オール電化割引と火災リスク(其の弐)

以前にブログ「オール電化割引と火災リスク」で、オール電化割引は火災リスク軽減の根拠がないのではないか?ということをちらっと書きました。そのときは、たったの1つの製品(電気コンロ)を元ネタにしたのですが、今般総務省消防庁から以下の資料が発表されました。
 
「平成19年中の製品火災(製品に起因するおそれのある火災)の調査結果」
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/2102/210210-2houdou.pdf
総務省消防庁 報道発表 2009.2.10)

総務省消防庁では、平成19年中(1月〜12月)に発生した放火によるもの等を除く「製品に起因するおそれのある火災」4,943件を対象に、市町村消防本部に対して製品情報を追跡調査しました。その結果、①「製品欠陥によることが明らかなもの」が165件、②「製品欠陥によるものか否か不明なもの」が1,109件、③「製品欠陥によらないことが明らかなもの」が3,669件であることがわかりました。

製品欠陥によるかどうかは、あまり関係ありません。火元が何だったのかがポイントです。この資料によると、以下のとおりです。
 自動車等… 1,239件
 電気用品… 2,363件
 燃焼機器… 171件
この燃焼機器のほとんどは、ガス・石油機器です。中には、"火鉢"といったレトロなものも入っていますが、無視してよいレベルと考えます。実際、火元となった燃焼機器で目立ったものは、石油給湯器,ガス給湯器,石油ストーブ,石油風呂がま といったあたりです。
 
「製品に起因するおそれのある火災」のうち、燃焼機器の占める割合はたったの 3.5% です。しかも、火や熱を扱う機器は、電化が流行っているとは言っても、まだまだ現時点ではガス・石油機器の方がはるかに多いことは明白です。
つまり、現実に多く普及しているガス・石油機器が火災の原因となるリスクは、それほど高くないし、その部分を電化製品に置き換えたところでリスクはたいして軽減されないのではないかと考えられます。
なお、石油給湯器,ガス給湯器を電化製品で置き換えるとすれば、電気給湯器になりますが、電気給湯器はこの資料のリストに上がってきていません。それは火災の火元ではなかったからですが、それはそもそも製品の絶対数が少ないためにたまたま平成19年には火元にならなかったためであり、火災リスクがないためではないと考えられます。
 
この資料では、放火や寝タバコといった類が原因の火災は除外されているので、実際の火災のうち燃焼機器が火元である火災の割合は、3.5% よりも小さくなります。
しかも、火災保険で損害保険金を支払うのは、火災だけでなく、自然災害もあります。つまり、火災保険全般の純率の要素から、燃焼機器を原因とする率は極めて小さいものになります。
百歩、いや、一万歩譲って、燃焼機器がない建物では火災保険の純率を 0.5%下げることができたとしましょう。純率が削れても、付加率を削る要素はどこにもありません。寧ろ、オール電化割引を証明するための事務手続きが余計に必要になって、事務ロードは増加します。
これらのことから、営業保険料ベースで「オール電化割引」というのは本当に成り立つのか?と考えると、極めて怪しいと思わざるをえません。
 
地震保険の「免震建築物割引」,「耐震等級割引」,「耐震診断割引」,「建築年割引」などは国の地震対策推進の施策のための割引ですが、火災保険の「オール電化割引」もそれと同じように電化を進めたい会社のための割引という位置付けと理解するのがよさそうです。