アグレックスの保険商品照会サービスの失敗

保険商品の公正な比較はなかなか困難で、概要ならともかく細かい違いについて知ろうとするとその保険会社のサイト内にある約款や重要事項説明書を集めて比較するという方法になろうかと思います。その資料も公開していない保険会社もまだありますし、サイト内のどこにあるのかもまちまちです。
そのような状況の中、株式会社アグレックスが aipis という保険代理店向け保険商品照会サービスを行う旨のニュースリリースを昨年の12月24日に出しました。
アグレックス、保険代理店向け保険商品照会サービス「aipis」を提供開始」
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=239861&lindID=1
(NIKKEI NET 2009.12.24)

ITホールディングスグループの株式会社アグレックス(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:上野昌夫、証券コード:4799、以下 アグレックス)は、1月12日より、保険代理店向けサービスとしては業界初となる新サービス、保険商品照会サービス(※1)「aipis(※2)」の提供を開始します。なお、導入・検討を前提に、別途3ヶ月間の無料お試しサービスもご用意しています。
   (略)
◆保険商品照会サービス「aipis」提供開始の経緯
昨今、保険代理店等の募集従事者が保険商品の募集を行うに際しては、消費者団体等から、その説明の公平性や正確性が強く求められるようになってきております。このため、保険代理店は説明資料の収集・作成や商品理解等に大幅な時間や労力を取られており、より簡便に、しかも正確に商品情報を並列に検索できるサービスを求めていました。
こうした状況を受け、アグレックスは、保険代理店の負担を削減し、より簡便かつ正確に、保険会社各社の「商品パンフレット」や「約款」、「重要事項説明書」をWEB 経由で同時に検索できるサービスを提供することとしました。
また、既存の多くの保険商品比較サイトは、その運営を保険代理店が行っているため、掲載商品も代理店委託契約を締結している特定の保険会社の商品に限定している場合がほとんどです。今回提供を開始する新サービス「aipis」は、第三者の立場でアグレックスが運営を行うため、様々な保険会社の商品を一覧できる保険代理店向けとしては業界初となるサービスになります。

多分、各保険会社の資料を加工しないまま参照させるだけのことだろうと思いますが、便利といえば便利です。ただし、残念ながら、有償であり、商用利用のみのようです。
ここで疑問なのは、無償の情報をそのままで有償で売り出すのはいかがなものか?ということです。無論、情報提供元である保険会社がOKを出していれば問題ありません。
そのことを意識したかのように、アグレックスニュースリリースの最初に出されたものには、以下の一文が入っていました。

金融庁、生命保険協会、損害保険協会、外国損害保険協会、日本代理店業協会、日本保険仲立人協会より、事前に本サービスにつき問題がない旨を確認しています。

しかし、この一文は即座に削除されたようです。
常識で考えれば、少なくとも金融庁がこのような個別サービスに対して是非の回答をするとは考えにくいです。また、確認先も協会などではなく資料に対する権利を持っている保険会社に直接すべきです。
これは私の勘ですが、アグレックスの営業部門の勇み足であり、この一文は虚偽ではないかと思っています。
 
そして、開始のニュースリリースが出されてから1か月もしないうちに、中止のニュースリリースが出されました。
「保険商品照会サービス「aipis」のサービス開始中止のお知らせ」
http://www5.agrex.co.jp/vicms/export/file.dof?ara=ax:c001top:a31660140328827
(株式会社アグレックス NEWS 2010.1.12)

2010年1月12日にサービス開始を予定しておりました保険代理店向け保険商品照会サービス「aipis」は、諸般の事情により、サービス開始を中止させていただくこととしましたので、お知らせいたします。

延期ではなく中止です。システム開発に遅れが出た等の理由なら延期とするでしょうが、中止ということはリーガル上の問題だったと推測されます。おそらく、削除された一文に関係する内容だろうと思います。
アグレックスが aipis で行おうとしたことは概ね妥当だろうと個人的には思ってますが、タダの資料を使ってやろうと考えているなら、その実現へのハードルは現時点では非常に高いものと言えそうです。
手間ですが確実なのは、各保険会社と情報提供に関して個別に契約を結んだ上で、情報を求める者に提供することだと思います。そして、商品全体の情報提供をし、募集行為を直接行わないなら、金融庁や協会などへの了承の取り付けは不要だろうと思っています。
リトライするかどうか興味深く見ています。
 
乗合代理店であれば乗りあっている保険会社の範囲内では aipis は不要だと思いますが、乗りあっていない保険会社の商品を知ろうとするときにあれば便利かと思います。私個人は外回りではありませんが、それでも他社の契約者からの他社商品に関する質問に答えざるをえないことがありましたから、ニーズは一定あるものと考えられます。
また、保険会社からも、他社で良い商品が出た際に、それと比較した自社商品のアピールポイントを代理店に流すことがあるかと思いますが、当然にバイアスがかかっているはずです。
そういう意味でも、アグレックスの着眼点は悪くなかったと思います。