ネット販売に向く保険とは(其の壱)

先日ブログのコメントで「通販は損害率も安定している火災保険を何故扱わないのか」という意見・感想がありました。ここでいう通販は、従来の電話や手紙のことではなく、インターネットによるダイレクト販売を意味しています。
実は、それをやっている損保は存在します。しかし、自動車保険のように大々的に行われてもいないし、入口は限られているし、条件があるし…で広く一般的に行われているとは言い難い状況には違いありません。
そこで、火災保険を含めて、どのような保険がネット販売に向くのか、それが現実に行われない課題として何があるか/現実に広まっている範囲や制約はどうなのか等について、私なりの考えをまとめようと思います。
 
本題に入る前に、ネット販売の本質について、整理しておきます。なぜなら、この本質に合致するものがネット販売に向く保険の候補ということになるからです。
ネットに対する理解をする上で、ちくま新書 梅田望夫著『ウェブ進化論』が良著であると思います。寧ろ、私自身がネット販売を理解する上で、この本の影響を大きく受けています。
バックボーンとして理解しておくべきである「ネット世界の三大法則」、ネット販売の商売が成り立つ理屈の説明となる「ロングテール」、そして将来の見通しのヒントとしてネットによる「知の体系化」と「世代交代」あたりを前提として抑えておくべきであると思っています。
 
「ネット世界の三大法則」とは、以下のものであると説明されています。

第1法則:神の視点からの世界理解
第2法則:ネット上に作った人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
第3法則:(≒無限大)×(≒ゼロ)=Something、あるいは、消えて失われていったはずの価値の集積

第1法則は、マーケティングと絡んできますが、あまり今回のテーマと関係がないので割愛します。
第3法則は、この後の「ロングテール」の話と重複する部分が出てくるので、そちらで書くことにします。
第2法則についてですが、この本の中で捉えて解説していることと、ネット販売する上での考えとちょっと異なります。
保険をネット販売するには、ネット上で契約締結までを含めた募集行為をするためのシステムを構築します。そのシステムは、ある意味で募集人αを雇って一定の教育をした上でネット上に住ませていると擬人化して考えることができます。この募集人αに、仮に年収1000万円で、365日24時間働いてもらうと仮定しましょう。この募集人αは、どれだけ成約して保険料収入をもたらしたかに関わらず、その条件で働かせることができます。
ただ、問題もあります。この募集人αは完璧なマニュアル人間?なのです。最初に教育した範囲のことは間違いなくこなすことはできますが、そこから外れたことについて臨機応変に対応することはできません。
とにかく、そういう性質の募集人αをおいて経済活動ができるというのがポイントです。
 
ロングテール」とは、日本語でいうところの「塵も積もれば山となる」です。ネット世界の第2法則「(≒無限大)×(≒ゼロ)=Something」と同じことです。
例えば、ホールセールは最初から存在している山をターゲットにしていると考えられます。一方で、1つ1つが小さい塵のようなものを膨大に集めて山にするというのが、インターネットによるダイレクト販売の本質と言えます。
ただ、1つ補足する必要があります。その塵は、まったくバラバラの性質ものではダメで、一定の共通事項で集積できるものであることが必要です。
そして、この損害保険の世界にも、その膨大かつ均質という条件を満たす塵にあたるものは確かに存在します。
 
「知の体系化」と「世代交代」…この2つも、この本の中で捉えて解説していることをベースにやや違った視点から見て考えています。
損保において「知の体系化」は、損保社員や代理店などの一部の人に限られていました。
しかし、今ではネット上に玉石混交とは云えども情報が増えてきており、うまく取捨選択すれば、相当の知識を持つことができます。掲示板などで訊けば、識者が適切な返答をしてくれることもあります。少なくとも自分の状況に照らし合わせた保険の選択くらいは独力でできることが増加してくると思っています。今では十分とは言えないかもしれませんが、保険会社からの家計分野商品についての情報開示が進む流れの中で、「知の体系化」の共有化は損害保険においてもこれから更に進んでいくものと思われます。
そして、何が当たり前であるかという認識は、それぞれの世代の育った背景によって異なります。ネットどころかパソコンすらなかった時代を過ごしてきた世代と子供の頃からネットが当たり前の世代では、ネットに対する常識やリテラシーが異なるであろうことは目には見えませんが容易に想像できます。今後、社会における割合はどちらが増えてくるのかは言うまでもないことです。
ネット販売における背景やターゲットを理解する上で、これらのことも織り込んでおくべきかと思います。
 
前置きだけで随分長くなってしまいました。本題はまた後で書くことにします。