平成21年度政策評価書−地震保険

今年度は財務省政策評価地震保険が取り上げられ、その評価結果が10月14日に出ました。
「重要対象分野に関する評価書−地震保険−(総合評価書)」
http://www.mof.go.jp/jouhou/hyouka/honsyou/21nendo/hyoukasho/sougou-hyoukasho.htm
財務省 政策評価>平成21年度政策評価書>平成21年度総合評価書 2009.10.14)
評価項目は以下のとおりです。調査にあたっては、損害保険料率算出機構の資料とアンケートを利用しています。損保料率機構の資料には共済は考慮されていないはずなので、調査結果を見る場合はそこを踏まえる必要があります。

(1)地震保険の効果
 ①地震保険制度の必要性について
 ②政府による再保険の必要性について
 ③巨大地震への対応について
(2)地震保険の加入促進のための施策の効果
 ①加入率が伸びていない要因について
 ②税の優遇措置の効果について
 ③広報活動の効果について
 ④保険会社における販売インセンティブについて
(3)保険内容が地震保険加入に及ぼす影響
 ①保険料率水準について
 ②加入限度額と付保割合について
 ③地震発生確率の保険料率への反映方法について
 ④耐震割引等の割引制度の効果について
(4)被災者支援策が地震保険加入に及ぼす影響
(5)地震保険の加入促進のための方策の検討
 ①加入促進のための方策について
 ②火災保険への強制付帯について

国として地震保険の普及に関わることに意義があるのか/関わり方に改善すべき点があるかという視点で調査をしていると思います。
どうも結論は、基本的に現行制度を維持しつつ、地震保険について広く理解を求めるということのようです。と言うのも、割と地震保険やその周辺制度について知られていないことが明らかになったからです。
 
地震保険料と加入の関係についても、いくつか興味深い結果が出ています。
参考資料P.13の「世帯主の年収と加入の有無の関係」(アンケート調査)によると、世帯主の年収が1000万円未満では、年収が低いほど地震保険の付帯率が低くなっています。
そして、参考資料P.14,15の「地震保険の加入を検討したが加入しなかった理由」と「地震保険の加入も検討しなかった理由」では、保険料の高さを挙げる回答がトップでした。
その後のP.16〜19では、保険料が高いと感じることに関するアンケート結果が記載されています。尤も、だからといって地震保険料を下げることはできないでしょうから、参考としての意味しかないと思います。ただし、国が補助を出すというのなら別です。
 
地震保険料控除と加入の関係については、参考資料P.22の「加入した理由に地震保険控除とした人の割合」,「地震保険料控除制度により、最高で5万円の控除が受けられることの認知度」のアンケート調査結果より傾向を見ることができます。
驚くべきことに、地震保険に加入しておきながら地震保険料控除のことを知らない人が5割近くもいます。知らないということは年末調整等での申告もしていないのでしょう。本来は控除されるものが控除されていない…何だか保険料の取り過ぎ問題と同じ構図のように感じます。保険会社の場合はNGで、税務署の場合はそれは納税者の問題だから看過しても良いという理屈にはならず、問題視すべきことだと思います。
話は変わりますが、個人的には、従来の損害保険料控除が廃止され、地震保険料控除のみになったことに納得できません。従来の損害保険料控除もその対象となる損害保険は個人の日常的な損失を補完するものに限られ、その自助努力として加入している保険について税金面で補助するというものでした。何故、それを地震限定に狭めるのか?と考えると、自然災害のうち地震だけを特別視する理由はなく、国がした制度改定には疑問を感じます。
もし地震保険だけは普及率が低いから、税務面で補助をすることにより普及率促進を狙っているというのであれば、生命保険料控除との整合性がとれていないと思います。
 
税金の控除と類似の内容として、地震保険の割引の認知・効果に関する調査結果があります。
参考資料P.43の「割引制度の認知度」(アンケート調査)によると、これも思ったよりも低いことが分かります。地震保険加入者の方が非加入者に比べて認知の割合は明らかに高いのですが、それでも3割程度の人が知らないと回答しています。知らないけど、実は割引適用対象だったということになれば、保険料取り過ぎ問題となります。非加入者はこの際どうでも良いことですが、少なくとも加入者に対しては知らないということがないように保険会社はするべきです。
 
地震保険の広報に関しては、日本損害保険協会が中心となって各種広告を行っています。しかし、私の知る限りでは、広告の内容は「地震に備えるには地震保険への加入が必要」という程度のものであり、それ以上の内容(税金の控除,地震保険制度の仕組み等)に踏み込んではいません。このあたりに関しては改善の必要性が感じられます。
また、各損保は地震保険未加入者に加入促進ハガキを出しています。ハガキの内容は地震保険を付帯した場合の保険料を出していると思います。以前に私がいた保険会社では、このハガキが届く頃には地震保険の中途付帯の申し込みが明らかに増加したように記憶しています。今回の調査結果では、そのことについて調べられていませんが、そのような見方…広告等の出稿時期と地震保険の付帯率の相関を見て、効果的な方法を検討すべきかと思います。
 
参考資料P.15の「地震保険の加入も検討しなかった理由」では、「賃貸住宅に住んでいるから」を挙げる回答が 33.8%もあり、2番目に高い要素となっています。
賃貸住宅の場合は家財のみが付保対象となりますが、そこで少額短期保険業者の保険に加入している人も多いのではないかと思います。この場合、地震保険を家財に付保するという選択肢は居住者の意図とは無関係に失われます。少額短期保険業者地震保険を付帯する火災保険を売っていないからです。
この点に関しては、地震保険制度の見直しと少額短期保険業者地震保険制度への参加が必要ではないかと思います。
 
ちなみに、アンケートに関しては損保料率機構が行っており、また資料の提供も損保料率機構が行っています。つまり、評価の根拠となる調査に関しては損保料率機構が行ったと言えます。
4月25日に「政策評価財務省議事録−地震保険」国土交通省との連携して調査をすることが望ましいと書きましたが、そのような動きは一切なかったようです。
特に地震保険割引に関しては、国土交通省の施策(耐震性の高い住宅の普及)上の割引という見方もできます。割引のための手続き(要書類)が面倒なものを導入しているのだから、その効果は国土交通省と協力の上で、精緻に調べるべきだったと思います。地震保険割引適用のための書類を交付してもらうための手続きが面倒とか費用が高いとかといった話を耳にします。それが全体的にそういうネックがあるものなのかどうかといった点に関してもよく検証すべきです。
あまり期待はしていませんが、縦割り行政では気付きもしないこのような点に関して、消費者庁が問題の解消に向けて動くと良いのではないかと思います。