日本興亜損保の保険金支払遅延(其の参)

保険金支払遅延の日本興亜損害保険株式会社について、10月23日に金融庁行政処分をくだしました。
日本興亜損害保険株式会社に対する行政処分について」
http://www.fsa.go.jp/news/21/hoken/20091023-3.html
金融庁 報道発表資料 2009.10.23)

(1)迅速な保険金支払を促進するために、支払手続に係る規程・マニュアル等を検証し、必要な見直し・整備を行うとともに、見直し・整備後の業務を確実に実施すること。
(2)保険金支払事務関係者に対する教育・研修の徹底を図ること。
(3)保険金支払管理者・管理部門が保険金支払手続の進捗状況を適切に把握し、迅速に支払うことができるよう、未払事案管理態勢の整備を図ること。
(4)上記(1)〜(3)を含めた、迅速な保険金支払に向けた保険金支払管理態勢の構築について、経営陣が責任をもって対応すること。
(5)上記(1)から(4)について、具体策及び実施時期を明記した業務改善計画を平成21年11月24日(火)までに提出し、以後、業務改善計画の実施完了までの間、計画の進捗及び実施並びに改善状況をとりまとめ、6ヶ月毎に報告すること。

行政処分の内容は以上のとおり、業務改善命令であり、業務停止命令までには至っておりません。経営陣の指示による保険金支払遅延なら、これほど軽い内容にはならなかったと思われます。日本興亜損保金融庁への報告でもやはり経営陣の関与を否定し、それが功を奏したのでしょう。
金融庁行政処分をくだした根拠とした内容は以下のとおりです。

当社から提出された報告書を検証したところ、以下の状況が認められた。
(1)平成20年度内に支払を見込んでいたが、実際には年度内に支払われなかった自動車保険の大口(500万円以上)支払事案の一部(141件、2,219百万円)を検証したところ、以下のように当社の不十分・不適切な対応により保険金支払が遅延している事例が確認された(42件、715百万円)。
①保険金支払の相手方の対応を待っている状況(相手方から支払に必要な書類の提出を待っている、保険金支払提示額に対する相手方の見解を待っている等)で、当社から相手方に積極的に連絡をとっていない事例。
②当社の手続(必要書類が整った後に支払額算定を行う等)に長時間を要している事例。
③支払のために必要な調査(事故状況の調査、既往症の影響に関する調査等)を支払手続の最終段階になって開始しているため、支払が遅延している事例。
④職員の懈怠による長期放置、支払のために必要のない手続の実施等の不適切な対応をしているため、支払が遅延している事例。
(2)なお、検証を行った事案の中で、正味収支残高目標の達成のために意図的に保険金支払を遅延させた事例は確認されなかった。
2.このような不十分・不適切な対応による保険金支払遅延が発生した原因として、当社の業務運営態勢及び経営管理態勢に次のような問題が認められた。
(1)支払相手方の対応待ちの状況における当社の対応(督促等)のルールが不明確。
(2)支払手続の標準所要日数の基準が未設定である等、手続遅延に対する認識が希薄。
(3)支払のために必要な調査やそのタイミングをまとめたマニュアルの不存在。
(4)保険金支払管理者が長期未払事案を適切に把握・是正する等の管理態勢の未構築。
(5)上述のように、迅速な保険金支払に向けた業務運営態勢を現在に至るまでの当社経営陣が適切に構築してこなかった、経営管理態勢上の問題。
3.適時・適切な保険金の支払は保険会社の基本的かつ最も重要な機能である。
当社においては、過去の行政処分(注)を踏まえ、保険金の支払漏れや不適切な不払いの防止に向けた業務改善の取組は進められてきたものの、保険金の迅速な支払については、上記2.のように業務運営態勢及び経営管理態勢上の問題が認められた。
このため、保険金の迅速な支払を確保し、保険契約者等の保護を図るために、当社は、迅速な保険金支払に向けた支払管理態勢の構築を確実に実施する必要がある。
(注)平成17年11月25日付及び平成19年3月14日付。

保険会社としては保険事故について、支払備金をたててしまえば、その事案はもう不払い扱いとはならないという認識と思われます。勿論、実際の支払いがなされるまでは、被保険者としては保険金を受け取っていないわけですから、不払いと同じことです。つまり、必要以上に保険金支払を遅延させることは、不払いを言っても良いと思います。
「保険金の支払漏れや不適切な不払いの防止に向けた業務改善の取組は進められてきた」とここには書かれていますが、それは単に保険会社内部の処理の話であって、対被保険者においては結局は無縁の取組で実効性は限定的だったと言うことができます。
 
日本興亜損保はここ数年で「付随的な保険金の支払漏れ」(業務改善命令 2005.11.25)と「第三分野商品に係る保険金の多数の不適切な不払い」(業務停止命令・業務改善命令 2007.3.14)の行政処分を受けており、それらに対する業務改善計画の実施状況を直近では 2009.1.13 に下記リンク先にて公表しています。
「業務改善計画の実施状況について」
http://www.nipponkoa.co.jp/news/whatsnew/2009/news2009_01_13_gyoumukaizen.pdf
そこには美麗字句が書き連ねられており、『I.経営管理(ガバナンス)態勢の改善・強化 4.内部監査態勢の強化』『II.保険金支払管理態勢の改善・強化 3.保険金支払管理部による検査の実施』『IV.法令等遵守態勢の改善・強化 1.法令等遵守態勢の強化』『IV.法令等遵守態勢の改善・強化 2.コンプライアンス研修の強化』等がその中に既に実効性を挙げていると謳われています。
しかし、それでも今回の支払遅延は事実として起こりました。そのことは、上記の業務改善計画が既に効果を発揮していると公表しているのと矛盾があります。
それには以下の2つのいずれかが考えられます。私は後者の方だと思っています。
1つ目は、実は上記の業務改善計画は形だけのものであり、実際には社内にコンプライアンスの意識が全く浸透していなかったということです。仮に、支払遅延が現場の怠慢・意図によるもので、監査する側も見て見ぬふりをしたのであれば、この可能性があります。
もう1つは、経営陣が支払遅延の指示をしており、支払部門・監査部門はその意向に従わざるを得ず、業務改善について虚偽の報告をせざるを得なかったかもしれないということです。社長の兵頭氏が独裁的に振る舞う中で、上の意向に反すればどのような仕打ちを受けるかを担当者の身になって考えればありうる話です。
 
この件に関して、当然に日本興亜損保も情報発信をしています。そのほとんどの部分が金融庁サイトにある上記の行政処分に関する記述と同じものですが、以下の再発防止に関する方針の部分は日本興亜損保の方だけに表記されています。また、行政処分の根拠となった事案(42件・715百万円)についての同社による調査結果も記載されています。
「弊社に対する行政処分について」
http://www.nipponkoa.co.jp/news/whatsnew/2009/news2009_10_23_news.pdf
日本興亜損害保険株式会社 ニュースリリース 2009.10.23)

今般の行政処分を踏まえ、弊社では全社的に保険金の支払遅延等を根絶するために、迅速な支払いに向けた未払事案の管理態勢を構築し、新たな仕組み(マニュアル等の整備を含む)やシステムを導入するとともに、保険金支払部門の担当者の教育を強化することで、保険金の迅速な支払に向けた意識やスキルのレベルアップを図ります。
さらに、内部監査等で未払事案の管理状況をモニタリングするとともに、万一不十分な点があれば、さらなる対応策を実施し、迅速な保険金の支払態勢の構築に向けてPDCAサイクルを回していくとともに、経営陣自らが責任を持って対応策を適切に推進してまいります。

11月24日までに提出する必要のある業務改善計画は、この内容をベースに作られるはずです。
経営陣自らが推進するとここで謳っているということは、この不祥事で兵頭氏が退くということはまったく考えていないという決意表明と受け取ることができます。
 
実のところ、今回の業務改善命令がなくとも、保険金支払遅延を防止する仕組みの構築は保険法の施行に伴い必須事項でした。
なぜなら、保険法第21条(給付の履行期)・第81条(給付の履行期)で保険金支払の遅延について保険会社の責任を求められており、今までは遅延があってもペナルティがなかったのですが、保険法施行後は延滞利息というペナルティが発生し、殊更に適切に事案管理をする必要が生じるからです。
日本興亜損保は2009年12月から自動車保険については、保険法対応約款の適用が開始します。そして、それ以前の旧約款についても、この内容については保険法対応約款と同時に適用するように金融庁から指示が出ています。つまり、自動車保険に関しては、保険金支払遅延に対する管理を完全にこなす仕組みが、2009年12月以降に発生した事故については処理可能となっていなければなりません。
時期的に考えて、その準備ができていないということはありえないでしょう。ただ、現在公開されている日本興亜損保のご契約のしおり(安心ガイド)を見るかぎりでは、一抹の不安があります。その件に関しては、また別途書くことにします。