地震リスクと保険

リテール分野において、地震リスクを担保するものと言えば、「地震保険」「地震火災費用」です。「地震火災費用」は単品で存在するのではなく、火災保険の補償範囲の一部として担保されます。
他にも、地震危険拡張担保特約(以下、拡担と書きます)がありますが、個人で拡担を付ける人はいないでしょうし、保険会社も引き受けないでしょうから、拡担は今回の話からは除くことにします。
それから、変わり種として、少額短期保険業者である日本震災パートナーズ株式会社の「地震被災者のための生活再建費用保険」,「地震被災者のための生活支援費用保険」があります。個人的におもしろいと思っているのは、コレです。
 
一般に、損保会社は日本の地震リスクを引き受けたがりません。これは当たり前の話で、日本は地震国と言われるほど地震の発生頻度の高い地域であり、万が一巨大地震が発生した場合は膨大な損害が発生する可能性があるからです。損保会社は保険金の支払によって破綻するというリスクを避けるために、全額保有せずに再保険に出すのですが、それもなかなか条件が厳しいのが普通です。
 
地震保険」については、民間の保険会社内だけでなく国も再保険の引受をしており、安定的に保険契約の引受・保険金支払ができるようになっています。それでも、全体のキャパシティは現在は5.5兆円で、1地震での全社の総支払額がこれを超える場合は削減払いされるルールになっています。余談ですが、「地震保険」ではこの仕組みでガッチリ押えられているので、補償範囲も料率も全社同じです。その裏には「地震保険に関する法律」があります。
http://www.nihonjishin.co.jp/structure/index.html
(日本地震再保険株式会社 地震保険の仕組み)
 
地震火災費用」は火災保険の一部ですが、保険の種類としては費用保険です。料率機構種目はともかく、各社の独自商品の中では好き勝手にやってよいことになります。勿論、その結果のリスクは各社が負うことになるので、どの会社もそれぞれ再保険の手当をしていることかと思います。損保ジャパンは、この補償内容を独自に保険金支払額を増額したもの(地震火災30プラン,地震火災50プラン)を販売しています。ただし、保険金が出るのは、あくまで地震による火災の場合であり、地震による倒壊の場合は対象外ということに注意が必要です。
 
日本震災パートナーズ株式会社の「地震被災者のための生活再建費用保険」,「地震被災者のための生活支援費用保険」は、これ単独で存在する商品で、地震の場合に保険金を支払う費用保険です。
この保険が火災保険ではなく費用保険であることによって、火災保険の場合に必要な様々な制約をクリアしてシンプルな保険になっている点において、この保険を作った人はうまくやったもんだと感心します。前者は従前より 後者は 11/1 よりインターネットからの契約をしていますが、それも費用保険であることのメリットが活かされています。
保険は非常におもしろいと思うのですが、収支に関してはちょっと心配してしまいます。当然に地震リスクの引受なのでかなりの割合を出再していると思いますが、高額な再保険料で一部分しか再保険会社に引き受けてもらえないような気がします。つまり、収支面での利益は非常に出しにくく、黒字化はなかなか困難ではないかと思います。
保険金に関しては、よく見たら、約款に以下の記述がありました。さすがに、保険金支払が原因で破綻することがないようには手を打っています。ただし、契約者側からすると『弊社の定めるところにより』の部分が不明確なのが気になります。

巨大地震の発生等により、保険金の支払事由が集中して発生し、保険金支払のための財源が不足する場合、弊社は、弊社の定めるところにより、保険金を削減してお支払いすることがあります。

ちなみに、「地震保険」を契約していたとしても、この保険を契約することは可能であり、しかも罹災時にはそれぞれの保険から独立して保険金支払を受けることができます。所謂、重複保険の削減払はされません。
この保険は、約款を見ると他にも興味深い点がいくつかありますが、もう充分長くなったので今回はここまでにします。