ネット販売に向く保険とは(其の参)

前回までの「ネット販売に向く保険とは(其の壱)」「ネット販売に向く保険とは(其の弐)」の続きです。
(1).自動車保険
既にネット販売が普通に行われている保険ですが、一応整理しておくことにします。
A.市場規模・ニーズ
今更言うまでもなく充分な規模とニーズがあります。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
自動車保険そのものが昔から一般的な商品で、各社ほとんど同じであるために、もともとかなり周知されているという面があります。
昔からのシンプルな補償内容なら、補償範囲や保険金を支払う場合の説明は割と単純です。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
自動車の運転者であれば、相手に対する賠償責任と自分および同乗者の死傷のリスクがあり、ここに被保険利益が発生します。運転者であるかどうかは当人の事前申告で十分です。また、保険金額については、モノ保険ではないため一般の賠償責任保険や傷害保険に準じて、必要額と思われる金額を自分で決めればよいということになります。
自動車の所有者であれば、自動車そのものに対する損害に対して被保険利益を有します。一般に「車検証の保持=自動車の所有」ですから、車検証の保持の証明で以って被保険利益の存在を確認できます。また、更改契約の場合は、前の契約で自動車の所有の確認ができていることを前提に、自動車を所有していることを確認できます。これは、損保協会が行っている等級継承のための情報交換で車台番号,登録番号,所有者が分かるからです。保険金額については、保険の目的物である自動車の時価ということになります。これも一般的に市場に流通している車なら、日本アウダテックス(株)発行の車価表で分かります。ただ、改造を施したり、希少な車だったりしたら、機械的時価を評価するのは困難でしょう。これは除外せざるを得ません。
D.告知事項
保険料に影響を与える要素として、年齢条件,運転者の範囲,免許証の色などの項目があります。自分のことを答えればいいし、容易に分かることなので間違いの要素は少ないです。
E.その他
自動車保険固有の制度として、ノンフリート等級があります。これは、保険会社を切り替えても引き継がれるもので、保険料に大きな影響のあるものなので、間違いやインチキがないようにしなければなりません。そのために、前の契約の内容や事故に関する情報を入手する必要があります。
この点に関しては、先に書いたとおり損保協会の情報交換で解決できます。
ただし、前の契約が情報交換に参加していない共済などの場合は、個別に確認する必要があります。ここもネットでやるには向かない部分です。なお、現時点において、共済のうちJA共済(全国共済農業協同組合連合会)だけは情報交換に参加しています。
 
(2).傷害保険
以前は積立モノとして売られていたり、損保で医療保険を扱えなかった頃は結構メジャーだったりしたのですが、最近は下火のようです。
ただ、商品性格上、ネットには向くと思います。なお、団体契約はネットでやる意味はないでしょうから、除外します。
なお、チューリッヒ保険会社では、従来タイプの傷害保険をネット販売しています。
A.市場規模・ニーズ
ケガによる死傷しか補償しないため、昨今は医療保険に取って代わられる傾向があるように感じます。それでも、目的を限って販売すれば有用だと思います。ごく一般的な海外旅行保険はその一例です。あるいは、逆選択や損害率が怖いけどスキー・スケート保険の類のスポーツ保険を短期契約でやるとか、賠償責任をセットにした自転車総合保険とかならニーズはあるのではないでしょうか。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
単純な保険なので、医療保険と勘違いされないように気をつければ、理解してもらうのに困難な点はないと思います。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
保険金殺人などのリスクを排除するために、契約者=被保険者というのは非対面募集での大前提です。それと、不正請求防止のために保険金額の上限を一定に抑えることも考慮する必要があります。保険金額に関しては、損保協会の情報交換を利用すれば、他社の分を含めて事後的にではありますが、機械的にチェックすることが可能です。
そのあたりを守れば、被保険利益の確認や保険金額の設定にあたり、特段問題となる点はないと思います。
D.告知事項
特に難しい項目はありません。健康状態と他契約くらいですから。
E.その他
短期ものをやるなら、アフロスをいかに排除するのかがポイントになってきます。損害調査のルールを明確に定めるとともに、それを募集時に周知させることが必要と思われます。
また、冒頭にあげたスポーツ保険や自転車総合保険はどうしてもリスクの高い人が加入しがちのため、保険料水準をどうするのか…少なくとも料率機構の参考純率そのまま利用というわけにはいかないのではないかと思います。
保険金支払までの日数の短縮や簡略化のために、日額支払ではなく部位症状別支払を採用する方が良いと思います。
 
(3).医療保険
傷害保険に代わって増えてきたのが、この保険です。しかし、保険金支払に問題があって、平成18年度に多くの損保(11社)が「第三分野商品に係る保険金の多数の不適切な不払い」で行政処分を受けました。新規に取扱いを開始するのはハードルが高いのではないかと思われます。
なお、ソニー損害保険株式会社アクサ損害保険株式会社がこの種の保険をネット販売しています。ちなみに、この2社は先の行政処分の11社には含まれていません。
A.市場規模・ニーズ
傷害保険の上級商品として、ある程度のマーケットはあるようです。ただ、生命保険とかち合う分野なので、パイの取り合いとなることを見込まなければならないでしょう。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
保険期間中に医療行為を受けたら故意,重過失等は除いて原因に関わらず定額で保険金を支払う…くらいのシンプルなものにするのが前提です。とは言え、始期前発病などは除外しなければなりませんが。
シンプルな商品にしておけば、補償範囲・有無責などの説明も単純なものでいけると思います。ただし、後述の告知事項は要注意です。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
これは傷害保険とほぼ同じです。
D.告知事項
健康状態の告知がネックになると思われます。「損害保険会社の第三分野商品に係る保険金の不払い事案の調査結果について」を踏まえて、募集と支払で食い違いが生じないようにする必要があります。ネット販売においては、現実的には健康である人しか契約できないでしょう。
E.その他
解約返れい金なしの商品は、「アクサダイレクトの入院手術保険の疑問」で書いたとおり、要捺印のためネット販売に向きません。おそらく、アクサダイレクトのやっていることは認可違反だろうと思われます。