ネット販売に向く保険とは(其の四)

前回までの「ネット販売に向く保険とは(其の壱)」「ネット販売に向く保険とは(其の弐)」の続きです。
火災保険については、賃貸の人は主に家財に対して付保、持家の人は主に建物に対して付保と保険の目的物が異なり、それぞれ固有のポイントもあるので1つにまとめて書くと非常に長くなるため、2つに分けました。そして、家財のみを保険の目的物にするなら、家財特約付帯の動産総合保険も考えられます。これもついでに火災保険(家財)のカテゴリに含めて考えることにします。このあたりは「家財に付ける保険」(2008.9.16)でちょっと触れています。
 
(4).火災保険(家財)
後述のとおり、大きなハードルとして考えられるのは、料率の根拠のための告知事項くらいです。そこをクリアできれば、ネット販売向きの商品だと思います。実際に富士火災海上保険株式会社のライフパートナーα(賃貸住宅総合保険)があります。
しかし、世間にあまりネット販売の火災保険(家財)がないのは、何か他の要因があるのでしょうか?それとも、このハードルが私の想像している以上に高いのでしょうか?
A.市場規模・ニーズ
世帯の数とほぼ同じ数のニーズも明確な大きなマーケットがあります。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
比較的単純な商品である上に、従来から一般的に販売されていた商品なので説明に困難な点はないと思われます。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
保険の目的物である家財が存在することが前提となります。これは通常に世帯が存在すれば、生活用動産 つまり家財が存在することは明白です。
保険価額は、時価での評価にしろ再調達価額での評価にしろ、従来どおりの計算方法…その世帯の構成から決めればよさそうです。
いずれもネット販売でのネックとなる要素はありません。
D.告知事項
料率の元となる事項は告知事項になります。損保料率機構の参考純率ベースの商品なら、建物の物件種別,構造級別(省令準耐火も考慮),地域が料率を定めるのに必要な事項です。しかし、地域はともかく、物件種別(住宅物件/一般物件。工場物件・倉庫物件は除外していいでしょう。)や構造級別(A〜D構造/特,1〜4級)そのものを告知事項とするのは無理がありすぎます。保険法対応を先取りしてこれらの区分の判定条件を質問応答義務に落とし込み、それを告知事項とし、そこから物件種別,構造級別を決定するのが理にかなったやり方だと思います。ちなみに各損保のオリジナル商品には、構造級別の区分がA〜D構造/特,1〜4級ではなく、耐火/非耐火のものがありますが、やはり同じです。
この質問応答義務への落とし込みは、ネット販売におけるハードルと考えられます。
余談ですが、昨年秋に認可となった損保料率機構の火災保険(住宅物件,一般物件)は構造級別の区分が、M,T,H構造/1〜3級になった上に、その判定方法も比較的簡潔になりました。この点に関しては、ハードルが幾分低くなったと言えます。
ここのハードルをぐっと低くしたいのなら、料率体系を地区別のみの一本料率にしてしまうということも考えられます。しかし、そうすると逆選択で損害率が非常に高くなる虞があるため、広く販売する上では現実的ではありません。また、仮にそうしても地震保険についてはそういうわけにいかないのであまり意味はなさそうです。
E.その他
賃貸業者と提携して、物件種別,構造級別そのものを貸主から情報を入手するという方法も考えられます。そうすれば、借主である契約者の負担や告知義務違反のリスクは大幅に減ります。滅多にないと思いますが、賃貸住宅なら改築などによる構造級別の変更があっても、貸主からの通知にすればいいはずです。
あまり突っ込んで取り上げなかったのですが、地震保険がネックになっている可能性があります。付帯しないならしないでその旨の確認印(火災申込書にはそのため必ず捺印欄が2つあります)が必要ですし、付帯したらしたで地震に関する各種割引の適用やその証明書類のことを考慮しなければならないからです。ここは独占禁止法適用除外の共同行為の世界なので、勝手なことをするのは難しそうです。この問題を回避するのに最も簡単な方法は、家財特約付帯動産総合保険で売ることです。
 
(5).火災保険(建物)
後述するように、上記の(4).火災保険(家財)の問題に加えて、更に別のハードルが複数存在します。そのためか、現在、ネットで火災保険を案内している損保はいくつかありますが、できることは見積もりまでで、ネットでの契約締結まで可能な商品は私が探した限りでは見当たりませんでした。途中から紙ベースでの通販になるようです。
A.市場規模・ニーズ
持家(マンションを含む)の数とほぼ同じ数のニーズも明確な大きなマーケットがあります。住宅ローンを借りている場合は、借入先の銀行の要請で必要ということもあります。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
上記(4).火災保険(家財)と同じです。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
保険の目的物である建物が存在することが前提となります。しかも、自分が所有していることが前提となります。ネット販売では、モラルリスク回避や被保険者との連絡はしないことから、他人のための契約は行わないのが通常です。この確認をネットでやるのは相当に難しそうです。
建物の保険価額も難しそうです。不十分な説明のまま契約者に保険金額の設定を任せると、土地代込みとか共用部分込みとかになりそうです。その上、時価やら再調達価額やらとなると、まず無理な話になるのは目に見えています。これも保険法対応を先取りして保険価額計算の要素を質問応答義務に落とし込み、それを告知事項とし、そこから保険価額を決定するのが妥当なやり方だと思います。やはり、この質問応答義務への落とし込みは、ネット販売におけるハードルと考えられます。
D.告知事項
上記(4).火災保険(家財)と同じです。
E.その他
上記(4).火災保険(家財)と同じで、地震保険の問題があります。しかも、建物が保険の目的物の場合は、(4).火災保険(家財)で書いた回避方法は当然ながら使えません。
問題点のほとんどは、住宅施工業者や不動産業者と提携して、情報を渡してもらうことで一気に解消できそうです。建物の存在,その持ち主,保険価額,物件種別,構造級別,地震に関する各種割引の適用やその証明書類あたりがさっくりと片付きそうな気がします。ただし、増改築による異動を考慮するとそんなに単純でもありませんが。
ネット独特の手法としてGoogleマップの航空写真やGoogleマップ ストリートビューと連携するというのも考えられますが、建物の存在はともかく、保険価額,構造級別をそこからやろうとすると物凄く大変そうです。というか、写真から保険価額,構造級別を判別できるソフトをITベンダーが作ったら、おそらく損保会社全てがそれを買いに来ます。
 
(6).費用保険
あまり単体では一般的ではなく、火災保険や自動車保険の普通保険約款の中に○○費用としておまけ的に含まれていることが多いです。
単体でネット販売されている商品としては、日本震災パートナーズ(株)のResta(地震被災者のための生活再建費用保険)やミニリスタ(地震被災者のための生活支援費用保険)があります。ただ、これらは火災保険に非常に近いものですが。
後述するように商品次第でネット販売向きの商品を作り易い分野ではないかと思います。
A.市場規模・ニーズ
はっきり言って未知数です。今まで別の普通保険約款に含まれていたものをどのように切りだして商品化するか/新規の補償にするならどんなニーズに対応したものを商品化するかに依存します。
B.保険商品(補償範囲・有無責など)の説明
商品次第ですが、ある事象にかかった費用に対して保険金を支払うという内容になるはずです。既存商品ではないためよく知られていないのが難点ですが、説明が簡単になるように商品を作ればネット販売のハードルは低いと思います。
C.被保険利益の確認・保険価額の確定
先に書いたことと同じで、商品次第です。ある事象が発生する可能性がある人なら費用も発生するので被保険利益ありとすることができます。モノ保険ではないので、保険金額は、単純なロジックで決める/固定にするのいずれかが妥当と思われます。
このあたりの簡潔さはネット販売向きだと思います。
D.告知事項
これも商品次第です。補償範囲や料率の要素で決まってきます。
E.その他
他の保険に比較すれば、損害調査体制を構築しやすいのではないかと思います。保険事故の証明ができれば、あらかじめ定めた額を払うことになり、細かい査定は不要にすることができそうだからです。