NKSJの統合と商品戦略

先日の日刊工業新聞の記事に株式会社損害保険ジャパン日本興亜損害保険株式会社自動車保険と火災保険の統合の時期が書かれていました。
もともと、NKSJホールディングス株式会社の計画で商品の統合を行うと言っていたことなので、商品統合自体は分かっていましたが、時期が明言されたわけです。もう1つ、この記事では特約については違いが残ると書かれています。
「損保ジャパンと日本興亜、自動車・火災保険を統合」
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1220100311daac.html
日刊工業新聞 2010.3.11)

損保ジャパンと日本興亜損害保険は、2012年10月から自動車保険と火災保険を統合する。今年4月に両社がNKSJホールディングスを設立し経営統合することに伴う合理化策の一環で、保険料を構成する付加保険料はそれまでの商品と比べて引き下がる見通し。順次統合する種目を広げ、13年度末までに全商品を共通化する。
損保ジャパン、日本興亜損害保険両社の社長が日刊工業新聞のインタビューに同時に応じて明らかにした。両社が提供する自動車保険と火災保険について、12年10月始期の契約から、保険契約の基本部分となる主契約を同一にする。
特約の違いは残る見通し。関連する事務やシステムを共通化し合理化を進める。このため、保険料のうち保険会社の事業費に相当する「付加保険料」は、それまで個社が扱う商品に比べて少なくできる見通しだ。

 
自動車保険について、この2社の商品の違いをざっくりと知るには、日本損害保険協会の『自動車保険商品の比較サイト』を使うのが手っ取り早いです。
http://hikaku.sonpo.or.jp/car/select
細かい部分については、約款を読む必要があります。損保ジャパンの ONE-STEP(個人用総合自動車保険)(2010.4改定)と日本興亜損保のカーBOX(くるまの総合保険)(2009.12改定)でちょっと見てみることにします。
一番気になるのは、人身傷害補償保険です。
ONE-STEP の人身傷害補償保険は、普通保険約款の人身傷害補償条項は、ノーマルな人身傷害補償保険に自損事故傷害が加わったものとなっています。ちなみに、ノーマルな人身傷害補償保険とは、自動車の運行に起因する事故と自動車運行中の飛来物との衝突・火災・落下等の事故を補償するという意味で使っています。
しかし、ONE-STEP は、ここに「人身交通乗用具危険特約」と「人身犯罪被害事故特約」が強制付帯されます。
このような特約は普通は契約者の意思で付帯を選択するものですが、損保ジャパンはおそらく保険料を取るために強制付帯させているものと思います。正直なところ、犯罪被害に遭ったときに自動車保険で保険金請求をする人がどれほどいるのか疑問です。潜在的に保険金不払いになっているのではないかと睨んでいます。
一方、カーBOXの人身傷害補償保険、普通保険約款の人身傷害補償条項が、一般的な人身傷害補償保険よりも狭くなっており、被保険自動車搭乗中のみ担保の人身傷害補償保険に自損事故傷害が加わったものとなっています。
これは、1家に複数台の自動車がある場合のことを考慮した商品構成になっていると思います。1家に複数台の自動車がある場合は、2台目以降は被保険自動車搭乗中のみ担保にしないと補償が重複してしまいます。人身傷害は実損填補なので重複したところで、保険金が多く払われるわけではないので、重複があると保険料の払い損になります。しかし、普通保険約款の時点で最初から被保険自動車搭乗中のみ担保の状態になっていれば、そういう問題が防げるというわけです。
このように人身傷害補償保険に関しては、強欲とも言える損保ジャパンのONE-STEPに比べて日本興亜損保のカーBOX の方がはるかに良心的な内容となっています。以前に、「日本興亜損保の株主総会開催差止の仮処分申立」(2009.12.12)の最後にぽろっと触れたのはこのことです。
他にも、年齢条件の区分,運転者限定の範囲,ロードサービスあたりの違いが統一にあたって気になります。
年齢条件の区分に関しては、カーBOX が一般的な区分(全年齢補償,21歳以上補償,26歳以上補償,30歳以上補償,35歳以上補償)となっているのに比べ、ONE-STEP は26歳以上補償の区分がない代わりに、24歳以上補償と27歳以上補償の区分が存在します。
運転者限定の範囲については、ONE-STEP が一般的な区分となっていますが、カーBOX は本人限定が存在します。
ロードサービスについては、「付帯サービスについての豆知識(其の四)」(2008.8.31)で書いたとおり、保険期間と連動するかしないかという違いです。
ざっくり見ただけでこれだけの違いがあるのですから、統一というのは相当に大変な作業ではないかと思います。特に自動車保険は主力商品であるだけに個社の拘りがあるから尚更でしょう。
 
余談ですが、以下の朝日新聞の記事によると、将来は合併も選択肢にある旨を両社の社長が語ったとあります。合併の検討は容易に予想されることですが、統合が承認される前は合併はしないと盛んに言っていたことからすると、また嘘の情報を世間に流していたのかとうんざりします。
特に日本興亜損保の兵頭氏は、損保ジャパンとの統合の発表をする直前まで、統合はせず独立でやっていくと言っていました。具体的には「自主独立でいく。経営統合の話はない。」と2009年3月14日発行の週刊ダイヤモンドのインタビューで答えています。つまり、その時に引き続き今回もまた世間を騙したということになります。
「損保ジャパンと日本興亜「合併も選択肢」 統合控え転換」
http://www.asahi.com/business/update/0311/TKY201003100494.html
asahi.com 2010.3.11)

4月1日に持ち株会社方式で経営統合する損保ジャパンの佐藤正敏社長と日本興亜損害保険の兵頭誠社長は、朝日新聞のインタビューで、経営環境次第では将来、両社の合併も選択肢になるとの考え方を示した。兵頭社長は、経営統合を決めた昨年12月の株主総会では「合併はしない」と述べていた。
佐藤、兵頭両社長は新しくつくる持ち株会社「NKSJホールディングス」の共同最高経営責任者(CEO)に就く予定で、そろってインタビューを受けた。両社長は昨年3月に統合合意を発表。「ワンプラットホーム・ツーブランド(一つの土台に二つの看板)」を打ち出し、それぞれが持ち株会社の下で独自に営業を続ける態勢を強調してきた。
今回のインタビューで、兵頭社長は「両社の株主の賛成を得たわけだから、まずは(2社併存による)共同態勢を作っていく」と述べたうえで、「ただし、環境が変化すれば、考えなければいけないことは当然検討していく」とも説明。コスト削減などの効果が出やすい合併も将来の選択肢として「否定はしない」と話した。
佐藤社長も「いまのビジネスモデルで成果が出ず、株主から『どうなってんだ』と言われたら、考えないといけない」と述べた。両社は2014年度のグループ利益を09年度の280億円(両社の合算、見込み)から1600億円に伸ばす中期計画を打ち出しており、計画の達成度をにらみながら、経営形態の見直しを判断すると見られる。