保険法改定による自動車保険の約款変更(其の参)

「保険法改定による自動車保険の約款変更(其の壱)」(2009.12.1)では保険法改定による自動車保険の普通保険約款の変更内容を、ソニー損害保険株式会社の総合自動車保険 Type S で見ることにしました。そして、其の壱其の弐と書いてきました。
前回までで、第19条まで見てきたので、今回はその続きからです。
 

第20条(事故発生時の義務)

改定前約款の第14条(事故発生時の義務)を一部改定しています。
第1項でぱっと目につくのが、事故通知義務者に「保険金を受け取るべき者」が追加になっていることと、損害防止義務の書きぶりが「損害の防止および軽減」から「損害の発生および拡大の防止」に変わったことです。後者は保険法の記述に合わせたものと思われます。
それから、以下のとおり重複保険の有無が新たに追加になっています。重複保険の有無は告知事項ですが、通知事項ではないため、事故時点における状況を保険会社が把握できないためでしょう。

⑨ 他の保険契約等の有無および内容(注2)について遅滞なく当会社に通知すること。

人身傷害補償保険の損害防止義務を規定した第2項は単純に追加されたものですが、ソニー損保では今回の改定で人身傷害補償保険が普通保険約款に追加されたことによるもののようです。
 

第21条(事故発生時の義務違反)

改定前約款の第15条(事故発生時の義務違反)を見直したものになっています。
改定前約款では第1項・第2項において、正当な理由なく事故発生の通知,事故内容の通知,盗難の届出,修理着工の事前承認,訴訟の通知,書類の提出等を怠った場合は、保険金の支払いをしない旨を規定していました。しかし、それが今回の改定で撤廃されています。法律に免責とする根拠がなく、一方的に保険会社有利な内容なので、今回の保険法改定の趣旨を踏まえて削除されたと思われます。
その代わりに、第20条の事故発生時の義務違反をした場合は、保険金を削減して支払う旨が第2項に規定されています。つまり、免責にはしないが、義務違反によって生じた損害は保険会社は負担しないということです。
同様に、保険金請求書類に虚偽の記載等をした場合の扱いも、免責から保険金の削減払いに変更されています。
 
なお、改定前約款の第16条(対人事故通知の特則)は撤廃されています。これも法律に免責とする根拠がなく、一方的に保険会社有利な内容なので削除されたのでしょう。
 

第22条(他の保険契約等がある場合の保険金の支払額)

改定前約款の第18条(重複契約の取扱い)に相当する内容です。
以前は独立責任額按分方式だったのが、保険法第20条で独立責任額全額支払方式が規定されたので保険法と同じ内容に改定されています。
 

第23条(保険金の請求)

改定前約款の第20条(保険金の請求)を見直したものになっています。
第1項では、保険金請求権の発生時期を規定しています。搭乗者傷害保険の医療保険金の箇所が多少変更されているのと、人身傷害補償保険が普通保険約款に加えられたことによる変更があるくらいです。
第2項では、保険金請求書類の提出について規定しています。大きなところでは、保険金請求書類を提出する期限は60日以内である期限が撤廃されたことです。これは、書類の提出が遅れれば保険金の支払時期が遅れるだけの事なので、そちらで整理したのでしょう。保険金請求書類については、ざっくりと「その他当会社が特に必要と認める書類または証拠」と記載されていた箇所は見直され、約款内か「保険契約締結の際に当会社が交付する書面等」にて契約締結時に全てを示すこととなりました。
第3・4項は新設された規定で、被保険者の代理人による請求について規定しています。
第5項も新設された規定で、第2項で定めた書類以外にも、保険金請求にあたり書類等を請求することがある旨を規定しています。第2項の書類と異なる点は、第5項の書類等は、契約締結時には保険会社から提示されないことと保険金支払時期の日数の判定に考慮されないことです。
第6項は、対人賠償の臨時費用の請求者を規定したもので、変更なしです。
第7項は、第21条と同じく、保険金請求書類に虚偽の記載等をした場合の扱いが、免責から保険金の削減払いに変更されています。
 

第24条(保険金の支払時期)

改定前約款の第21条(保険金の支払)を大幅に見直したものになっています。
全体的には、保険法第21条(保険給付の履行期)・第81条(保険給付の履行期)を踏まえたものに改められています。
第1項で標準の支払期限は30日であることを規定し、第2項で特別なケースについてその類型毎に標準と異なる支払期限を規定しています。
そして、その支払期限の日数のカウントのスタートは、第23条(2)の書類が保険会社に提出された時であることも明確に規定し直しています。
それと共に、支払期限の日数のカウントから除外するケースについて、第3項にて規定しています。これは契約者等が保険金支払に協力しない場合は、従来であれば免責としていたところを、保険金支払が遅れるだけという整理にしたものと思えます。
 

第25条(当会社の指定する医師が作成した診断書等の要求)

改定前約款の第17条(当会社の指定する医師による診断)を見直したものになっています。
内容はほぼ同じですが、人身傷害補償保険が普通保険約款に加わったことによる変更と、保険会社の要求を拒否したときの免責(第3項)の撤廃の箇所が変わっています。
 

第26条(損害賠償額の請求および支払)

改定前約款の第22条(損害賠償額の請求および支払)を大幅に見直したものになっています。
改定の趣旨および内容は、(1)〜(5)は前述の第23条(保険金の請求)とほぼ同じで、(6)〜(8)は前述の第24条(保険金の支払時期)とほぼ同じようです。
 

第27条(時効)

改定前約款の第24条(時効)を見直したものになっています。
保険法第95条(消滅時効)を踏まえて、保険金請求権の時効を3年と改めています。
 

第28条(損害賠償額請求権の行使期限)

改定前約款の第25条(損害賠償額請求権の行使期限)で、内容に変更はありません。
 

第29条(代位)

改定前約款の第23条(代位)を見直したものになっています。
第1項は、改定前の第1項とほぼ同じで、ただし書による補足で移転の範囲の明確化を図っているようです。第2項はそのおまけでしょうか。
第3項は、改定前の第2項とほぼ同じです。重過失が追加になっている点は、免責に重過失が追加になったのと同じ整理かと思います。
 

第30条(保険契約者の変更)

キャプションのとおり、保険契約者の変更に関する規定です。
第1項および第2項は、保険契約者側からの申し出に基づく保険契約者の変更で、新設規定です。とは言え、実務では普通に行っていたことが約款内に規定されただけのことです。
第3項の保険契約者の死亡時については、改定前約款の第26条(保険契約者が死亡した場合の取扱い)第1項と同じです。
 

第31条(保険契約者または保険金を受け取るべき者が複数の場合の取扱い)

改定前約款の第26条(保険契約者が死亡した場合の取扱い)の第2〜4項とほぼ同じです。
 

32条(訴訟の提起)

以下の新設規定です。

この保険契約に関する訴訟については、日本国内における裁判所に提起するものとします。

 

第33条(準拠法)

改定前約款の第27条(準拠法)で、内容に変更はありません。
 
これで普通保険約款 第7章 基本条項は一通り全部見ました。
次は普通保険約款 第1章 賠償責任条項の予定です。