保険料を取り過ぎたら保険金を多く払えばよい?

もちろん、このタイトルに書いたことはデタラメです。
あたかも、損保ジャパンがそう考えているかのような記事を日経新聞が書いているだけの話です。いや、記事というよりも、記者の憶測をあたかも事実であるかのように書いているのがおかしいです。はっきり言って、三流スポーツ紙以下の内容で、日経の損保担当の記者がいかに無能であり、損保に関しては日経は信用するに値しないことを示すものと言えそうです。
 
記事の内容は以下です。
「損保ジャパン、火災保険金を実質増額 取り過ぎ再発防ぐ」
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20081003AT2C0201602102008.html
日経新聞 2008.10.3)

 損害保険ジャパンは既存の火災保険契約の一部について、2009年4月から支払う保険金を実質的に増やす。従来は住宅の「時価」までしか保険金を支払わなかったが、住宅の「再建費用」を上限に契約時の保険金を支払うようにする。追加保険料は取らない。一般に時価より再建費用のほうが高いことが多いため、保険金を増やす効果がある。他社も追随する公算が大きい。
 
 火災保険をめぐっては、保険料の取り過ぎが多発した。保険金の増額で取り過ぎ問題の再発を防ぐねらいだ。

 
最後の一文がまったくおかしなものであり、ピント外れのものかということは損保関係者なら即座に見抜けることでしょう。割引の適用誤りで取り過ぎた保険料はこんな方法じゃ解決方法にあたらないし、土地代まで込みで保険金額を設定してしまったようなケースにおいても事故時に保険金を多く払えばよいと考えるならとんでもない間違いです。
まったくウラ取りをしないで記事を書くことはしないでしょうが、損保ジャパンにとって迷惑な話だと思います。私の知る限りでは、記者というのは、事実だけを記事にするのではなく、それを捻じ曲げて書くことが多いです。しかも、事実と記者の憶測をごっちゃにして記事にします。
おそらく、この記事によって、損保ジャパンおよびその代理店には契約者から「この内容はどういうことか?」という問い合わせが入っているでしょうし、商品の開発・管理をしている個人商品業務部にも金融庁から「この記事内容につき説明せよ」と訊かれていることかと思います。多分、損保ジャパンの社内では、この記事に対する問い合わせに備えて訂正および説明用の文書が出回っていることでしょう。その中身がどんなもんか知りたいところです。
 
もう1つ付け加えさせてもらえば、前半部分もこの書き方では意味不明です。気を利かして読んであげると、契約時の保険金額の設定を時価で行った契約について、保険事故時の損害額の認定は再調達価額で行います(ただし、支払額は保険金額が限度)ということになろうかと思います。
ちなみに、「契約時の保険金」とあるのは「契約時の保険金額」の間違いでしょう。
 
追加保険料はとらないなんて調子の良いことを書いていますが、これを真に受けて損保ジャパンはえらいと思うのは間違いです。なぜなら、支払保険金が多くなれば損害率が悪化します。そうすれば、次回の純率見直しの際に、料率を上げる要素となるからです。つまり、この改定を行うことによって、将来は保険料が高くなることを意味します。付加率(事業費)は定額ではなく定率で乗せるので、純率が上がればそれに比例して事業費も多くとることができます。
ここまで見越した上での改定とは思っていませんが、結果としてそうなるということです。しかし、ここまで深く考えるなら、なおさら「保険金の増額で取り過ぎ問題の再発を防ぐ」なんてのはまったくナンセンスであると言えます。
 
損害保険のことを知らないなら余計なことは書かずに、自分の浅はかな憶測を付けくわえずに事実だけを書いてほしいものです。
それすら、正しく書かれるとは限らないのですから。
どうしても、記者の憶測を付けくわえたいなら、記者の憶測であることが分かるように書くべきです。
 
これは私の勘ですが、損保ジャパンの真意は「新住宅総合保険」,「新住宅火災保険」について損害額の認定基準が時価が基本なので、それを再調達価額にしようということなのだと思います。なお、「新家庭保険」はもともと再調達価額ベースなので変わりはない…というか他をこれに合わせるということなのでしょう。
ちなみに損害額の認定基準をどちらにするのかということは、普通保険約款および特約にて定められていることなので、これを変更するには金融庁の認可が必要です。また、その変更の内容は変更することとした始期日以降の契約にしか効力を及ぼさないので、既存契約にも適用させるなら、その内容で認可を取得する必要があります。
直ちにではなく4月からというのんびりしたタイミングでこの変更を行うのも、損害調査部門等への周知のためだけではなく、約款を含めた各種募集ツールの改定や既存契約者への通知が必要なためと思われます。
 
なお、普通保険約款および特約を改定するということは、金融庁への認可申請が必要となりますが、せっかく金融庁認可申請するのだから損害額の認定基準以外のことについても、何か持ち込んだのではないかと推測されます。
つまり、損保ジャパンが2009年4月で火災改定をやるのではないかということです。ただ、その改定の内容は、ちょっと特殊な時期的な要因があって小規模なものになろうかと思われます。規模・内容は、あいおい損保が今年10月にやったレベルだろうと予想しています。
逆に、時期的な問題から、今回は本当に損害額の認定基準の件しか持ち込まなかった可能性も低くはありませんが。
 

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一応、損保ジャパンの火災保険について確認しておきます。損保ジャパンのサイトからダウンロードできる「ご契約のしおり」が非常に詳しく書かれているので、それを参照することにします。
損保ジャパンの大衆分野向けの火災保険としては、新火災保険として以下の3つが主力です。
・新家庭保険
・新住宅総合保険
・新住宅火災保険
「新住宅総合保険」と「新住宅火災保険」は、保険金額の設定の仕方や保険金の支払い方が同じなので、以下から「新住宅総合保険」と「新家庭保険」の2つに絞って書きます。
 
まず、建物の保険金額の設定方法です。
「新家庭保険」
基本は"再調達価額"です。
建物時価払特約を付帯すれば、"時価"での設定も可能です。
「新住宅総合保険」
基本は"時価"です
新価保険特約または価額協定保険特約を付帯すれば、"再調達価額"での設定も可能です。
つまり、いずれの商品も保険金額は、再調達価額,時価のどちらでも定めることができます。保有契約はこの両方が混在していると思われます。なお、日経記事の「再建費用」という用語は、"再調達価額"と同義と考えられます。
 
今度は、事故時の損害額の認定基準です。損害保険金は損害額に応じたもの(必ずしも、損害額=保険金という意味ではありません)となります。なお、保険金ではなく、損害保険金と言っているのは、費用保険金は支払いの基準が異なるからです。
「新家庭保険」
家庭保険基本特約条項の第8条(損害保険金の支払額−建物の場合)の第1項に以下のとおり"再調達価額"と定められています。

保険の目的が建物である場合は、当会社が第1条(保険金を支払う場合−損害保険金および水害保険金)の第1項から第3項までの損害保険金および第6項の損害保険金として支払うべき損害の額は、保険の目的の再調達価額によって定めます。

ただし、建物時価払特約を付帯した場合は、損害額は"保険の目的の保険価額(損害が生じた地および時における保険契約の目的の価額をいいます)"…つまり、"時価"となります。
「新住宅総合保険」
住宅総合保険基本特約条項の第4条(損害保険金の支払額)の第1項に以下のとおり"時価"と定められています。

当会社が第1条(保険金を支払う場合)の第1項から第4項までの損害保険金として支払うべき損害の額は、保険価額によって定めます。

ただし、新価保険特約または価額協定保険特約を付帯した場合は、"再調達価額"となります。