日本興亜損保の保険金支払遅延(其の壱)

今年度の年初に、日本興亜損害保険株式会社の元役員の株主が保険金支払の先送りで経営陣責任訴訟の準備するという報道がありました。その保険金先送りの件について、日本興亜損保はそのようなことはなかったと否定したものの、今頃になってマスコミからのそれは実際にあったという報道がありました。
日本興亜、保険支払い遅延 金融庁、処分検討へ」
http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101801000185.html
(47NEWS 2009.10.18)

日本興亜損害保険が、保険金の支払い遅延があったと一部株主から指摘された問題で、内部調査の結果、2008年度に保険金を支払うことが可能だったのに09年度に支払いがずれ込んだ件数が40件程度あったことが18日、分かった。金額は計約7億円のもよう。
日本興亜は「意図的な遅延や経営陣の関与はなかった」と説明、近く金融庁に報告書を提出する。金融庁は業務改善命令など処分の是非を検討する見通し。
日本興亜の株主である元役員が今年5月に同社監査役に対し、支払い遅延で取締役を提訴するよう求めたが、会社側は事実を否定し提訴しなかった。
その後、金融庁が調査を指示したため、日本興亜自動車保険で保険金額が500万円以上の大口契約を対象に調べたところ、支払いの遅れがみつかった。

この記事(共同通信)は、保険金先送りの疑惑があった当時に噂されていた内容とほぼ同じ内容であり、記事の内容として概ね正しいのではないかと思われます。
前々から言われていた決算のための操作ではないかという点に関しては、まだ否定していますが、この点についてもかなり怪しいのではないかと思います。確かに支払備金を立てていれば、それの支払いが遅れたところで財務諸表への影響は小さく、経常利益などについては変わりません。しかし、損保業界の指標として公表している正味損害率は、分子に支払備金を含まないものなので、非常に大きな影響を与えるはずです。言いかえれば、この保険金先送りをしたことにより、正味損害率を実際よりも低くしたということになるのです。
社長の兵頭氏は、大株主であるサウスイースタン・アセット・マネジメントの提案を昨年度拒否した際に、損害率の改善により収益を向上する旨の説明をしていました。その背景を勘案すると、正味損害率を改善したかのように見せることは兵頭氏の自己保身の材料ではないかと考えられます。
それ以外に保険金の支払いを先送りすることによるメリットを享受する人は考えにくく、寧ろ先送りによるデメリットの方がはるかに大きいからです。従って、真相は兵頭氏の命令による経営陣からの指示によって行われたものであると私は考えているのですが、もしかしたらそれは明らかにされないかもしれません。それは、以下に述べるとおり日本興亜損保はこの件に関して嘘の公表を繰り返しているからです。
 
嘘の公表は少なくとも2つは明確にあります。
1つ目は、冒頭に書いた株主からの追及に対する回答です。監査役が調査した結果、保険金先払いの事実はなかったから取締役を提訴しないと結論付けています。
「株主からの取締役責任追及の訴えに関する不提訴理由通知書の送付について」
http://www.nipponkoa.co.jp/news/whatsnew/2009/news2009_06_12_tuuti.pdf
日本興亜損害保険株式会社 ニュースリリース 2009.6.12)
そして、2つ目は6月25日の株主総会での発言です。以下のとおり日本興亜損保は明確に「支払遅延はなかった」旨を株主に対して説明しています。
「【09株主総会ライブ】日本興亜(1)「保険金支払い先送りない」提訴要求を拒否」
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090625/fnc0906251151009-n2.htm
(産経ニュース 2009.6.25)

二宮常務 「過去の支払いもれや第3分野の不払いによる業務改善命令を受け、適切な支払体制構築に全社取り組んできました。全国の保険金支払部門に対し、書類検査により、適切に実施されているかなど、継続して実施してきました。意図的な遅延はこれに反することであってはならないことです。独自に選任の弁護士、公認会計士をもとにメール、書類、ヒアリングの検証を実施しました。あわせて業務監査部、管理部、コンプライアンス部、品質管理部にも徹底した調査の結果、ご質問の6点につきましてはいずれもそのような事実は認められなかったということであり、このような内容で取締役提訴請求書面を頂いたことにつきましては、非常に遺憾に思う次第でございます」

6月25日に「日本興亜損保の株主総会2009」の末尾に『保険金先送りについて、何故そのような疑惑をもたれたのか?疑惑をもたれた原因について調べた結果を聞かせてもらいたい。また、一部のものが指示を曲解したと言っているが、そう捉えられること自体が重大な問題ではないか?曲解されたまま現場が実行したら、結果として保険金先送りが実施されることになることを理解しているのか?』を訊いてみたいと書きましたが、その答えは見えたような気がします。
 
この嘘の公表に対して、世間の信用の失墜以外にペナルティはないのでしょうか?それがないなら、先の短い取締役が嘘をつかないことに対するインセンティブが弱いような気がします。
また、どうも日本興亜損保の上層部にはコンプライアンスという概念はもはや存在しないように感じます。それよりも大事なのは自己保身なのでしょう。内部からの革新は副社長更迭という結果で失敗したようなので、外部からの圧力で経営陣を刷新するしかないかもしれません。株式会社損害保険ジャパンとの統合はそのきっかけとなる可能性が高いですが、そうなればますます日本興亜損保の地位は低くなることでしょう。