保険法改定による自動車保険の約款変更(其の壱)

現時点で、自動車保険について保険法に対応した約款が東京海上日動火災保険株式会社三井住友海上火災保険株式会社株式会社損害保険ジャパン日本興亜損害保険株式会社共栄火災海上保険株式会社ソニー損害保険株式会社にて入手可能となっています。
保険法改定で約款がどのように変わったのか、実際に確認してみました。と言っても、上記5社全てで詳細に見るのは大変なので、普通保険約款に関してはソニー損保の総合自動車保険 Type S で見ることにします。
最初は、基本条項からです。ちなみに、従来は一般条項だったものが、基本条項という名称になっただけで位置付けは同じです。
 

第1条(用語の定義)

ここは日本損害保険協会「保険約款のわかりやすさ向上ガイドライン」に沿って、用語の定義がされています。
ほとんどの用語は従来では条文中にあるものをココに持ってきただけですが、「危険増加」と「告知事項」は保険法の影響を受けたものになっています。
「危険増加」

告知事項についての危険が高くなり、この保険契約で定められている保険料がその危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいいます。

「告知事項」

危険に関する重要な事項のうち、保険契約申込書の記載事項とすることによって当会社が告知を求めたものをいいます。(注)
(注)他の保険契約等に関する事項を含みます。

 

第2条(保険責任の始期および終期)・第3条(保険責任のおよぶ地域)

改定前の第1条(保険責任の始期および終期)・第2条(保険責任のおよぶ地域)と本質的には同じです。
 

第4条(告知義務)

改定前では第3条(告知義務)にあたります。ここは保険法による影響が多くあります。
まずは、第1項に以下の規定が新設されています。寧ろ今まで、この文章が約款になかったのが不思議です。

(1)保険契約者または記名被保険者(注)になる者は、保険契約締結の際、告知事項について、当会社に事実を正確に告げなければなりません。

第2項は以下のとおりとなっています。細かいことですが、改定前は「知っている事実」と約款にありました。これが単なる「事実」に改められています。

(2)当会社は、保険契約締結の際、保険契約者または記名被保険者(注)が、告知事項について、故意または重大な過失によって事実を告げなかった場合または事実と異なることを告げた場合は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。

第3項では、告知義務違反に問えない場合を規定しています。ここも保険法の影響で一部変更があります。具体的には、保険媒介者の告知妨害・告反教唆,解除の除斥期間です。ソニー損保は保険媒介者による保険募集を想定していますが、代理店系損保はその想定がされていないこともあるようです。

? 保険媒介者(注2)が、保険契約者または記名被保険者(注3)が告知事項について当会社に事実を正確に告げることを妨げた場合。ただし、保険媒介者(注2)の行為がなかったとしても、保険契約者または記名被保険者(注3)が事実を告げず、または事実と異なることを告げたと認められる場合を除きます。
? 保険媒介者(注2)が、保険契約者または記名被保険者(注3)に対し、告知事項について当会社に事実を正確に告げないよう勧めた場合または事実と異なることを告げるよう勧めた場合。ただし、保険媒介者(注2)の行為がなかったとしても、保険契約者または記名被保険者(注3)が事実を告げず、または事実と異なることを告げたと認められる場合を除きます。
   (中略)
? 当会社が、(2)の規定による解除の原因があることを知った時から1か月を経過した場合または保険契約締結時から5年を経過した場合

あと、改定前約款の第2項第5項がなくなっていますが、それは告知事項の定めそのものが変更になったためと思われます。
第4項は、告知義務違反時の免責の規定で、ここは改定前と同じです。
第5項では、告知義務違反時の免責について因果関係原則の規律が新設されています。

(5)(4)の規定は、(2)に規定する事実に基づかずに発生した事故による損害または傷害については適用しません。

 

第5条(通知義務)

改定前では第4条(通知義務)にあたります。ここも保険法による影響が多くあります。
第1項は以下のように変更となっています。改定前では、契約者側に帰責事由がある場合は「あらかじめ」、そうでない場合は「遅滞なく」通知するように定められていたのが、一律「遅滞なく」通知すれば足りるように改められています。また、「他の保険契約等の締結」が通知事項から除かれています。そして、通知事項に関しては、保険会社の承認を得る必要はなく、契約者は通知さえすれば良いことになっています。

(1)保険契約締結の後、次のいずれかに該当する事実が発生した場合には、保険契約者または被保険者は、遅滞なく、その旨を当会社に通知しなければなりません。ただし、その事実がなくなった場合には、当会社への通知は必要ありません。
? 被保険自動車の用途車種または登録番号(注1)を変更したこと。
? ?のほか、告知事項の内容に変更を生じさせる事実(注2)が発生したこと。

第2項・第3項は、通知義務違反による解除に関する規定です。ここも保険法のとおりに改定されています。ちなみに、ソニー損保では、改定前は第10条(解除)の第1項第1号と第5項にて規定されていました。

(2)(1)の事実の発生によって危険増加が生じた場合において、保険契約者または被保険者が、故意または重大な過失によって遅滞なく(1)の規定による通知をしなかったときは、当会社は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。
(3)(2)の規定は、当会社が、(2)の規定による解除の原因があることを知った時から1か月を経過した場合または危険増加が生じた時から5年を経過した場合には適用しません。

第4項は、通知義務違反時の免責の規定で、ここは改定前と同じです。
第5項は、通知義務違反時の免責について因果関係原則の規律が新設されています。告知と同じです。
第6項と第7項は新設された規定です。通知事項について引受範囲外になった場合は、その時点に遡って契約を解除できるという規定です。従来の商法ベースの約款では、通知事項に対して保険会社の承認が必要でした。保険法では承認は不要とし、引受可能なら保険会社は契約を継続しなければならず、引受不可能な場合に限って解除することができるという規律になっています。

(6)(2)の規定にかかわらず、(1)の事実の発生によって危険増加が生じ、この保険契約の引受範囲(注)を超えることとなった場合には、当会社は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。
(注)保険料を増額することにより保険契約を継続することができる範囲として保険契約締結の際に当会社が交付する書面等において定めたものをいいます。
(7)(6)の規定による解除が損害または傷害の発生した後になされた場合であっても、第14条(保険契約解除の効力)の規定にかかわらず、解除に係る危険増加が生じた時から解除がなされた時までに発生した事故による損害または傷害に対しては、当会社は、保険金を支払いません。この場合において、既に保険金を支払っていたときは、当会社は、その返還を請求することができます。

 

第6条(保険契約者の住所変更)

これは新設された規定です。契約者住所は告知事項でも通知事項でもないけど、契約保全上重要な項目なので、特に設けられているのではないかと思います。

保険契約者が保険証券記載の住所または通知先を変更した場合は、保険契約者は、遅滞なく、その旨を当会社に通知しなければなりません。

 

第7条(被保険自動車の譲渡)・第8条(被保険自動車の入替)

改定前の第5条(被保険自動車の譲渡)・第6条(被保険自動車の入替)と本質的には同じです。
 
保険法によって最も影響を受けるのは基本条項なので変更が多いのは予想していましたが、そのほんの触りの部分だけでそこそこのボリュームになってしまいました。
続きはまた次の機会に書くことにします。