが低下して、今回の事態を招いたのではないかと疑っています。
 
公表資料によると、“本件の影響によりお客様の情報が不正利用された事実は、現時点で確認されていません”とのことです。しかし、不正アクセス者の目的が個人情報の搾取としたら、流出した情報は既に売買されている可能性が高く、また、その情報が悪用されてもアクサダイレクトは本件が原因であることの断定はできないのではないでしょうか。
 

 
 

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医療保険の不正請求増加と対策の検討

DIAMOND onlineの2025年10月22日の記事「生保を脅かす保険金の不正請求が急増!海外入院の悪用など手口も巧妙化、「5つの対抗策」と医療保険の今後」に次の内容のものがありました。

コロナ禍以降、入院一時金などを狙った保険金の不正請求が急増。海外入院の悪用などモラルリスクが深刻化している。生保各社は他社加入状況の確認や商品改定で対策を講じているが、このままでは将来、医療保険の保障が縮小する可能性がある。

 

不正請求の手口

記事では、不正請求の手口として次のものを挙げています。

  1. 一時金の保障がある保険に複数加入し、それらから支払を受ける方法。これは、コロナ禍以降、一気に増えたとのことです。
  2. 中国やモンゴルなどの病院に入院して給付金を請求するケース。これは、最近の手口だそうです。

 

不正請求に対する対策

記事では、不正請求の対策として次の5つを挙げています。

A 加入時に他社の加入状況を確認 申込時にLINC照会にて、他社の加入状況を確認し、過大な加入状況が確認されたときは謝絶する。
B 重大事由解除を適用 焼け太りになるような請求があった場合に、重大事由解除を適用する。
C 検査入院を排除 治療を伴わない検査入院については給付金を支払わないことを対外的に明確化する。
D 商品改定 モラルリスクを軽減させる商品改定を行う。
E 商品の売り止め 実績支払率の状況などによっては当該保険商品自体を販売停止する。

C は、約款解釈でやるなら、商品改定をしなくてもいいのですが、従前の扱いを変更するのは公平性の観点で難しいので、約款で明確化するのが無難であり、そうすると金融庁の認可が必要になってきます。金融庁の認可を取るなら、いっそのこと商品改定をした方がよいように思えます。
また、筆者は今後医療保険が次のように変わる可能性があると述べています。

  • 10大疾病など特定の疾病に限定して保障する。あるいは免責とする疾病の拡大。
  • 海外での入院を不担保とし、日本国内の病院や診療所における治療のみ保障。
  • モラルリスクを助長する一時金タイプの保障の縮小改定。
  • 無配当型商品や掛け捨て型商品から、有配当型商品や満期給付金付商品への改定。
  • 死亡保障とのセット販売。

 

損保目線での対抗策

記事では、“比較的低額の給付金請求に対して多額のコストを要した厳格な調査を行うことは現実的ではない”と述べています。私は、比較的低額の給付金しか受け取れない保険の必要性を疑問視しています。低頻度かつ高額ロスこそ、保険で備えるべきものであり、そういうものを対象とする保険なら、厳格な調査を行うことが現実的となります。高頻度または低額ロスを対象とする保険は、あまりリテラシーの高くない消費者に販売しやすく、保険会社も儲けやすいのでしょうが、不正請求を防げない根本的な原因は、ここにあると思います。
そういう視点で、対抗策を考えると次のようなものに行き当たります。

  • 入院または通院を要件とする保険において、入院日数または通院日数が10日以上の場合とする。
  • 医療機関からの請求額が一定額以上の場合のみを支払要件とする。

当然、これらのことをすれば、支払件数は減少します。そして、その分、保険料を低く設定することができます。また、不正請求が減れば、不正請求による保険金増加分の値上げをせずに済みます。
 

 

プルデンシャル生命 営業社員の不祥事

DIAMOND onlineの2025年10月16日の記事「【独自】プルデンシャルがひた隠す「投資トラブル」全6件の全容判明!濱田会長の引責辞任は不可避だった」にて、プルデンシャル生命の営業社員の金銭詐取事案6件がまとめられていました。
 

金銭詐取事案6件

記事で取り上げられていた金銭詐取事案は下表の6件です。

# 発生時期 概要 被害総額
1 2018~2023年 他の金融機関の架空の債券等への投資勧誘を行い、金銭を詐取 1億7000万円
2 1999~2023年 株式等により運用する旨を伝え、金銭を詐取 7億5000万円
3 2019~2023年 自らを資産運用の専門家であると称し、投資目的で金銭を受領  
4 2014~2024年 契約者と多額の金銭貸借を行った他、FXや海外送金投資を勧誘して金銭を受領  
5 2016~2021年 契約者に対し、S社のFX投資等を勧誘  
6 2005~2011年 契約者に対し、B社のFX投資等を勧誘  

記事では、同社の平均年収は約1,100万円であるのに対して、#1~4の4件では当該社員が在籍した期間の平均年収は500~700万円と低いことが不祥事を起こした動機の1つと見ています。
そこで、プルデンシャル生命は、営業成績の低い社員の待遇を悪くする/解雇するという再発防止策を2026年度から導入するとしています。
一方、#5,6は高収入者が起こしている事案ですが、高収入者に対しては転職を恐れて注意できないとのことであり、対策が打てないようです。
 

素朴な疑問

この複数の事案を見て、素朴な疑問があります。
あくまで私個人の想像ですが、こういうことなのでは?と考えてみました。

何故、プルデンシャル生命ではこんなに金銭詐取事案が発生するのか

他の生保でもある程度は、金銭詐取事案は発生しています。しかし、1社でこれほどの件数はないと思っています。
また、この6件はいずれも、保険商品の販売・管理(契約者貸付等)ではなく、投資商品等を口実にしている点が同じです。たまたま、この6人が投資商品等の勧誘していたとは考えにくいです。プルデンシャル生命では、投資商品等の勧誘が恒常的に行われていたのではないかと思われます。
一方、FPを生業としている代理店ならともかく、保険会社に所属している募集人が保険商品以外を販売するのは、一般的とは思えません。投資商品等の金融機関が生保と提携しているならありえますが、その場合は、その金融機関が管理・監督をするはずです。
この違いが、プルデンシャル生命でのみ、このような不祥事が多発する原因ではないかと考えられます。

何故、プルデンシャル生命は金銭詐取事案を防止できないのか

記事を読む限りでは、顧客からの信頼よりも成績優秀者の転職を防止して自社の利益を優先させるという企業風土があるように感じられます。しかも、経営陣がそれを問題視して是正するという動きも感じられません。そういう動きがあるなら、2025年4月11日に報告徴求命令を受けた後で、具体的な対策等を公表すると思うのですが、一切情報公開がありませんでしたから。
 

 

FPパートナーの業務改善計画

FPパートナーは、保険募集業務等に関して2025年8月6日に出された業務改善命令に対して、2025年10月6日に業務改善計画を関東財務局に提出しました。

当社は、2025年8月6日付で受領した行政処分(業務改善命令)に基づき、本日、関東財務局に対して業務改善計画書を提出いたしました。
本事案により、お客さまをはじめ関係者の皆さまに多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを心より深くお詫び申し上げます。当社は本件を厳粛に受け止め、全社を挙げて策定した業務改善計画の着実な実行と再発防止に取り組んでまいります。併せて、業務運営態勢の抜本的な見直しと継続的な改善を通じて、お客さま及び社会からの信頼回復に全力で努めてまいります。なお、当社は今後、当該業務改善計画の進捗状況について、6ヶ月毎に関東財務局に報告してまいります(初回報告基準日:2026年4月末日)。

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柱書

1.経営としての受け止め
当社は2009年12月の創業以来、一貫して「お客さま優先」を経営理念に掲げ、営業担当者がお客さまとご家族の一生涯を保障で守り、安心に満ちた豊かな人生の時間をお客さまと共有するという関係こそ、「本来あるべき保険営業の姿」であるとの考えで、保険募集事業に取り組み保険商品の提案をしてまいりました。しかしながら、後述する「トップライン偏重の組織風土」や「便宜供与に依存する組織体質」といった諸問題が顕在化したため、今般、当社は業務改善命令を受領する結果となりました。当社は今回の行政処分を受領したことの責任を極めて重く受け止めております。
今後当社は、今回の行政処分で受けた指摘と真摯に向き合い、すべての業務態勢を隅々まで見直していかなければなりません。また同時に、当社に根付いた組織体質を見つめ直して正すべきところは正しながら、コンプライアンスを徹底し、お客さま本位の業務運営を再構築し、同時に保険会社とのあるべき関係についても議論を尽くせる風通しの良い組織を創り上げていかなければなりません。そのためには当社の全社員から意見を募り、お客さまや株主、取引先企業の声に耳を傾けて、これらの結果を取締役会に諮るなど、広く関係者の皆さまからご協力を頂くことが不可欠です。
お客さまをはじめ社会の皆さまからの信頼を回復するため、当社はまず、指摘を受けた諸問題の真因分析を行うところから始める必要があります。そこに浮かび上がる幾つか共通した当社のファンダメンタルズ上の課題を冷静に把握し、実現可能な形で解決していくこと、及びそのPDCAサイクルを着実に回していくことに、当社は全力を傾けてまいります。そして、この取組みが当社のみならず保険代理店業界全体の改善につながり、結果として健全な競争環境の構築が促されるよう、改革に取り組んでまいります。
当社は、この取組みを機に今一度「お客さま優先」の経営理念に立ち返り、本業務改善計画の実行に不退転の覚悟で取り組むことを通じて、業界のリーディングカンパニーとして模範的な事業を展開してまいります。

 

不祥事の原因

2.真因分析について
今回の処分に至った各種問題の直接的な原因はさまざまですが、検査の過程を通じて、それらの背景にある当社のファンダメンタルズに関わる「真因」とも呼ぶべき諸課題を認識するに至りました。今後、それらの諸課題について常勤取締役と社外取締役・監査役が取締役会等の場で繰り返し議論を行いながら、業務改善計画に基づく取組みを通じて、更なる「真因」の究明とその改善策について検討を進めてまいります。
(1) トップライン偏重の組織風土
当社は多様なサービスを提供しながら、アフターサービスを通じてお客さまと長期的な関係を構築することで安定的な収益を確保するビジネスモデルの実現に取り組んでまいりました。事業を全国的に展開していく過程では、営業社員の勤労意欲を高く保ち、互いに切磋琢磨する環境を整えることにより、営業社員数の確保に努めてまいりました。それが順調に進んだ結果、当社は2022年9月に東京証券取引所グロース市場に上場した後、翌年9月には同取引所プライム市場に市場区分を変更したところにも顕れているとおり、近年急速にその事業規模を拡大しました。この過程において、少子高齢化の進展、規制強化等による廃業代理店の増加、そして代理店業界内競争の激化を背景に、いつしか事業規模の拡大による成長志向に傾くようになっていました。これにより、営業活動を優先するあまり事業規模の拡大に応じた内部管理態勢の整備を怠り、多数の営業社員が退職する実態を看過し、取締役会の活性化に向けた取組みも不十分にとどまるなど、トップライン偏重の組織風土が弊害を及ぼすようになったものと考えております。
こうした内部管理態勢に関する弊害について、以下、より具体的に説明します。
① コンプライアンス態勢の脆弱性
当社の組織構成上、保険募集時における比較推奨手続きの適切性確保は本来、第一線である支社・各統括部が担い、両組織を所管する営業本部がこれらを指導監督することになっています。しかしながら、前述のとおりトップライン偏重の組織風土があったため、営業本部の所属社員の間には営業推進の意識が強く、第一線を指導監督する役割を担うとの認識が薄い面がありました。このため、営業本部が営業現場のコンプライアンスの状況を十分に把握できていない実態がありました。
また、第一線と第二線の役割分担が社内規程で明確に定められないまま、例えば比較推奨履歴の入力状況を管理する業務を営業本部と業務品質部で譲り合う形になってしまったり、あるいは推奨商品群に係る本社内の意思決定を牽制する機会が第二線を担うべき部門に与えられていなかったりするなど、意向把握・確認及び比較推奨を含めコンプライアンスの状況全般の確認・検証が、営業現場のみならず本社内においても疎かになっている実態がありました。
このような事態を招いた要因の一つには、営業本部内における管理部門の未整備や業務品質部等の人員不足があると考えられます。経営資源の配分先ウェイトは会社の成長に伴って変化するものであり、適時適切に判断すべきと考えられますが、そもそも2016年の保険業法改正以来、「規模が大きい特定保険募集人」に該当する当社には、保険業法等に基づくさまざまな態勢整備義務が課せられています。しかしながら、事業の拡大に注力するあまり、当社では管理部門よりも営業推進部門への人員配置を優先する傾向がありました。今後、管理部門の強化に一層取り組んでいく必要があると考えます。
② 取締役会に対する常勤取締役・執行部側の機能不全
当社の最高意思決定機関である取締役会は、現在、4名の社外取締役を含む計10名により構成されています。社外取締役・社外監査役はそれぞれが独自の専門性を持ち、高い見地から当社の経営全般について助言を行っていますが、その能力を存分に発揮させるには、取締役会運営事務局や常勤取締役からの十分な支援が不可欠です。
ところが実際には、取締役会における社外取締役からの重要な指摘事項が当社の業務運営に適切に反映されていないケースや、出された質問や意見に対して的確な回答がなされず、事後の対応さえ失念するというケースが散見されるなど、取締役会のPDCAサイクルを着実に管理すべき取締役会運営事務局がうまく機能していない実態がありました。この主な原因としては、前述のトップライン偏重の組織風土のため、取締役会運営事務局への人的資源配分が遅れていたことが挙げられます。また、常勤取締役には、取締役会運営事務局を側面から支援する姿勢や取締役会で出された意見を真摯に受け止める姿勢が欠けていました。
(2) 便宜供与に依存する組織体質
前述のとおり、当社は近年急速に事業規模を拡大しました。現在では保険販売代理店業界の中でも訪問型の乗合代理店としては最大手となるまでに成長しています。この過程において、各保険会社には当社業績獲得への強い期待があり、各社が当社の販売チャンネルを奪い合うような状況が生まれました。各社が当社に対して便宜供与を競い合う中で、いつしか当社もそのような状況を当然のことと思い込み、従来の慣例や他社の対応状況も鑑みて便宜供与との認識がないまま、便宜供与を安易に許容したり求めたりするようになり、結果として便宜供与に依存する組織体質になってしまったものと考えております。
このような組織体質が定着していく過程で、業務の執行状況が十分に検証されませんでした。とりわけ、保険会社とのあるべき関係性を検討することなく、便宜供与に依存する組織体質に変化していく状況に気づけませんでした。以下ではその背景にある当社の諸問題について説明します。
① 縦割りの経営意思決定プロセス
常勤の各取締役は会社の経営に共同責任を負っています。この責任を遂行するためには経営に関する十分かつ正確な情報を共有する必要があります。しかしながら、当社の取締役間における情報共有の状態は共同責任をまっとうできるほど十分ではありませんでした。
当社では創業時から、限られた人的リソースとコスト制約の下、事業運営には迅速な判断と実行が求められていました。
事業運営の意思決定に際しては代表取締役社長と各管掌取締役の間で相談や検討を行い、両者の意見交換を経て意思決定するという縦割り方式がとられ、事業を運営していく上で大きな効果を発揮してきました。
しかしその半面、意思決定プロセスにおいて管掌外取締役の意見を取り入れる機会が乏しくなっていました。例えば、後述の(2)②にあるとおり、保険会社に直接対応した代表取締役社長便宜供与受入れの方針を営業担当取締役と検討して合意すれば、事実上、社内方針として決定したものと取り扱われていました。つまり、事案の意思決定に際して、管掌外取締役に対しては、当該事案は代表取締役社長承認済みの決定事項として事後的に伝達されるだけの仕組みになっていたということです。結果的に管掌外取締役は、事後では意見提案する余地がないため、既決定事項であれば同意せざるを得ないと認識するようになっていきました。このため各取締役の間には、事前合意なき決定事項を自分事として捉えず、主体的に経営の共同責任を果たそうともしなくなる傾向が生じました。結果として、取締役会においても、付議事項について管掌外となる取締役はその決議に際して自ら積極的に発言する機会が少なくなっていました。
なお、社外取締役は取締役会の決議事項について、問題点を発見した際には的確に指摘して事案の再考を促す務めを十分に果たしておりましたが、多くの場合、不適切と思われる事案の取下げを促すまでには至っておりませんでした。
本来、経営上の意思決定には法令等の遵守や事業計画との整合性など多角的なリスク検証が必須であるため、各取締役の担当業務を取締役間で相互監視する枠組みを機能させる必要があります。今後は縦割り方式を廃し、各取締役の意見表明からリスク認識を経て合意形成を図れるよう、経営上の意思決定プロセスの改善を行い、各取締役が共同責任を果たせる会議体のあり方を検討・実現する必要があると考えます。
② 保険会社との関係性
こうした環境の下、保険会社との関係性についても問題が生じました。当社は、月次業績の定例報告や業績向上に向けた施策実行の提案を主たる議案として各保険会社と打合せを行っています。その際当社は、従来の慣習を形式的に踏襲して、保険会社がこの打合せの対応者として代表取締役社長を指名することに応じるケースが少なからずあったと認識しています。結果、当社の営業部門管掌取締役は主に社内営業部門を統括し、代表取締役社長は主に保険会社対応をするという分担が自ずと出来上がってきましたが、適切性の観点からは、代表取締役社長が単独で保険会社に対応することは妥当でなかったと考えます。
相手方への配慮から営業担当取締役等の同席は見送るにせよ、本来ならば打合せ後に、代表取締役社長から営業担当取締役等に対して商談内容の確認や情報共有を行うべきでしたが、これも定例的には実施されていませんでした。保険会社対応を代表取締役社長に一任し続けるべきかどうか検証する機会を失い、そのなかで決まった便宜供与が、社会通念上許されない過度な便宜供与に該当し得るとのリスク認識を共有できないまま、これが常態化していきました。その結果、保険会社との適切な関係のあり方についても、検討・検証する機会を失してしまいました。
今後、保険会社との間に適切な関係を構築していくため、まずは保険会社との面談は常勤取締役等による対応を原則とし、その面談内容を社内で速やかに共有するとともに、そのなかで示された重要事案は3.(5)2にある常勤取締役論議を改組した正式な意思決定機関で審議する態勢を創り上げる必要があると考えます。
③ 推奨商品選定のあり方
当社は推奨販売の方法について、基本的には、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号に規定する、所謂ハ方式を選択しておりました。具体的には、お客さまの現状や課題を伺った上で、まず当社が予め選定した推奨商品群とその推奨理由を説明し、次にお客さまのご意向を把握し、それに沿った商品を推奨商品群の中から選定・提示しておりました。なお、推奨商品群の中にお客さまのご意向に沿った商品が無い場合は、当社の取扱商品全体からお客さまのご意向に沿った商品を選定・提示するという、上記規則に規定する所謂ロ方式をとっておりました。
しかしながら、この推奨方法の前提となる推奨商品群の選定基準には不明瞭な部分がありました。具体的には、現在、当社の「商品推奨販売に関する規程」別表2には、以下の選定基準が定められています。
 1.商品優位性および顧客への訴求力
 2.保険会社の業績・信用力の状況
 3.保険会社の営業支援体制・企画提案力の状況
 4.共同募集代理店の推奨商品選定基準に基づく推奨状況
しかしながら、3.の「営業支援体制」がどの程度の支援水準まで許容され得るのか、あるいは4.の基準が具体的に何を意味するのか、といった点で明確ではありませんでした。加えて、営業現場の評価や付帯サービスといった多面的な評価に欠ける面がありました。これらが便宜供与を許容する余地を生み出したことは否めません。
また、取締役会に推奨商品の選定を諮る際に、営業本部担当取締役から客観的かつ網羅的な視点からの選定理由が説明されておりませんでした。本来であれば、商品性比較一覧表のような客観的資料を用いながら、前述の選定基準すべてに照らしつつ、お客さまにとって最善となる商品性の比較検討をするべきところ、営業本部が十分な客観的データを準備できていなかったため、推奨候補となる商品毎に着眼点の異なる粗雑な説明にとどまっていました。
他方、(2)②で述べた保険会社との関係が醸成される中、当社業績に貢献度の高い保険会社の商品を取り扱えるよう、前述の選定基準3.に重点を置いた推奨商品案を許容する風潮が常勤取締役の間に生じました。本来ならば、過熱する便宜供与について立ち止まって再考し、検証の機会を設けるべきでしたが、従来の実務の繰り返しに甘んじて、これが常態化してしまいました。
今後、推奨商品の選定基準を明確にするとともに、多面的な評価を行い、過度な便宜供与を除外できるように見直し、取締役会等での選定に際しては客観的かつ網羅的な説明が行われるよう態勢を整備する必要があると考えます。
(3) 社内規程類の不備等
当社における規程類の整備状況をみると、主に2018年から2019年にかけて規程の新設が進められています。これは当社の事業規模が大きく拡大した時期と重なります。ところが、(1)①で述べた脆弱なコンプライアンス態勢の影響もあり、規程内容の不備や規程間の不整合といった問題が解決されないまま今日に至っています。社内規程類の改訂に手が行き届かなかったために、判断基準のあいまいなまま業務が執り行われ、結果として推奨商品の選定に歪みが生じた面もあったと考えています。
また、社内規程はあっても、それを解りやすい形でマニュアル化した資料を作成し、営業社員の間に各種ルールの運用方法を浸透させる取組みも不足していました。その結果、営業現場における法令等遵守の徹底が十分に図られていなかったと言わざるを得ません。この背景には、管理部門の人員不足だけでなく、第一線と第二線の役割分担が明確でなく、互いに協力し合って営業現場に対応できなかったという状況があったことも否めません。
さらには、マニュアル等に定められた各種施策の実施に必要な計画・実行・評価・改善(PDCAサイクル)の実施方針が策定されていないため、例えば、重要施策の実施状況や検証結果が取締役会に定期的かつ総覧的に報告されず、取締役会のチェック機能が十分に働かないケースも発生しておりました。
今後は、改めて社内規程類の整備を進めるとともに、その内容を営業現場へ浸透させるよう積極的に取り組み、施策のPDCAサイクルを管理する枠組み作りを推進していく必要があると考えます。
(4) 人材採用・育成に向けた意識の欠如
営業社員の採用面では、(1)で述べたトップライン偏重の組織風土のため、当社への応募者数が急増する実態に見合った人材開発部への人的資源配置が遅れた結果、同部はリクルート活動や採用手続きで手一杯となり、組織的な審査態勢が構築できておりませんでした。このため採用基準の適切な運用が徹底できず、採用担当者の属人的な判断により営業社員の採用が行われていました。これが多くの営業社員の退職を招いた一因であったと考えます。また当社は元々、リーズ案件を営業社員に配信することで、未経験者にも採用の間口を広げることが可能と考え、採用を拡大して営業社員数を増加させてきましたが、採用時の審査と退職時の検証を十分に行っていなかったことが、保険業界でも同様との思いもあったことと併せて、大量退職の継続を容認してしまった原因であると考えます。この背景には、退職を選択する営業社員は新規採用によって補充すればよいという考えがありました。
他方、営業社員の育成面においては、長期的・計画的な研修方針の策定や研修効果の検証等が実施されていなかったため、研修の改善が遅れて効果的な社員教育に取り組むことができず、営業活動の中でお客さまの信頼を損ねる面があったと認識しております。当社では以前から、支社単位で自主的に実施されている相互研鑽による営業社員育成(所謂「教え合う文化」)に強い信頼が寄せられていた反面、それに頼り過ぎた結果として、営業支援部は本社主導で全社的な研修の枠組みを作る取組みを怠り、同部が実施する募集人教育業務の適切性を検証していませんでした。
また、人材育成の問題は経営陣の中にもあったと考えています。同質な経歴を有する社員が、ジョブローテーションや研修を通じて多様な経験を積むことなく、企業運営に疎いまま幹部に登用されたため、経営の意思決定の場で必要な役割を果たせていなかったという面も否めません。
企業で永く働く者はともすれば業界慣習や社内文化に囚われ視野が狭くなりがちですが、当社の常勤取締役は今回の事態に危機感を持ち、自らの職務遂行状況が適切であるかどうか客観的に振り返る機会を努めて確保すべきと考えます。社外研修への参加などを通じて取締役に求められる責任の重さについて認識を新たにし、果たすべき責務を学べるような、機会の創出が必要であると考えています。
(5) 組織構成・運営上の問題の未解決
① 常勤取締役の職務兼任の問題
本来、経営上の意思決定に際しては、法令等遵守、収益性、事業成長への影響等といった多面的観点から、客観的事実に基づいてリスクベースで検討・検証を繰り返しながら、最適な解を模索すべきものです。しかしながら、当社は代表取締役社長を除く5名の常勤取締役のうち4名が執行部門長を兼任しています。
このため、事案の検討にあたり、兼任する部長職の立場で発言する取締役に対して、他の取締役が厳しい意見を率直に言い難い状況が発生するなど、担当部長としてのパフォーマンスが正しく評価されない場面がみられます。また、自らが兼任する部長職の立場に拘泥するあまり、一段視点の高い立場から意見が言い難くなるなど、取締役としてのパフォーマンスが十分に発揮できないケースもあります。忖度や保身を排し、広く意見を募って適切な合意形成を促すためには、取締役の部長職兼任を解消することが望ましいと考えられます。
② 取締役会の前捌き段階にある会議体の機能不全
(2)①で述べたとおり、常勤の各取締役は会社の経営に共同責任を負っている以上、経営に関する十分かつ正確な情報を互いに共有する必要があります。しかしながら当社では現状、各取締役が自らの職務の執行状況について、他の取締役と十分な情報共有に努めていない実態があります。当社ではこれまで取締役間の事前相談の場として、「常勤取締役論議」という会合が毎週開催されてきました。しかしながら、日頃の情報連携が不十分なために同会合の機会を必ずしも十分に活用できていません。同会合において検討が行われる際も、事前の情報共有がないため、相互に協力する方法の模索やリスク認識の共有・理解が不十分なまま議論が漂流する傾向がみられます。既に顕在化しているリスクについて問題提起があっても、指摘された側の者が十分な説明を行わないまま議論が終結し、再検討の機会さえ設けられないケースがあります。こうした各取締役の姿勢は組織の連携を弱体化・硬直化させ、相互協力の阻害要因となっています。
また常勤取締役論議においては、取締役会に上程される議案の選別や説明資料の吟味が十分に尽くされていないため、取締役会の決議事項が無用に多くなったり、論点整理がなされていない資料を提供されたりした結果、取締役会で十分な審議が確保できなくなるケースがありました。本来、取締役会における審議は経営上の重要な判断事項に特化すべきと考えられることから、取締役会に上程される議案を、質・量両面で改善していく必要があります。
このため、常勤取締役論議を社内規程に基づく正式な意思決定機関に改組し、その機能や構成員を見直して、運営事務局を定め、取締役会に上程する必要のない議案については同機関で最終的な意思決定を行わせるという方向で検討を進めます。
③ 監査役会と取締役会等のコミュニケーション不足
当社の「監査役監査基準」第37条は、監査役会は監査方針を立て、監査計画を作成し、監査方針及び監査計画を代表取締役社長及び取締役会に説明することを規定しています。しかしながら、監査役会は監査方針及び監査計画を作成し、代表取締役社長に対してこれらを説明するにとどまり、取締役会に対しては2024年11月期まで同説明を行っておりませんでした。
また、2024年11月期まで監査役会と常勤取締役との間には、定例的な情報共有の場が設けられておりませんでした。このため、両者の間にコミュニケーション不足が発生し、率直な意見交換を通じて互いの状況を共有し、当社の経営課題について自由闊達に論議することができておりませんでした。現在では、こうした状況を改善すべく監査役会は取締役会に監査方針及び監査計画を報告するとともに、常勤取締役との意見交換会も開始されたところであり、現態勢では正常化に向けた取組みが進んでいます。

 

業務改善計画

3.業務改善計画の概要
1.でも述べたとおり、当社はこれを機に今一度「お客さま優先」の経営理念に立ち返り、業務改善計画の実行に不退転の覚悟で取り組むことを通じて、業界のリーディングカンパニーとして模範的な事業を展開してまいります。その具体的な取組み内容を以下に記します。
また今後、業務改善計画の更なる具体化を図り、個々の業務改善策を着実に実行していくため、新しい会議体を設置することとします。この会議体では、個々の業務改善策の実効性を検証し、不断の改善に取り組むとともに、広く社員の声を採り入れながら議論を進めてまいります。そのため、まずは個々の業務改善策を検討するワーキンググループを設置し、一般の社員が中心となって当該検討を進めてまいります。その検討結果を集約して業務改善策の立案・実施の監督を担当する会議体の設置等、業務改善計画の実行枠組み全体のあり方については、外部の視点の導入も含め、今後、早急に検討してまいります。
(1) 今回の処分を踏まえた経営責任の所在の明確化
この度の業務改善命令を厳粛に受け止め、以下のとおり役員報酬の自主返納を実施いたします。これまでの取締役会の機能発揮状況に鑑み、社外取締役も一定の責任を果たすべきとの結論になりました。

役職 返納内容
代表取締役社長 月額報酬30%×3ヶ月
常勤取締役 月額報酬30%×2ヶ月
社外取締役(※) 月額報酬30%×1ヶ月

(※)対象社外取締役から田中尚幸氏(2025年2月着任)は除きます。
(2) 当社のビジネスモデルの特性に応じた適切な保険募集管理態勢の確立(顧客本位の業務運営の観点から、保険会社と保険代理店との適切な関係性の構築の推進に係る方針及び具体的な方策を含む)
活発な営業推進態勢とバランスのとれた適切な募集管理態勢を構築するためには、まず取締役会によって推奨商品の選定や人的資源の配分が適切に行われることが重要であると考えております。
また、乗合代理店と保険会社との関係はどうあるべきか、真摯に検討を重ねて結論を得ることは、適切な募集管理態勢の大前提であるとも考えております。「お客さま優先」の経営理念に違わぬよう、保険会社と保険代理店との適切な関係性の構築を推進していく所存です。
こうした観点から、今後、以下の取組みを着実に進めてまいります。
なお、保険募集事業をめぐる環境の変化に応じて、今後、社員の働き方も含め当社ビジネスモデルの再検討が必要であると考えます。

項番 項目 実施概要 実施時期
1 取締役会における推奨商品群の選定プロセスの見直し 推奨商品群の選定に際しては、常勤取締役が各対象商品の特徴、商品優位性、販売動向、営業現場の評価、付帯サービス等について十分に比較検討した上で、これらの客観的情報に基づく検討資料を用いて取締役会に諮り決議を得るよう、その選定プロセスを見直す。
上記見直しを実施するため、「商品推奨販売に関する規程」を改正し、推奨商品群の選定にあたっては必ず客観的な理由に基づき、恣意的な判断はしない旨明記するとともに、推奨商品群の判断基準そのものも、過度な便宜供与を除外できるよう見直しを行う。
上記規程に基づく適正な選定が行われていることの事後検証を行う態勢を整備する。
2025年度に開始
2 保険会社との関係性の再構築 当社と各取扱保険会社の間で適切な関係のあり方について意見交換を行う。この結果を踏まえ、「過度の便宜供与に係る判断基準」を当社規程に定めるとともに、その実効性確保のためPDCAサイクルを実行する。
保険会社との面談は常勤取締役等による対応を原則とし、その面談内容を社内で速やかに共有するとともに、そのなかで示された重要事案は3.(5)の項番2にある常勤取締役論議を改組した正式な意思決定機関で審議する態勢を創り上げる。
2025年度に開始
3 第二線の態勢強化 第二線としての業務品質部の機能を強化するため、モニタリング業務や苦情管理業務を中心に必要な人員を確保する。 2025年度に開始
4 営業社員の採用の適正化 営業社員としての資質を客観的に確認するための評価項目を記載した「適性チェックシート」により人物評価を行う。
採用面談時と入社後で活動イメージのギャップを発生させないための説明資料を作成する。
資料説明で伝えるべきポイントをスクリプト化し、説明内容を均一化する。
「当社報酬制度の理解」や「パソコン・携帯電話の操作スキル」等の確認項目を採用候補者に自ら記入・申告させることにより、総合的な適性を判断する。
「支社長の1次面談」「2次面談に繋いだ数」及び「採用稟議提出数」を管理することで、採用情報源が支社となる採用候補者の絞り込みの実効性を検証する。
入社から1年以内で退職する短期退職者の把握・分析を行う。
2025年度に開始

(3) 顧客に対する情報提供義務(保険業法第294条)、意向把握・確認義務(同法第294条の2)を着実に実施するための実効的な態勢の確立
お客さまへの情報提供義務や意向把握・確認義務を果たすことは、募集人にとって当然の責務であるにも関わらず、この点について第一線による営業現場の実態把握・指導・監督が徹底されておりませんでした。
こうした観点から、今後、以下の取組みを着実に進めてまいります。

項番 項目 実施概要 実施時期
1 第一線の構築 営業本部管下に、営業推進担当者に加えて営業管理担当者を選任する。営業管理担当者は第一線としての比較推奨関連規程を整備し、自らの役割・権限・責任を明確にする。
適切な意向把握・確認や比較推奨販売、レポートの入力を解説するモデル動画と確認テストを作成する。
営業推進担当の執行役員においても営業管理担当者と打合せの上、ブロック毎に支社長等向け研修・改善指導・改善面談を企画する。
2025年度に開始
2 比較推奨に係る規程類・研修態勢の整備 募集人が顧客の意向に沿った商品を選定する際の基準や、商品を絞り込む際の客観的かつ具体的な手続き・理由説明など、比較推奨販売を行う上での実務的な対応方法について、規程・マニュアルを作成するとともに研修を実施する。保険業法等の改定時に、規程・研修・マニュアル・システムが保険業法等に合致しているかを検証する。
営業社員の商品販売知識の均一化を図るため、研修プログラムを改定する。取扱保険会社の商品研修教材を整備し、営業社員に対して定期的に商品理解度テストを実施する。新商品取扱や商品改定があった場合は速やかに研修教材を整備し直し、研修を実施する。保険業法等の改定時は、改定されたマニュアルに基づき、研修内容を変更して実施する。
2025年度に開始
3 顧客管理システムの改善 ①顧客管理システムの入れ替え(株式会社hokan)により、改正保険業法に即した意向把握・確認や商品提案をお客さまの面前で確認できるようにしていく。また、営業社員の活動状況を網羅的にモニタリングできるようにしていく。
②hokanの顧客管理システム導入前にも、現行の顧客管理システム(Hyper Agent)において、意向把握・確認や比較推奨の手続き見直し、及びその実施状況のモニタリングのための改修を行う。
①2025年度に開始
②2025年8月に完了
4 意向把握・確認及び比較推奨の実践推進 Hyper Agentにレポート入力がなされていない契約を抽出し、当該対象者に対して指導を行うとともに、その改善状況を追跡調査する。改善がみられない場合は、対象者やその支社長に直接ヒアリングや研修を実施して改善を図る。
意向把握・確認及び比較推奨の観点から、不適切な募集プロセスが疑われる契約についても、前述と同様のモニタリングや改善措置をとる。
第一線と第二線の連携確保のため、営業本部と業務品質部との意見交換会を定期的に開催する。意向把握・確認及び比較推奨の実施状況に関する懸念事項、モニタリング結果等について確認し課題を抽出し、改善策を検討の上、これを実行していく。
2025年度に開始
5 重要事項説明の適切な実施に向けた措置 モニタリングにより、重要事項説明を十分に行っていない疑義のある営業社員を抽出して、ヒアリングと指導を行う。
重要事項説明に関する知識付与・説明手順・レポート入力について、全営業社員に研修を実施する。
2025年度に開始

(4) 適切な保険募集を行うための法令等遵守態勢の確立
比較推奨や意向把握・確認を含め、関係法令等に規定された諸ルールの遵守は募集人にとって必須事項ですが、そのサポートあるいはチェックのための態勢が不十分であったことは否めません。
こうした観点から、今後、以下の取組みを着実に進めてまいります。

項番 項目 実施概要 実施時期
1 保険業法第300条第1項第5号の法令に違反する当社営業社員の本人契約への対応等 当社規程類を改訂し、営業社員が実態として保険契約者等への保険料の割戻しに該当すると判断される本人契約及び家族契約を取り扱う場合、当社が受領した代理店手数料を営業社員に支払わないこととすることで、法令違反が発生し得る状態を是正する。 2025年9月に完了
2 苦情管理態勢及び不祥事故対応態勢の再構築 苦情の定義を定め、その取扱い手続きを具体的に解説するマニュアルを作成し、広く営業社員等に周知徹底する。また、不祥事故疑義案件に対する初動対応や原因分析の心得、再発防止への取組み等、問題事案への対応方法を具体的に解説するマニュアルを作成する。 2025年9月に完了
3 内部監査態勢の強化 内部監査部が提言した主管部門による具体的取組みのスケジュールに遅延等が発生した場合、理由を深掘りして円滑にPDCAサイクルを回すというフォローアップの強化等に取り組む。
また、同部の各種取組みの実効性を高めるための各種方策について、取締役会と監査役会が連携して検討する。
2025年度に開始
4 募集人教育の計画的実施 募集人教育の方針及び長期計画等を策定し、これに基づく営業社員向けの年間研修計画に従い、当社の推奨外商品群を網羅的に学ぶカリキュラムを含む研修を実施する。さらに、その効果検証を行って、結果を四半期毎に取締役会に報告することによりPDCAサイクルを確保する。 2025年度に開始
5 各種モニタリングの実施 「早期消滅モニタリング」や「意向把握・比較推奨モニタリング」など、「適合性の原則」や「顧客等の最善の利益の勘案」の観点から必要となる各種モニタリングに順次取り組む。その前提として、モニタリングの専担部門を業務品質部に設置する。 2025年度に開始

(5) 上記を着実に実行し、定着を図るための経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化
適正な企業活動を継続していくためには、取締役会による経営全般に対するガバナンスを強化し、経営の基盤に根づくさまざまな問題点を発見し、これを是正することが不可欠です。
こうした観点から、今後、以下の取組みを着実に進めてまいります。

項番 項目 実施概要 実施時期
1 取締役会の運営改善 取締役会運営事務局へ人的資源を配分等し担当能力を増強する。
取締役会における意見、指摘事項を事務局がまとめて一覧化し役員間で共有し、四半期毎に一覧記載事項の棚卸を行う等、案件滞留を解消する。
取締役会決議を求めるに至った背景、他の選択肢とそれぞれのメリット・デメリット、選択理由が取締役会に対して明示され、それらに沿った議論と判断が行われる仕組みを構築する。
企業内統治の重要性や心構えに関する研修を常勤取締役に受講させる。
2025年度に開始
2 経営陣による経営方針決定機関「経営会議」の新設 常勤取締役論議を社内規程に基づく正式な意思決定機関「経営会議」(仮称)に改組する。その際、同機関の機能や構成員を見直して、取締役会に上程する必要のない議案については同機関で最終的な意思決定を行わせるなどの取組みにより、取締役会に上程される議案を質・量両面で改善していく。 2025年度に開始
3 常勤取締役と執行役員の役割分担の見直し 取締役間の議論に際して、忖度や保身を排し、広く意見を募って適切な合意形成を促すために、取締役の部門長兼務を解消する。 2025年度に開始
4 経営管理態勢強化の前提条件の整備 各種の社内規程類を整備し直し、IT技術を活用して管理業務の効率化を進め、ジョブローテーションや研修等を通じて内勤社員(含む経営陣)の育成を図るなど、適切な経営管理の前提となる社内管理態勢の充実を段階的に進める。 2025年度に開始
5 全社員のエンゲージメント向上・人的資本の活用 全社員に対してアンケートを実施して、今回の行政処分で指摘を受けた当社の諸課題について意見を集約し、それらの背景にある当社の組織体質や制度、人事、慣習、その他ファンダメンタルズに関わる問題点を洗い出す。 2025年度に開始

 

 

保険業法施行令改正案(2025年)

金融庁は、2025年9月30日に「令和7年保険業法改正に係る政令(案)に対するパブリックコメントの実施について」にて、保険業法施行令の改正案を公表しました。
 

改正内容

主な改正内容は次の2点です。

  • 改正法において措置された特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する体制整備義務と同様の体制整備義務を、大規模な乗合代理店である生命保険募集人に対して措置
  • 保険仲立人の活用促進に向けた対応として、保険仲立人の保証金の最低金額等を引下げ

また、軽微な改正として、保険業法第100条の2の2(顧客の利益の保護のための体制整備)に第2項が挿入されたことで繰り下げが生じた項番号の対応や漢字表記への変更(“てん補”→“填補”)があります。
 

体制整備義務に関する変更

保険業法施行令第40条(生命保険募集人に係る制限が適用されない場合)が次のとおり改定されます。これによって、保険業法第282条(生命保険募集人に係る制限)第3項の適用範囲が狭まります。

現行 改正
(生命保険募集人に係る制限が適用されない場合)
第40条 法第282条第3項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一・二 (略)
(生命保険募集人に係る制限が適用されない場合)
第40条 法第282条第3項に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当する場合(当該生命保険募集人が法人(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)であって各事業年度における所属保険会社等から保険募集の業務(法第294条の3第1項に規定する保険募集の業務をいう。)に関して受領した手数料、報酬その他の対価の額が内閣府令で定める額以上であることその他内閣府令で定める要件に該当する場合にあっては、当該各号に掲げる場合のいずれかに該当し、かつ、当該生命保険募集人が、内閣府令で定めるところにより法第294条の4各号に掲げる措置に準ずるものとして内閣府令で定める措置を講ずる場合)とする。
 一・二 (略)

ちなみに、保険業法第282条(生命保険募集人に係る制限)は、次のとおりです。

(生命保険募集人に係る制限)
第282条 生命保険会社(外国生命保険会社等を含む。以下この編において同じ。)又はその委託を受けた者は、他の生命保険会社の生命保険募集人に対して、保険募集の委託又は再委託をしてはならない。
2 生命保険募集人は、他の生命保険会社の役員若しくは使用人若しくはこれらの者の使用人を兼ね、又は他の生命保険会社の委託若しくはその委託を受けた者の再委託を受けて保険募集を行い、若しくは他の生命保険会社の委託若しくはその委託を受けた者の再委託を受けて保険募集を行う者の役員若しくは使用人として保険募集を行うことができない。
3 前2項の規定は、生命保険募集人が2以上の所属保険会社等を有する場合においても、その保険募集に係る業務遂行能力その他の状況に照らして、保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして政令で定める場合には、適用しない。

また、法第294条の4とあるのは、今般の保険業法改正で新設された以下の内容です。

(特定大規模乗合損害保険代理店の業務運営に関する措置)
第294条の4 特定大規模乗合損害保険代理店(損害保険代理店のうち、2以上の所属保険会社等を有する法人であって各事業年度における所属保険会社等から保険募集の業務に関して受領した手数料、報酬その他の対価の額が内閣府令で定める額以上であることその他内閣府令で定める要件に該当するものをいう。第二号及び第四号において同じ。)は、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 保険募集の業務を行う営業所又は事務所ごとに、当該営業所又は事務所において保険募集の業務を行う役員又は使用人に対し、これらの者が法令等(法令、法令に基づく行政官庁の処分又は定款その他の規則をいう。次号において同じ。)を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者(同号において「法令等遵守責任者」という。)を設置すること。
二 本店又は主たる事務所に、法令等遵守責任者を指揮するとともに、特定大規模乗合損害保険代理店の役員又は使用人に対し、これらの者が法令等を遵守して保険募集の業務を実施するため必要な助言又は指導を行う者を設置すること。
三 保険募集の業務に係る苦情を受け付けるための体制の整備、当該苦情の処理に関する記録を作成しこれを保存することその他の保険募集の業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置として内閣府令で定める措置
四 第100条の2の2第2項に規定する兼業特定保険募集人である特定大規模乗合損害保険代理店にあっては、次に掲げる措置
イ その行う保険募集の業務以外の業務(第100条の2の2第2項に規定する保険募集の業務以外の業務をいい、保険金の支払の請求に関するものに限る。以下この号において同じ。)が保険金の支払に不当な影響を及ぼさないよう適切に監視することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務により当該特定大規模乗合損害保険代理店又はその所属保険会社等が行う保険関連業務に係る顧客の利益が不当に害されることを防止するために必要な措置として内閣府令で定める措置
ロ その行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情を受け付けるための体制の整備、当該苦情の処理に関する記録を作成しこれを保存することその他の当該特定大規模乗合損害保険代理店が行う保険募集の業務以外の業務に係る苦情の適切かつ迅速な処理を確保するために必要な措置として内閣府令で定める措置
五 その他内閣府令で定める措置

 

保険仲立人の保証金の最低額のを引下げ

保険業法施行令の以下の2千万円の箇所が1千万円に変更されます。

(保証金の額)
第41条 法第291条第2項に規定する政令で定める保証金の額は、2千万円とする。ただし、保険仲立人の最初の事業年度終了の日後3月を経過した日以後においては、当該保険仲立人の各事業年度開始の日以後3月を経過した日(次条及び第44条において「改定日」という。)から当該各事業年度終了の日後3月を経過する日までの期間を対象とする保証金の額は、当該各事業年度開始の日の前日までの過去3年間に当該保険仲立人が保険契約の締結の媒介に関して受領した手数料、報酬その他の対価を合計した金額(当該金額が2千万円に満たない場合は2千万円とし、当該金額が8億円を超える場合は8億円とする。)に相当する額とする。

(保証金の一部に代わる保険仲立人賠償責任保険契約の内容等)
第44条 保険仲立人は、法第292条第1項の保険仲立人賠償責任保険契約(次項において「賠責保険契約」という。)を締結する場合には、損害保険会社その他内閣府令で定める者を相手方とし、その内容を次に掲げる要件に適合するものとしなければならない。
 一~五 (略)
2 前項の賠責保険契約を締結した保険仲立人が法第291条第1項の保証金の一部の供託をしないことができる額として内閣総理大臣が承認することができる額は、当該保証金の額から2千万円を控除した額に相当する金額を限度とする。

 

項番号の繰り下げ対応

上記で、軽微な改正と書いた項番号の繰り下げ対応の元となったのは、保険業法第100条の2の2(顧客の利益の保護のための体制整備)の以下の箇所です。第2項の新設によって、従来の第2項と第3項が繰り下げられました。

(顧客の利益の保護のための体制整備)
第100条の2の2 保険会社は、当該保険会社、当該保険会社を所属保険会社等とする兼業特定保険募集人又は当該保険会社の親金融機関等若しくは子金融機関等が行う取引に伴い、当該保険会社、当該兼業特定保険募集人又は当該子金融機関等が行う保険関連業務(第97条、第98条及び第99条(これらの規定を第199条において準用する場合を含む。)の規定並びに他の法律により保険会社又は外国保険会社等が行うことができる業務をいう。以下同じ。)に係る顧客(当該兼業特定保険募集人にあっては、当該保険会社から委託を受けた業務に係る顧客に限る。)の利益が不当に害されることのないよう、内閣府令で定めるところにより、当該保険関連業務に関する情報を適正に管理し、かつ、当該保険関連業務の実施状況を適切に監視するための体制の整備その他必要な措置を講じなければならない。
2 前項の「兼業特定保険募集人」とは、第276条に規定する特定保険募集人のうち、第294条の3第1項に規定する保険募集の業務以外の業務(当該業務の対価にその所属保険会社等から保険契約に基づき支払われる保険金が充てられる業務であって当該保険金の支払に不当な影響を及ぼすおそれがある業務として内閣府令で定めるものに限る。)を行う者をいう。
 第1項の「親金融機関等」とは、保険会社の総株主の議決権の過半数を保有している者その他の当該保険会社と密接な関係を有する者として政令で定める者のうち、保険会社、銀行、金融商品取引業者(金融商品取引法第2条第9項(定義)に規定する金融商品取引業者をいう。以下同じ。)その他政令で定める金融業を行う者をいう。
 第1項の「子金融機関等」とは、保険会社が総株主等の議決権の過半数を保有している者その他の当該保険会社と密接な関係を有する者として政令で定める者のうち、保険会社、銀行、金融商品取引業者その他政令で定める金融業を行う者をいう。

 
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MS&AD合併 持株会社と新会社の社名決定

MS&ADホールディングスは、2025年9月30日のニュースリリースで、社名の変更および三井住友海上あいおいニッセイ同和の合併新会社の社名を公表しました。
 

決定した社名

三井住友海上あいおいニッセイ同和の合併新会社の商号は次のとおりです。

MS 三井住友海上火災保険株式会社 Mitsui Sumitomo Insurance Co., Ltd.
AD あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 Aioi Nissay Dowa Insurance Co., Ltd.
新商号 三井住友海上あいおい損害保険株式会社 Mitsui Sumitomo Aioi Insurance Co., Ltd.

長すぎるので、10年もしないうちに“あいおい”の文字が消えそうな気がします。「損保ジャパン日本興亜」のように。
MS&ADホールディングスの商号は、2027年4月1日から次のとおりとなります。

現商号 MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 MS&AD Insurance Group Holdings, Inc.
新商号 三井住友海上グループ株式会社 Mitsui Sumitomo Insurance Group, Inc.

商号変更については、三井ダイレクトも同様です。
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商品ブランドはどうする?

保険商品のブランドについて、三井住友海上GKあいおいニッセイ同和タフ TOUGHとして広く展開しています。
確か、両社とも種目ごとにペットネームがバラバラでしたが、十数年前に、種目共通のブランドを付けるようにした時から、これが使われるようになったと記憶しています。
これをどうするかは非常に興味深いです。次のいずれかだろうと思います。

  • GKにする。
  • いずれでもない新しい名前を付ける。

後者にするなら、公募するというのもいいかもしれません。ついでに、合併新会社のアピールにもなりますし。
 

 
 

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三井ダイレクト商号変更と役割

三井ダイレクトは、2027年4月1日に三井住友海上ダイレクトに社名を変更する旨のニュースリリース「三井ダイレクト損保の商号変更に関するお知らせ」(2025.9.30)がありました。
 

商号の変更

現商号 三井ダイレクト損害保険株式会社 Mitsui Direct General Insurance Company, Limited
新商号 三井住友海上ダイレクト損害保険株式会社 Mitsui Sumitomo Direct General Insurance Company, Limited

英文名称について、「Marine」がないのは、三井住友海上あいおい損害保険株式会社の英文名称「Mitsui Sumitomo Aioi Insurance Company, Limited」にもないので納得できるのですが、「General」は削ってもよかったんじゃないかなと思います。
 

商号変更の背景

商号変更の背景については、ニュースリリースには、次のとおり書かれています。

2.商号変更の背景
2027年4月1日(予定)より、当社グループ各社は統一ブランドとして「三井住友海上」を掲げます。これに伴い、三井ダイレクト損保も、三井住友海上グループの一員であること、そして成長著しいダイレクト事業領域を担う会社であることを明確に表すため、新商号「三井住友海上ダイレクト」を掲げることとしました。これまで以上にグループ各社間の連携を強めるとともに、一層の認知や信頼をいただき、より多くのお客さまから選ばれる会社を目指していきます。

三井住友海上あいおいニッセイ同和の合併とMS&ADホールディングスの商号変更を機に、三井ダイレクトも変更するかどうか気になっていました。グループ内の重要なポジションにないのなら、商号変更のデメリットの方が大きいだろうから、変更しないだろうと思っていました。
イーデザイン損保が名称からは東京海上グループとはわからないのに比べて、三井ダイレクト三井住友海上グループであることがわかるので、ネームバリューのために社名を変更する必要性は低いと思っています。
インターネット内に定着した名を捨てて、新たな社名を広めるには多くのコストと時間がかかり、それでもブランド統一による営業上の効果は限定的と考えられ、あまり合理的な判断ではないような気がします。
 

期待している役割

今後の展開として、ニュースリリースには、次のとおり書かれています。
3.今後の展開
三井ダイレクト損保は、グループにおける先進的取組みを実行するパイロットの役割をさらに強化します。同社の特長である「デジタル技術を活用したお客さまとのコミュニケーション力」や「機動性を備えた、高い商品開発力」を活かし、お客さまニーズに合致した商品・サービスや、お客さまへのエフォートレスな価値提供を追求し、グループ全体において同社が持つ強みを発揮していきます。

自動車保険メインの現状でパイロットの役割ってあったのか?とか、「機動性を備えた、高い商品開発力」は本当にあるのか?とかの疑問はありますが、わざわざこのようなことを記載しているということは、改めて三井ダイレクトに何等か役割を担わせようとしているかもしれません。
「ダイレクト系損保の自動車保険の状況(2024年度)」(2025.8.3)では、三井ダイレクトは低迷組にあることを書きましたが、先進的取組みを実行するパイロットの役割を最優先にするなら、収入保険料を伸ばすよりも、いろんな実験をすることことに重きを置くかもしれません。
それなら、社名変更のデメリットよりも、三井住友海上のブランドで奇抜なことをするメリットの方があるという考えも納得ができます。
 

 

日本生命 不適切な情報取得対応から見える体質

東洋経済ONLINEの2025年9月25日の記事「日本生命に蔓延する「矮小化」と「忖度」、情報漏洩問題の"火消し"に失敗し証拠隠滅の疑いも消えず」に、次の内容が書かれていました。

日本生命では、銀行からの内部情報を無断で持ち出し社内で共有する不正行為が長期にわたり行われていた。だが、当局対応や公表では問題を矮小化・忖度する姿勢が目立ち、証拠消去の疑惑も残る。ガバナンス体制と説明責任の欠如が浮き彫りになっている。

情報の不適切な管理で2025年3月に業務改善命令を受けたメガ損保と比べると、日本生命には体質に問題があるように思えます。
 

問題対応ミス

東洋経済の記事から、「矮小化」「忖度」「証拠隠滅疑惑」というキーワードで、問題対応ミスを簡単に整理すると下表のように考えられます。

矮小化 忖度 証拠隠滅疑惑
一言整理 問題を小さく見せる姿勢 経営陣に都合のよい対応を優先する行動 不都合な記録(証拠)を消した可能性
記事での指摘 情報流出を「一部の不備」と説明し、組織全体の問題性を矮小化。
対応も「表面的な火消し」にとどまった。
関係部署が「トップの望む説明」に合わせ、批判を避ける姿勢
事実よりも「安全な説明」を優先
社内調査で「記録が消えている」事例が浮上
意図的な削除による「隠蔽工作」の可能性
内容 問題を実際よりも軽く見せようとする態度。情報漏洩の深刻さを正面から認めず、限定的に説明。 経営陣や上層部の意向を「察して」行動し、客観的な判断よりも会社に不利な情報を避ける傾向。 問題発覚後に不都合な証拠(メール・資料)を消去した可能性。外部調査を妨げる動き。
背景 組織防衛意識が強く、スキャンダルを小さく見せて乗り切ろうとする企業体質。 上意下達と「空気を読む」文化が強く、率直な問題指摘が困難。 不祥事を広げないために「証拠まで消す」発想が生まれる体質。
影響 真の問題解決が遅れる。外部からの信頼を失う。 誤った判断が続き、改善が阻害される。 調査の信頼性が損なわれ、法的責任や社会的信用の大幅低下。

なお、上記は問題が起こってしまった後の対応の拙さであり、日本生命不適切な情報取得の一番の問題点は、銀行が社員に課しているルールを悪質な形で違反したことにあると思っています。これは、「日本生命の不適切な情報取得の所感」(2025.9.13)で書いているとおりです。
日本生命が自ら不祥事を発見・対処していれば、外部からの批判や銀行からの不信感は今の状態よりは軽減していたでしょう。
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日本生命の体質の問題

損保で問題となった情報の不適切な管理においては、「代理店事案」を最初に発見した東京海上日動は、業務改善命令において『その取組の中で、当社社員の気づきを端緒として代理店事案を発見するなど、一定の進捗も認められている。』と金融庁に評価されています。余談ですが、「出向者事案」を最初に発見した損保ジャパンには評価の記載がありません。
一方、日本生命は、先に問題が顕在化した損保業界が行ったように、調査対象を広げることをせずに、限定的な調査だけをして問題はなかったと公表し、また、今回の不適切な情報取得が外部から指摘された後も問題への対応ミスをしました。
この対応ミスは、「矮小化」「忖度」によって引き起こされたものですが、それが誰からも拙いことだを指摘されることなく、最後まで突っ走ってしまった根本的な原因の1つとして相互会社であることが考えられます。

株式会社 企業価値を棄損するようなことがあれば、株主の反発を受け、株価が下がるとか、取締役に承認されないとかの影響が生じ、会社の存続への問題や取締役の解任がある。
したがって、取締役およびその部下は、保身のために企業価値を棄損しないようにすることにメリットがある。
相互会社 企業価値を棄損するようなことがあっても、大量の解約が発生するとか、新規契約の獲得が減少するとかの影響が生じないかぎり、会社への影響はない。また、取締役としての地位も脅かされない。ただし、金融庁に不祥事の責任を求められた場合には、取締役の引責辞任はありうる。
したがって、今回のように解約や新規獲得への影響がない不祥事については、金融庁に知られないようにすることが取締役およびその部下にとって最善の策である。

もちろん、どの相互会社も問題があるわけではなく、会社の形態に関係なく、良識を持った取締役および職員が力を持っている会社なら問題があっても適切に対象できるはずです。しかし、今回の結果からすると、少なくとも日本生命はそうではなかったと言えます。
 

 

放火で保険金詐欺の保険調査員の事案と各損保調査

保険調査員であった深町優将を含む一味が放火をし、保険金詐欺を複数起こしていた件について、産経新聞の2025年9月22日の記事「火災保険元エース調査員の放火 再調査の損保各社「過去案件は問題なし」に浮かぶ疑問」にメガ損保の深町優将が関与した調査の調査結果が書かれていました。記事の要約は次のとおりです。

元調査員の深町優将被告は各地で保険金目的の放火事件を起こした。大手損保は再調査したが詳細説明しなかった。保険会社や代理店の不祥事が続発したことから、業界の信頼性に疑問が生じている。
損保業界で不祥事が続発し、大手損保4社は行政処分を受けた。商品は複雑化し、消費者に自衛が求められる。深町被告が勤務していた損保リサーチの対応にも疑問が呈されている。

 

マスコミで報道された深町被告が関与した放火

マスコミで報じられた深町優将を含む一味が放火・保険金詐欺をした事件は次のとおりです。

放火日 物件所在地 備考
#1 2021年4月22日 岡山県美崎町 共済
「放火で保険金詐欺 犯人グループに保険調査員」(2025.6.19)の事案
#2 2022年8月4日 岐阜県飛騨市神岡町山田 共済
#3 2022年8月26日 北海道紋別市 2025.11.16に追記
#4 2023年11月11日 青森県つがる市木造芦沼  

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メガ損保の調査結果

産経記事に書かれていたメガ損保の深町優将が関与した調査の調査結果は下表のとおりです。

  調査結果 対象件数 期間
東京海上日動 問題なし 約80件 2011~2025年
損保ジャパン 問題なし 非公表 非公表
三井住友海上 問題なし 約500件 2018~2025年
あいおいニッセイ同和 調査中  2018~2025年

この産経記事では、ビッグモーターの保険金不正請求問題を引き合いに出して、損保の対応について、対応が遅い、当事者意識が希薄であるとしています。
しかし、営業部門の意向が強く影響を及ぼしていたビッグモーターの保険金不正請求問題とは異なり、この保険金詐欺は損保会社として隠ぺいや擁護をする動機はないので、調査結果はそのとおりであり、調査の着手が遅い/当事者意識がないというのは、詳細な調査をするまでもなく、問題なしであることがわかっていたからではないかと思います。
 

損保リサーチの対応

深町優将が2023年まで在籍していた損保リサーチは、深町被告が関与した事案があるにもかかわらず、調査も何もしないというスタンスです。
損保リサーチに対する批判があっても、同社の数字には影響がないので、世間の目は無視すればよいと考えているのでしょう。これは、大口取引先であり、大株主でもある損保会社から圧力をかけて、調査をさせ、組織としての問題があるなら再発防止の策定をし、それら公表をさせるべきだと思っています。
 

損保間の情報交換による不正請求対策

日本損害保険協会が運営している情報交換制度には、火災保険の不正請求対応として使用可能なものがあります。

制度名 概要・目的
保険金不正請求通報制度 組織・個人により行われた保険金不正請求行為の事実またはそのおそれが認められる事実の内容について通報する窓口を設置し、通報された情報について制度参加社と共有することにより、わが国における損害保険事業の社会的信頼の維持および業務運営の公平性確保に資することを目的とする制度である。
保険金請求歴および不正請求防止に関する情報交換制度 保険金等の請求歴ならびに請求・支払いに係る不正請求および不正の疑いのある事案について、制度参加社の間で情報交換を実施することにより、公平・公正な損害額算定および適正な保険金等の支払いを行うことを目的とする。
火災・新種保険における重複契約・事故歴照会制度 火災保険、賠償責任保険等において、不正請求を排除し適正に保険金を支払うために、制度参加社が受け付けた事故について、損害保険会社等の間で重複契約・事故受付の有無を確認する制度である。

なお、制度参加社は、この制度への参加した会社ということであり、制度参加社日本損害保険協会の会員会社 ということではありません。制度参加社は、日本損害保険協会の会員会社ではなくてもよく、外資系損保や共済であっても、参加可能です。
この制度は強制参加ではないので、参加しないことに問題はありませんが、他社の不正請求(疑義を含む)事案の情報を入手できないので、不正請求対策として甘さが生じてしまいます。
マスコミで報道された深町被告が関与した放火3件のうち2件が共済であることから、火災保険をよく知る深町被告が引受けおよび不正請求対策の甘い共済を狙い撃ちにしたのではないかと思っています。
 

 

生保協会 募集人体制整備ガイドライン改定(2025年9月)

生命保険協会は、2025年9月16日に「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」を改定しました。
ニュースリリース「顧客本位の業務運営を推進する今後の取組み ~法令・監督指針改正等を踏まえた、会員各社と保険代理店との適切な関係性の構築の推進等の取組み~」(2025.9.19)には、次のとおり書かれています。

2.監督指針改正等を踏まえた、協会ガイドラインの新設・改正

  • 監督指針改正等を踏まえ、協会ガイドラインの新設・改正等を行うとともに、会員各社の取組の高度化に向けた後押しを行ってまいります。
    なお、会員各社においては、「お客さま本位の業務運営方針」等において、「顧客本位の業務運営の取組み」や「インセンティブ報酬等にかかる考え方」を公表しているところですが、今般の体制整備の状況等についても、順次、反映・公表することが期待されます。

(1)「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」の新設

  • 8月28日付監督指針改正等を踏まえ、「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」を新設、「保険募集人の体制整備に関するガイドライン」を改正しております(9月19日公表【済】)。

 

過度の便宜供与についての記載

過度の便宜供与については、同日に策定された「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」に規定されています。
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ただ、こちらのガイドラインも一部に反映されたようです。
具体的には、2.比較推奨販売(比較説明・推奨販売)に、以下の(5)が追加されました。

(5) 過度の便宜供与の防止に係る体制整備
特に、乗合代理店は、比較推奨販売を行う場合には、顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点から、保険会社等に対し、過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることを防止するため、自己の規模や特性に応じて、以下の措置を講じる必要がある。
(注)一の保険会社等に専属する保険募集人であっても、専属の維持の見返り等として、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることがないよう、適切な措置を講じる必要がある。
a.過度の便宜供与の判断基準に係る社内規則等の策定
b.aの社内規則等を踏まえた、保険募集人による保険会社等に対する便宜供与の要求及び受け入れの制限に関する適切な教育・管理・指導の実施
c.保険会社等からの便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証
d.cの確認・検証結果を踏まえた、経営陣における評価・対応の検討
e.自社の比較推奨販売への影響が生じていると認められる場合における、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備

  • なお、保険会社の健全かつ適切な業務の運営を阻害するおそれのある過度の便宜供与についても、防止する必要がある。
  • 比較推奨販売を行わない乗合代理店においても、左記(5)の趣旨を踏まえ、例えば、新たに商品を取り扱うことや、当該商品を優先的に推奨すること等を理由に過度の便宜供与を求めるといったことがないよう、適切な措置を講じる必要がある。
  • 「規模や特性に応じて」とは、乗合代理店の募集形態や所属する保険募集人の人数、組織的な管理体制の有無、収入保険料などから、個別具体的に判断する必要があり、乗合代理店の規模が小規模であったり、取扱商品数が少ない場合でも、規模や特性に応じた体制整備が求められることに留意する。
  • 乗合代理店が保険会社に対して、保険商品の販売実績に対する評価を優遇することを条件として便宜供与を求めることは、過度の便宜供与を求める行為に該当し得る点に留意する。

また、2.比較推奨販売(比較説明・推奨販売)(2)比較説明に関する留意点の備考にも過度の便宜供与の記載があります。

また、監督指針Ⅱ-4-2-1(3)における「法人等に対する対価性のない金銭の支払いその他の便宜供与」、「過度の便宜供与」の禁止等を踏まえると、以下の事例は不適切と考えられることに留意する。
①保険会社が、業務委託費、広告費、協賛金等の名目で、役務の対価または販売促進策としての実態がない金銭等を供与する行為
②ある募集人が実質的に保険募集業務や代理店業務等を何ら行っていないにも関わらず、他の保険募集人と成績、手数料を折半する行為

 

 

生保協会 便宜供与・出向ガイドライン新設

生命保険協会は、2025年9月16日に「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」を策定しました。
 

ガイドライン新設の背景・経緯

このガイドラインを新設した背景・経緯は次のとおり書かれています。

1.本ガイドライン策定の目的
損害保険代理店にて発生した保険金不正請求に関する不祥事案を受け、金融庁において「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)が開催され、本事案の原因分析及び再発防止に向けた制度・監督上の対応に関する検討が行われた。
有識者会議では、当該損害保険代理店が不正行為を行い、保険金を過大に請求した事実にとどまらず、損害保険会社が代理店に対して行うべき教育・管理・指導が、実質的に機能していなかった点が指摘された。また、当該損害保険代理店の不正行為の要因の一つとして、「損害保険会社の営業部門が、乗合代理店に便宜供与を積極的に行い、同代理店がその見返りとして、顧客に対し同保険会社の商品を優先的に推奨するなどした結果、顧客の適切な商品選択が歪められていた」点が挙げられた。あわせて、出向については、便宜供与の一類型と位置付けられたうえで、過度なものは顧客の適切な商品選択を阻害するおそれがあるとされたほか、保険代理店としての自立に向けた動きを阻害するものは解消する必要があるとされた。
有識者会議は、損害保険業の構造的課題を対象に検討を行ったものであるが、生命保険業界においても、顧客本位の業務運営を徹底し、業界全体を健全に発展させていくべく、有識者会議で指摘された問題点を自らのこととして真摯に受け止め、主体的に対応を検討することが重要であり、生命保険会社が生命保険代理店等に対して行う便宜供与や出向に関し、基本的な考え方や留意点を整理することで、顧客本位の業務運営の徹底、健全な競争環境の実現に資するものと認識している。
本ガイドラインは、有識者会議報告書や、同報告書を受けて改正された監督指針を踏まえ、生命保険会社が生命保険代理店等に対して行う便宜供与や出向の基本的考え方や留意点について整理し、会員各社が態勢整備を行う際の参考の用に供するために策定するものである。
なお、会員各社においては、本ガイドラインを形式的に遵守するにとどまらず、有識者会議における議論・監督指針・本ガイドラインの趣旨を踏まえ、主体的に検討・判断することが必要である。

 

構成

このガイドラインは、下表の内容で構成されています。

  見出し 備考
本ガイドライン策定の目的  
保険代理店等に対する便宜供与  
保険代理店に対する出向  
別紙1 過度の便宜供与の考え方 各社で過度の便宜供与の判断基準の社内規則を策定する際の考え方(cf.2(1)②)
別紙2 表彰/研修等 インセンティブ報酬として、過度に該当する表彰、研修等の基準(cf.2(1)②イ)
別紙3 出向に係る方針等の例 各社で策定する出向に関する方針の例(cf.3(2)①)

2.保険代理店等に対する便宜供与と3.保険代理店に対する出向は、2025年8月28日に改正された監督指針便宜供与出向に関する部分の内容を左側に記載し、それに対する補足をする形式となっています。つまり、補足部分のみが生命保険協会が整理した内容ということになります。ただ、そのほとんどがパブリックコメントでの金融庁の考え方を転記したものです。
 

便宜供与に関する内容

2025年8月28日に改正された監督指針および改正時のパブリックコメントよりも踏み込んでいる部分は、次の箇所です。私が資料を読んで、ピックアップしているので漏れや誤りがあるかもしれません。

インセンティブ報酬

インセンティブ報酬は過度の便宜供与に該当する可能性が高いのですが、何がインセンティブ報酬に該当するかを明確にしなければ判断があいまいになってしまいます。インセンティブ報酬に該当するものとして、次のものを列挙しています。

  • 一定の期間中の特定商品の成果に対して、保険募集手数料に加算して支給するもの
  • 一定の販売量(年換算保険料・件数等)に偏重した基準を設定し、当該基準に達した場合に、保険募集手数料に加算して支給するもの
  • 社会通念からみて過度な表彰・研修等(注)(異なる名目や本店所在地という理由で海外等に招待する行為を含む)
    (注)「社会通念からみて過度」に該当し得る表彰・研修等の具体的な基準の例は別紙2を参照
  • 「マーケティング・コスト」、「業務委託費」、「広告費」、「協賛金」、「支援金」等の名目で、役務の対価としての実態がない、または、対価性の検証が困難な金銭等を支給するもの
  • 継続率基準や研修等の受講条件、その他募集品質に関する何らかの基準を設定したうえであるものの、実質的には特定の会社商品の販売促進を目的とした金銭等を支給するもの
  • ある商品種別において、自社の商品のみを取扱っていることを条件に加算手数料を支給するもの
  • 特定の会社の商品や払方等を指定し推奨商品として取扱うことや、特定の会社の商品のみを取扱っていることを条件に、特定期間の販売量に応じた加算手数料や本来代理店が負担すべき募集人の採用費用等を支給するもの
  • 保険募集人指導事業を行う乗合代理店がフランチャイジーから対価が支払われている業務に重ねて支給するもの
  • 保険募集人指導事業を行うフランチャイザーが、フランチャイジー分を含む一定の販売量(年換算保険料・件数等)に達した場合に、基本手数料に加算して支給するもの
  • 特定の募集関連行為従事者への委託等を推奨されている場合や特定の保険会社の商品の販売量を供与・継続の条件として募集関連行為従事者に対する紹介料を支給するもの
代理店手数料の考え方の公開

一般乗合代理店に対する保険募集手数料の体系等については、各保険会社が理想とする代理店像を踏まえて検討のうえ、保険会社のホームページ等において公表(「理想の代理店像と業務品質との関係」、「業務品質の寄与度」、「特定の一般乗合代理店(群・属性を含む。)に保険募集手数料を適用している場合は、その代理店名(群・属性を含む)・体系・考え方」等)する必要があるとしています。
特定の大規模代理店のみに、特別なルールで代理店手数料やインセンティブ報酬を支払うのは、過度の便宜供与に該当するので、それを排除するために、こうした公表をするのは効果的だと思います。これを各社がどのように実行していくのかに興味があります。

表彰/研修等

別紙2に、過度の便宜供与に該当すると考えられる表彰/研修等について記載されています。表彰または研修等を名目とした旅行に招待するようなものや高価な賞品等はNGと読めるような内容となっています。
 

出向に関する内容

2025年8月28日に改正された監督指針および改正時のパブリックコメントよりも踏み込んでいる部分は、次の箇所です。こちらも漏れや誤りがあるかもしれません。

出向方針の考え方

別紙3に、各社で策定する出向に関する方針の例を記載しています。その項目は下表のとおりです。

項目 主な内容
1 留意点・遵守事項 (1)顧客の適切な商品選択の機会を阻害しないこと
(2)顧客情報等を出向元に共有するおそれが生じないこと
(3)出向先保険代理店の自立を阻害しないこと
(4)利益相反管理の観点から不適切でないこと
2 目的 許容される出向の目的参照
3 出向先で従事する業務 出向の目的に照らして適切な業務とし、次のものは不可。
①単なる役務提供と見做され得る役割
②業務の中核的な役割を担う部署における責任者の役割
③乗合代理店への出向の場合、自社優遇誘引、募集直接関与、方針策定や販売研修等に従事する役割
④兼業代理店への出向の場合、保険会社と利益相反が生じ得る実務を担う役割
4 人数 (各社で具体的な人数を定める)
5 期間 (各社で具体的な年数を定める)
6 別の出向者の輩出 (各社で具体的なルールを定める)
7 出向者負担金 相当額を出向先に請求する。
許容される出向の目的

最終的には各社が規定することではありますが、このガイドラインでは、以下のものを挙げています。

  • 当該保険代理店におけるお客様本位の業務運営・法令等遵守の実践・高度化
  • 当該保険代理店との事業提携に伴うもの(事業提携については、地域活性化・サステナビリティに関するもの等 委託業務(保険募集)以外のもの)
  • 出向者の人材育成・セカンドキャリアの形成
不適切な情報取得に対する考慮

日本生命不適切な情報取得の事案を踏まえたと思われる以下の記載があります。

委託先保険代理店への出向者から出向元保険会社に対する連絡・報告の際に不適切な情報共有がなされるおそれがある。委託先保険代理店への出向者に対しては、特に以下の点について、情報管理に関する教育を徹底する必要がある。

  • 出向を通じて知り得た委託先保険代理店の情報につき、個人情報保護法・不正競争防止法・独占禁止法等の法令に反して、又は、当該代理店の承諾なく、出向元保険会社に提供しないこと
  • 出向元保険会社への連絡・報告を行う際に、意図せず、個人情報保護法・不正競争防止法・独占禁止法等の法令に反する、又は、当該代理店の承諾がない委託先保険代理店の情報が含まれていないかを十全に確認すること

不十分な内容だと思いますが、生命保険協会のガイドラインとしては、この程度の記載が限界かもしれません。
 

 
 

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損保協会 個人情報保護指針等改定(2025年9月)

日本損害保険協会は、損害保険会社に係る個人情報保護指針および損害保険会社における個人情報保護に関する安全管理措置等についての実務指針を2025年9月に改定しました。
 

改定の概要

ニュースリリース「「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」、「損害保険会社に係る個人情報保護指針」等を改定 」(2025.9.18)には、次のとおり書かれています。

2.「損害保険会社に係る個人情報保護指針」および「損害保険会社における個人情報保護に関する安全管理措置等についての実務指針」の改定概要
「損害保険会社に係る個人情報保護指針」では、出向者を介して情報が不正に取得されないために必要な対応や、保険代理店から他の保険会社への情報提供について必要かつ適切な監督を行うことを明確化しています。
「損害保険会社における個人情報保護に関する安全管理措置等についての実務指針」では、コンプライアンス部門が関与し、顧客等に関する情報の管理状況を適時・適切に検証できる体制を構築することやアクセス権限の設定を適切に行うことを明確化しています。
■損害保険会社に係る個人情報保護指針
https://www.sonpo.or.jp/about/guideline/individual/ctuevu0000005hsfatt/sonposhishin.pdf
■損害保険会社における個人情報保護に関する安全管理措置等についての実務指針
https://www.sonpo.or.jp/about/guideline/individual/ctuevu0000005hsfatt/action_jitsumushishin.pdf

 

改定の背景・経緯

両指針とも、メガ損保が情報の不適切な管理を理由に2025年3月24日に受けた業務改善命令等に基づいての改定です。

損害保険会社に係る個人情報保護指針の改定

丁寧に「Ⅰ.前文」に次のとおり書かれています。

「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正等を受けた見直し
損害保険会社において、乗合代理店が、顧客等の同意なく、保険会社の保険契約者等に関する個人情報を別の保険会社に送付し、保険会社は他の保険会社の保険契約者等に関する個人情報を受け取っていた行為(代理店事案)および保険会社から保険代理店へ出向した者が、顧客の同意や出向先の保険代理店の了承を得ずに、当該保険代理店の保険契約等に関する個人情報を、出向元の保険会社へ送付していた行為(出向者事案)が認められ、該当する損害保険会社に対する金融庁による保険業法に基づく業務改善命令の発出、個人情報保護委員会による個人情報保護法第147条に基づく指導が行われた。また、金融庁監督指針を改正し、顧客等に関する情報管理態勢の整備に係る内容を追加することとされた。こうした経緯を踏まえ、今般「個人情報保護指針」を改定、実施することとした。

損害保険会社における個人情報保護に関する安全管理措置等についての実務指針の改定

こちらも、「◆前文」に次のとおり記載されています。

「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正等を受けた見直し
損害保険会社において、乗合代理店が、顧客等の同意なく、保険会社の保険契約者等に関する個人情報を別の保険会社に送付し、保険会社は他の保険会社の保険契約者等に関する個人情報を受け取っていた行為(代理店事案)および保険会社から保険代理店へ出向した者が、顧客の同意や出向先の保険代理店の了承を得ずに、当該保険代理店の保険契約等に関する個人情報を、出向元の保険会社へ送付していた行為(出向者事案)が認められ、該当する損害保険会社に対する金融庁による保険業法に基づく業務改善命令の発出、個人情報保護委員会による個人情報保護法第147条に基づく指導が行われた。また、「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正し、顧客等に関する情報管理態勢の整備に係る内容を追加することとされた。こうした経緯を踏まえ、本実務指針を改定することとした。

前文には上記のとおりありますが、実務指針には、出向固有の記載はありませんでした。
 

出向者に関する内容

損害保険会社に係る個人情報保護指針第5条(個人情報の取得等)に出向者に関する内容が規定されており、その内容は次のとおりです。

(個人情報の取得等)
第5条 損害保険会社等は、業務上必要な範囲内で、かつ、適法で公正な手段により個人情報を取得するものとする。なお、損害保険会社等が、出向者を介して個人情報を取得するときは、出向先および本人の同意を得なければならない。
2 損害保険会社等は、個人情報を本人以外の者から取得するときは、本人の利益を不当に侵害しないようにするものとする。
3 損害保険会社等は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めるものとする。

<参考事項>
1.個人情報取得の原則
損害保険会社等は、個人情報を取得するときは、①取得する個人情報を「業務上必要な範囲内」に留めるとともに、②取得手段を適法かつ公正なものとする必要がある。保護法は、取得手段につき「不正なもの」を排除する(保護法第20条)だけだが、この指針では保護法制定以前からの取扱いを踏襲し、2つの要件を課すこととする。また、損害保険会社等が、出向者を介して個人情報を取得するときは、出向先(コンプライアンス部門や当該出向者の上長等)および本人から、メール等の記録の残る媒体で同意を得なければ、適法かつ公正な手段により個人情報を取得したとは認められない。
なお、例えば、本人確認のために運転免許証や住民票の提出を受けた場合、本人特定事項(氏名・住所・生年月日)以外の情報まで取得することになるが、本人が任意で提出する限り、かかる取得まで禁止する趣旨ではない(但し、個人番号を除く。また、センシティブ情報の取得、利用又は第三者提供についてはこの指針第16条を、安全管理措置については金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針(以下「金融分野実務指針」という。)を参照)。
2.第三者からの取得
個人情報取扱事業者(転得者)が第三者(原取得者)から個人情報を取得する場合、転得者が原取得者による不正取得に加担してはならず、また、不正取得された個人情報であることを認識した上で当該情報を取得してはならない。
損害保険会社等は、上記のほか、更に「本人の利益を不当に侵害しない」ものとする。具体的には、本人の利益を侵害する可能性のある個人情報を取得するときは、取得情報を業務上必要な範囲に留めることにおいて、他の情報以上に慎重な取扱いを行う必要がある。「本人の利益を不当に侵害しない」場合として、例えば、満期返戻金等を支払うために居所不明の契約者の住民票を第三者から取り付ける場合が該当する。
第三者から個人データを取得する際の確認・記録義務については、この指針第9条参照。
3.取得情報の保守
損害保険会社等は、可能な限り、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない(保護法第22条)。
4.法令等との関係
本条第1項および第2項は、自主ルールである。
<参考条文>
保護法第20条(適正な取得)、第22条(データ内容の正確性の確保等)
金融分野ガイドライン第7条(データ内容の正確性の確保等)
通則ガイドライン3-3-1(適正取得)、3-4-1(データ内容の正確性の確保等)
金融庁監督指針Ⅱ-4-2-13(3)(出向の適切性に係る留意事項)

 

 

損保協会 出向者派遣ガイドライン改定(2025年9月)

日本損害保険協会は、「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」を2025年9月に改定しました。
 

改定の概要

ニュースリリース「「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」、「損害保険会社に係る個人情報保護指針」等を改定 」(2025.9.18)には、次のとおり書かれています。

1.「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」の改定概要
今回の改定では「適切な出向を担保するための態勢の整備」に「必要な措置」と、適切性を判断・検証する際における出向先や出向形態等を踏まえた「留意点」を新たに追記しました。
また、出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、代理店への出向を行わない旨を明記するなど、「顧客の適切な商品選択の機会」、「顧客の同意に基づく顧客情報管理」、「代理店等の自立」、「損害保険会社における適切な利益相反管理」の観点から、出向の適切性を担保する内容としています。
■損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン
https://www.sonpo.or.jp/about/pdf/syukousya_guideline.pdf

 

構成

「損害保険会社からの出向者派遣に係るガイドライン」は、以下の構成となっています。

見出し 主な内容
はじめに このガイドライン新設・改定の背景・経緯
本ガイドラインの適用対象となる出向 全ての出向を対象とする。
適切な出向を担保するための態勢の整備 (1)必要な措置:損保会社は出向統括部門を設置し、出向方針策定・理事会等関与・出向者の管理(面談・研修等)・社内監査による検証・年1回の見直しを義務付け、出向適用性や要件判断を一元管理する態勢を構築する。
(2)留意点:乗合代理店は、グループ内とそれ以外に区分し、それ以外は原則出向不可。グループ内乗合代理店または専属代理店への出向は、弊害の防止を行いつつ、適切性を判断・検証する。
出向の要件 出向要件を (1)顧客情報管理、(2)出向目的、(3)担当職務・権限、(4)出向人数、(5)出向期間、(6)出向負担金 の観点で整理し、これに基づいて出向の適切性を判断・検証する。
改廃権限 一般委員会の決議で改廃する。

このはじめにの内容は、このガイドラインの魂とも言える部分で、一度読んでおいた方がよいです。と言うのも、このガイドラインは詳細な部分が不足している箇所があり、解釈によっては骨抜きになる可能性があります。そのため、ガイドラインを実効性のあるものとして運用するには、はじめにの内容を理解することが必要だからです。
 

適切な出向を担保するための態勢の整備

あくまで日本損害保険協会の整理ではあり、最終的には個社で判断することではありますが、グループ外の乗合代理店への出向は実質不可と示しています。
個人的には、日本生命不適切な情報取得の事案を踏まえて、保険募集の適切性を阻害する可能性、代理店としての自立に向けた動きを阻害する可能性、顧客の同意なく顧客情報を共有する可能性を真に排除できない場合のところに、代理店の社内情報の不適切な取得の可能性を追加するべきと思っています。

3.適切な出向を担保するための態勢の整備
(1) 必要な措置
損害保険会社では、適切な出向を担保するため、出向に係る統括部門を設置した上で、以下の措置を講じる必要がある。

①出向に係る方針等の策定
②出向方針等の策定に係る、取締役会等やコンプライアンス部門等の適切な関与
③人事部門や営業部門等による、適切な出向施策の実施・出向者の管理(出向者との定期的な面談や、研修を通じた個人情報保護法・不正競争防止法・独占禁止法等のコンプライアンス遵守の徹底等)
④コンプライアンス部門や内部監査部門による、上記③の適切性に係る検証・監査
⑤必要に応じた出向方針等の見直しや改善に向けた態勢整備
⑥統括部門で一括した、4.に定める要件に係る判断およびそれらの定期的な検証(検証は年に1度を目安に実施)

また、出向期間中も、統括部門において上記③の実施状況や4.に定める要件の該当性を確認するものとする。
なお、代理店への出向においては、3.および4.に定める態勢整備や要件に沿って、出向の適切性を十分に確認できる場合を除き、出向を行わない。
(2) 留意点
出向に係る統括部門が4.に沿って適切性の判断・検証を行う際、それぞれの出向の特性に伴うリスクに応じて、例えば、出向先や出向形態によって、以下のような対応が求められることに留意する。

右記を除く出向 グループ内出向
または転籍前提出向
乗合代理店への出向
専属代理店への出向

 

乗合代理店への出向において、保険募集の適切性を阻害する可能性、代理店としての自立に向けた動きを阻害する可能性、顧客の同意なく顧客情報を共有する可能性を真に排除できない場合は、原則として出向を行わない。
例外的に出向を行う場合は、顧客保護を目的として時限的に出向者派遣を行わざるを得ない緊急性の高いケース等、真にやむを得ないと判断されるものに限る。その際には、出向に係る統括部門での判断にとどまらず、経営陣も関与のうえ、意思決定を行う。
損害保険会社が属するホールディングスまたは企業グループ(親会社・子会社・親会社の子会社・持分法適用会社)内における人事異動に伴う代理店への出向、または転籍を前提とした代理店への出向は、顧客の適切な商品選択の機会や、個人情報保護法等の法令違反または不適切な顧客情報等の共有への防止を確保しつつ、出向の適切性を判断・検証する。
専属代理店への出向は、競合他社の情報に接する機会が少ないこと等から弊害が発現するリスクが乗合代理店への出向と異なるが、顧客の適切な商品選択の機会や、代理店としての自立、損害保険会社における利益相反の防止を確保しつつ、出向の適切性を判断・検証する。

なお、本ガイドライン制定以前の出向についても、出向先と対話し、要件に合致するよう速やかに担当職務等の見直しを進めるべきである。
また、損害保険会社が属するホールディングスやグループ内保険会社とも連携を行い、グループ全体において適切に出向管理がなされるよう、対策を講じていくことが望ましい。

 

出向の要件

これも日本生命不適切な情報取得の事案を踏まえて、(1)は顧客情報管理ではなく、情報管理としたうえで、出向者が出向先の代理店等の許可なく代理店等の社内情報等を出向元に共有するおそれが生じないことを確保する。を追加するべきと思っています。

4.出向の要件
3.(1)に定める態勢整備の措置を行った上で、同(2)の留意点を踏まえつつ、「顧客の適切な商品選択の機会」、「顧客の同意に基づく顧客情報管理」、「代理店等の自立」、「損害保険会社における適切な利益相反管理」の観点で整理した以下の要件に沿って、統括部門において出向の適切性を判断・検証する。

事項 要件
(1)顧客情報管理 出向先の代理店等において、出向者が顧客等の同意なく代理店等の顧客情報等を出向元に共有するおそれが生じないことを確保する。
(2)出向目的 次のいずれかの目的に該当することとする。
①担当職務・権限の制限がないもの
ア.業界共通課題への対応または基盤整備
イ.ホールディングスまたは企業グループ(親会社・子会社・親会社の子会社・持分法適用会社)内における人事異動
ウ.社員のセカンドキャリアの形成(転籍を前提とするもの)
エ.その他公益目的
②担当職務・権限の制限があるもの
ア.代理店の内部管理体制強化をはじめとする顧客本位の業務運営の構築
イ.出向先のリスクマネジメント態勢整備・高度化
ウ.出向する社員の人材育成
エ.共創事業や地方創生などの社会的課題解決
なお、顧客企業との関係強化や、保険契約の幹事・保険料シェアの維持獲得を目的とする出向は「顧客本位の業務運営の構築」に資さない出向であり、不可とする。
(3)担当職務・権限 出向目的の実効性を高める役割を担うことを前提とする。
なお、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されることがないよう、(2)出向目的の区分に関わらず、自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するおそれがある行為は不可とする。例えば、本来代理店が自ら負担すべき人件費や専門人材の育成または確保に係る費用等を損害保険会社が肩代わりすることは、上記のおそれが高まることに留意する。
また、(2)出向目的の②に定める出向においては、次のような職務・権限を担うことは不可とする。
①要員不足を補填するなど、単なる役務提供と見做され得る役割(各社から輪番で同一ポジションに出向するケース等を含む)
②保険契約の幹事や保険料シェアを決定する役割
③代理店における保険および保険に関するソリューションの提案(提案する損害保険会社の選定を含む)や保険募集実務を専ら担う役割
④保険金等の支払いにより出向先が利益を得るなど、損害保険会社と利益相反が生じ得る実務を担う役割
(4)出向人数 出向目的に照らして適切な人数とする。
なお、代理店および代理店に影響を及ぼし得る親会社等への出向については、自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するといった目的となっていないか、出向目的の該当性に十分に留意し、特に複数人による出向の場合には、その必要性・妥当性の判断理由を記録・管理する。
(5)出向期間 出向目的に照らして適切な期間とする。
なお、代理店および代理店に影響を及ぼし得る親会社等への出向については、特に2年を超える出向の場合(後任配置によるものを含む)には、その必要性・妥当性の判断理由を記録・管理するとともに、出向前に定めた期間を超える合理的な理由のない期間延長は行わない。
(6)出向負担金 出向目的に照らして適切な水準の出向負担金を出向先に請求する。

(2)出向目的は、広く解釈できてしまう書きぶりになっているため、もっと詳細に記載するとか、例示を付けるとかした方がよさそうです。
 

 
 

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FPパートナー不祥事関連の報告徴求命令の報告書(残り3社)

金融庁は8月6日にFPパートナーの不祥事を誘発したと考えられる次の生保8社に金融庁から乗合代理店との適切な関係性の構築に向けた取組みについて報告徴求命令を出し、9月8日時点で生保5社が報告書を提出したことを公表し、その各社の内容を比較しました。そして、遅かった残りの3社も9月18日でニュースリリースでの公表が出揃いました。

mikio-tsujita.hatenadiary.org
mikio-tsujita.hatenadiary.org
 

ニュースリリース一覧

報告書を提出した旨の公表が遅かった生保3社のニュースリリースを一覧は下表のとおりです。

会社 なないろ生命 FWD生命 アクサ生命
タイトル 保険業法第128条第1項に基づく報告徴求命令への報告について 乗合代理店との適切な関係性の構築に向けて 金融庁による報告徴求命令への対応について
報告徴求命令前の認識 顧客の意向に基づき、複数の保険商品に関する情報提供を通じ、比較推奨販売を行うといった適切な保険募集の確保に向け、「お客様本位の業務運営」に掲げる基本方針に基づく取組みを推進してきたという認識である。 乗合代理店との友好な関係を維持する目的で、これまで特定の乗合代理店に対して、出向者派遣、リーズ提供、広告出稿等の施策を行った。 ディストリビューションクレドにおけるビジョンおよびミッションに則って、保険募集の公正を確保すべき乗合保険代理店との間における適切な関係の構築の推進をしてきたという認識である。
原因分析 (記載なし) 比較推奨販売を歪める恐れはないのかとの視点からも施策内容を検討すべきところ、同業他社による同種施策の実施実績や同業他社並みの内容であることのみを施策実施の判断基準としており、施策の実施が結果として顧客にどのような影響をあたえるのかという視点が欠けていたため、施策の妥当性を十分に検討することができなかった。 (記載なし)
再発防止 次の4項目について、それぞれ2~7点の取組みを実施するとしている。
お客様本位の行動の更なる浸透
比較推奨を歪めるおそれのある便宜供与等の防止に係る取組み
内部統制態勢の強化
代理店への周知および牽制の強化
次の3項目について、それぞれ2~5点の取組みを実施するとしている。
代理店への比較推奨販売の徹底・委託解除等
乗合代理店に対する過度の便宜供与の防止
乗合代理店に対する教育・管理・指導
営業施策の立案から審議・事前審査までコンプライアンス部門を関与させ、お客さま本位を徹底する。乗合代理店とは契約前後に体制整備とリスクアセスメントを強化し、比較推奨販売違反時は販売停止や委託解消を検討する。
その他      

 

再発防止

なないろ生命

次の4項目について、以下の取組みを実施するとしています。
1.お客様本位の行動の更なる浸透

  • お客様本位の業務運営についての企業理念やコンプライアンスに対する認識、理解を深めることを目的に、経営層と社員による意見交換(タウンホールミーティングおよび職員意識調査の定例実施)の機会を設け、役職員全体の意識醸成を図ります。また、その浸透度合いを経営層レベルで定期的に測れるような取組みにしていきます。
  • お客様の最善の利益から逸脱した比較推奨販売へのリスクを適切に認識するとともに、営業面への影響の大きさにかかわらず、お客様の意向に沿った商品選定・推奨が徹底されるよう、適宜代理店に対してお客様本位の業務運営を前提とした指導を行います。

2.比較推奨を歪めるおそれのある便宜供与等の防止に係る取組み

(1) 各種施策検討・実施時における対応

  • 各種施策検討の際には、自社商品の優先的な販売を誘引するような性質を有していないかどうか、施策そのものの妥当性(内容や金額等)について、十分なリスク認識に基づいた意思決定を行います。
  • 施策実施後においても、予期せぬ形で自社商品の優先的な販売に結びついていないか等、多面的に分析することで、比較推奨販売への影響を確認いたします。
  • お客様に適切な商品選択の機会を確保する観点から、代理店点検・監査時において、比較推奨販売の適切性により着目した確認を検討・実施してまいります。

(2) 各種社内規程の整備

  • 代理店への便宜供与防止に係るマニュアルを作成し、蓄積事例とともに社内に周知・徹底いたします。
  • 代理店の業務品質向上を目的として、代理店手数料規程において業務品質を重視する等、所要の対応を行います。
  • お客様本位の業務運営の徹底にあたり、保険会社として代理店に対する適切な指導・要請および措置を行う根拠となる代理店手数料規程および代理店委託契約について所要の規程整備を行います。
  • 各種施策実施の際には、比較推奨を歪めるおそれのある内容ではないか等の観点から、コンプライアンス・リスク管理部による事前確認を必須とした上で、経営層による意思決定を行います。

3.内部統制態勢の強化

  • 比較推奨販売に係る市場動向が多様化・複雑化している状況下、1線(営業フロント部門)・1.5線(代理店マネジメント・サポート推進部)・2線(コンプライアンス・リスク管理部)による横断的な情報共有・意見交換の定例開催を通じた予兆情報の早期察知に努めていきます。
  • 3線(内部監査局)においては、被監査部門(1線・1.5線・2線)と認識を共有のうえ、専門的な視点かつ独立した立場から、比較推奨販売に係る予兆情報にもとづく迅速かつ適切なリスクアセスメントに努め、組織全体に亘る内部統制態勢の強化を図っていきます。

4.代理店への周知および牽制の強化

  • 代理店点検・監査を通して、法令や監督指針に抵触する等、比較推奨販売を歪めるおそれのある乗合代理店が認められた場合、改善を図るための指導・要請等を行います。
  • 上記の結果、適切な改善が図られないと見込まれる場合については、お客様本位の業務運営が損なわれていることを根拠として、代理店手数料の削減、新規契約の販売停止、代理店委託契約の終了・解除の措置等、毅然とした対応を行ってまいります。

記載のボリュームはありますが、具体的にどの部署がどのように行うのかが記載されているものは僅かであり、また、いつまでにやるのかが明らかにされていません。

FWD生命

次の3項目について、以下の取組みを実施するとしています。
代理店委託について

比較推奨販売を歪める恐れのある乗合代理店が認められ、適切な改善が図られないと見込まれる場合には、代理店委託契約の解除も視野に入れた適切な措置を講じます。
<取組み事項>

  • 比較推奨販売を歪める恐れのある乗合代理店が認められた場合等を想定した対応方針を策定します。
  • 方針策定後は、方針に基づき代理店手数料の減額・停止、新規募集停止、代理店委託契約の解除等の措置を講じます。

乗合代理店に対する過度の便宜供与の防止

乗合代理店への施策実施にあたっては、施策自体の合理性の確認に最大限の努力をするとともに、施策の実施によって生じ得る弊害を十分に考慮し、そのような弊害が極力排除されていることを確認したうえで、施策の妥当性を判断します。
<取組み事項>

  • 乗合代理店への施策の実施基準などを社内規程やマニュアルにおいて明確にします。
  • 乗合代理店への施策を社内で一元管理するとともに、コンプライアンス部門が妥当性の検証に関与するフローを整備します。
  • 乗合代理店への施策実施後は、効果検証やモニタリングを実施します。

乗合代理店に対する教育・管理・指導

乗合代理店における実態把握を強化し、実態に即した教育・管理・指導を行います。
また、乗合代理店における各種リスクを多角的に評価し、乗合代理店における体制整備状況に関して実効性のあるモニタリングを行います。
<取組み事項>

  • 代理店点検において、乗合代理店における比較推奨販売に係る体制整備状況として確認する項目を拡充します。
  • 当社の乗合代理店への施策が乗合代理店における比較推奨に影響を与えていないことを、募集データ等のモニタリングを通じて確認します。
  • 乗合代理店の実態把握に関する業務を強化するため、業務の集約や適切な要員配置を行います。
  • 代理店検査を通じて、当社における販売実績上位の乗合代理店の実態把握と実効性の検証を行います。
  • 乗合代理店の評価から代理店検査の実施までの、体系的な枠組みを整備します。

1つ目の「代理店手数料の減額・停止、新規募集停止、代理店委託契約の解除等の措置」を明言していることが特徴的です。
原因分析で、他社と横並びなら問題ないと考えていたとしており、それを踏まえた再発防止を策定・実施できれば良くなることが期待できます。

アクサ生命

次のとおり記載されています。

本件につきましては、金融審議会「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」において取りまとめられた報告書や法令改正等も踏まえ、経営陣関与のもと、以下の観点で具体的な策を策定・実行してまいります。

  1. 営業部門による乗合保険代理店への各施策において、「お客さまの最善の利益」に資するというお客さま起点の提案が行われるよう、コンプライアンス部門等の関与のもと、施策立案のプロセスの高度化を図ります。
  2. 営業部門による乗合保険代理店の各施策の審議において、過度の便宜供与に該当する施策であった場合のリスクの重大性に鑑みて、チェック機能を強化するために、コンプライアンス部門等の関与のもと社内ルールの見直しや事前審査を行う会議体の設置、既存の会議体の強化を図ります。
  3. 乗合保険代理店との委託については、委託契約前の体制整備確認を実施する際の教育・指導に際して、乗合保険代理店の「比較推奨販売」の体制が適切に整備され確保できているか等の観点から十分に検証できる態勢を整えます。また、乗合保険代理店に対して、定例的に規模や特性に応じた対話等を行い、体制整備の検証の強化に取り組みます。
  4. 保険募集に関する業務の委託元である保険会社として、乗合保険代理店に対しての検査について、規模や特性に応じたリスクアセスメントを行い、高度化を図ります。
  5. 乗合保険代理店の募集行為の適切性について、保険業法に定められた比較推奨販売を遵守できない恐れがあると認められた場合は、当社商品の販売停止ないし代理店委託関係の解消といった措置をとることを検討します。

各種施策・方策の実施状況については、当社取締役会および親会社であるアクサ・ホ-ルディングス・ジャパン株式会社の経営会議、取締役会および監査等委員会にも報告し、親会社を含む経営陣のリーダーシップのもと、「お客さま本位の業務運営」が担保されるよう、お客さま起点の内部統制態勢を強化することによって、乗合保険代理店を通じた販売態勢に対する信頼の向上に努めてまいります。

記載のボリュームはありますが、具体性に欠け、いつまでにやるのかが明らかにされていません。最も公表が遅かったにもかかわらず、記載内容はそれほど詰められているものではありません。公表までにホ-ルディングスとの調整に時間がかかっていただけではないかと思われます。