損害保険の募集ツールの問題と方向性

5月12日のブログ「保険の基本問題に関するWG(3/3)」で、3月3日に開催された金融分科会第二部会 保険の基本問題に関するワーキング・グループの議事録の話を少し書きましたが、今回はそこで出た話の中の募集ツールに関して思ったことを書きます。
「保険の基本問題に関するワーキング・グループ(第50回)議事録」
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai2/gijiroku/20090303.html
金融庁 審議会・研究会等 > 金融審議会 > 議事録・資料等 2009.5.8)

○高橋二部会委員
質問をさせていただきます。
まず1つ目は、日本代協さんに。募集文書のあり方等についてのご意見がありました。これは消費者の立場から申し上げると、保険会社に個々に伝えるべきではないかと思うんです。伝えていてもなかなか変わらないので、変えなければいけないと思ってここでご意見をおっしゃっておられるのか、あるいは力関係でできないからここでおっしゃっておられるのか、ちょっとその辺を伺いたいということが1点。
もう一つは、消費者との関係で、単に募集文書を簡単にというよりは、募集人、代理店そのもののスキル不足の問題を感じざるを得ないようなご説明が一部あったんですけれども、募集文書だけではなくて商品性の問題があると感じておられるのか、ご質問させていただきたいと思います。
  (略)
○荻野参考人
まず、募集のツール関係の問題について、過去、保険会社に言うべきこともあるんじゃないかというご指摘だと思いますけれども、もちろん全然そういうことをしていないわけではありませんが、各保険会社ごとにすべて違うわけでございまして、そこをすべて個々に私どもが対応していくというのはなかなか難しいところがあります。したがって、総体的な意味において、先ほど申し上げたパンフレットというのは、見えない商品を形にした唯一のものでございまして、これは絶対に必要なものです。この絶対に必要なものに工夫を加えることが一番よろしいと思いますし、募集人の立場で、あくまでも実務的な立場で申し上げれば、やはりこのパンフレットに沿って説明をしていくことが、代理店も説明しやすい。代理店が説明しやすいということは、消費者にとって理解がしやすいということになるのではないかということであります。総体的なご意見として申し上げているということであります。
  (略)
○久保田委員
今日はお二方から非常に貴重なお話を頂きまして、ありがとうございます。今の質問にもちょっと関連するのですけれども、今日荻野さんが出された資料の13ページのところで「消費者に理解しやすい仕組みつくりについて」ということで、確かに私もこのワーキングでいろいろ書類等を見せていただいて、消費者にできるだけ多くの情報を開示するという意味では理解できます。しかし、私自身があまり賢い消費者ではないということもあるのかもしれませんが、それを全部読んで理解する時間等が本当にあるのだろうかということもあります。今日のこの13ページのところにも「募集人は個々の消費者のニーズとの間で困惑している実態もある」といった話もありますが、ちょっと具体的にはどんなことがあるのでしょうか。それから今お話になった中で、パンフレットが非常にわかりやすいので、それを中心に説明していくというお話があったんですけれども、現場でそういうパンフレットを中心に説明していくということについて、規制か何かがあって、そういうのではいけないとか、何かそういうことはあるのでしょうか。
  (略)
○荻野参考人
まず「消費者のニーズとの間で」ということは、くどいようですが、いわゆる説明資料がたくさんございまして、それがすべて重要ということにもなっておりますので、時間の許す限りの中でいかにそれを効果的に説明するかというのは、お客様自体の知識も非常にそれぞれ差がございますし、なかなか一律にマニュアルどおりに事が進められないということで、最終的にはお客様が了知したかを確認することになっておりますけれども、本当に、では最後まで理解をしていただくということになると、実務的には時間的にもお客様の協力という問題についてもなかなか難しいというのが現実だということを申し上げたわけです。
  (略)
○石田保険企画室長
事務局のほうからちょっとご説明させていただきます。
9月のワーキング・グループのときに、この募集関係の法令全体の見取り図というか、体系を簡単にご説明させていただいたと思いますが、保険業法に基づき、保険会社は適切な運営を図らなければいけないという一般的な法の規制がございます。それを受けたその下のレベルの施行規則において、顧客に対する適切な説明を行うための社内規則、社内体制を整備しなければいけないということが決まっており、さらにそれの具体的な運営ということで、例えば保険会社向けの監督指針という形で監督当局のガイドラインを公表・整備してございます。そういった中でかつてご議論いただいて、具体的に、少なくともこういうものは説明しなければいけないというものの一つとして、契約概要ということで、契約のポイントをこういう字の大きさ、あるいはこういう点は少なくともおさえた格好で各社説明しなければいけないという形で示したと。それから、注意喚起情報ということで、保険加入に当たって契約者の方に特に留意しておいてもらわなければいけない点についてポイントを絞った形で整理し、それを説明しなければいけないということも示したと。あと、いわゆる意向確認書面という格好で、契約者の方が契約内容がどういうものなのかということが確認できる手続をとらなければならないというのが、募集に当たりのやらなければいけないことということで整理し、実際に運営をしてもらっている格好になっています。

まず第一に、募集ツールに関して、日本代協と金融庁にとんでもない認識のずれがあります。しかし、それは後で述べることにします。
現状は様々な募集ツール(パンフレットや重要事項説明書や各種チェックシート等)が出回っており、その全てについて説明して契約者に漏れなく理解してもらうのは困難であり、また大した保険料となるわけでもない契約について時間をかけるのも現実的ではないので、募集ツールを簡素化して欲しいというのが、日本代協の主張の1つのようです。また、そのことを代理店から保険会社に伝えてもなかなか改まらないから、このWGで言っているのでしょう。
そのこと自体は正しい選択だと思います。生活経済ジャーナリストの高橋氏から、保険会社に直接言うべき話ではないか?と質問がありますが、以下に述べる理由のため、損保会社はこの点に関しては代理店からの要望によって簡素化することはしないと思います。
募集ツールに関して金融庁保険企画室長の石田氏も示唆していますが、後でできたものが金融庁からの指示だったり、保険会社が金融庁に対して約束したものだったりするからです。損保業務は認可業なので損保会社はお上(金融庁)には逆らえません。従って、金融庁と代理店とどちらを取るのか選択を迫られた場合は絶対に金融庁を取ります。もともと昔から存在したパンフレットは別として、平成8年以降に作成された重要事項説明書(契約概要・注意喚起情報)は金融庁からのお達しですし、契約内容チェックの類は例の不祥事問題があったときに保険会社側から再発防止策として金融庁に対して実施を約束したものです。保険会社に対してこれらを簡素化させるのに最も手っ取り早いのは、金融庁から保険会社に対して現行のものを緩和してよいとお触れを出すことです。と言うか、それしか手はないものと思います。
しかし、金融庁も何も引き金もなしに、そのようなお触れを出すことはないでしょう。そのお触れのせいで、再び社会問題となる不祥事が発生したら、自分の責任にもなりますから。金融庁の立場としては、厳しいままにしておくのが保身上安全ですし、その事によって何ら困ることはないのです。
その現状を打破するには、外部から圧力をかけるしかありません。金融審議会はその外部の1つにあたります。日本代協が取った手段が正しい選択だと評価したのは、こういう理由からです。
 
次に、募集ツールに関して、日本代協と金融庁にとんでもない認識のずれがあると書いた点です。日本代協はパンフレットこそが募集ツールの根本でこれに統一すべきだと思っているようですが、金融庁の見解は違います。
実は、金融庁は契約概要と注意喚起情報(大抵、重要事項説明書は、契約概要と注意喚起情報で構成されています)こそが契約者に対して説明すべき募集ツールであると位置付けています。そして、契約概要と注意喚起情報のそれぞれについて何を記載しなければならないのかを定めています。このことは、金融庁サイトにある「保険会社向けの総合的な監督指針」に記されています。金融庁保険企画室長の石田氏が述べているのもこの辺りの話です。
なお、パンフレットは各社判断で作成しているものであり、何を書かなければならないのかという業界共通の定めはありません。従って、パンフレットをベースに今後話が進むことはないものと思います。下手をすると、ここで日本代協が述べているパンフレットという選択肢はないということで議論が終わってしまう可能性もあります。
もし、日本代協が今の監督指針をきちんと勉強してきて、重要事項説明書ベースでという話をすれば、皆が納得してスムースに話が進むかもしれなかったのにと思います。尤も、日本代協という組織は全般的に自由化前の発想と知識の持ち合わせと自分たちの利益しか考えていない団体のようですので、これは無理な注文かもしれません。
 
仮に募集ツールの簡素化ということになれば、最低レベルとして重要事項説明書(契約概要・注意喚起情報)が残り、それ以外の帳票等を使用するにあたってのガイドラインが出る可能性があると思います。また、重要事項説明書に関しては、他の帳票等がなくても、単独で募集ツールとして耐えうるものであることを求められるでしょう。
こうなった場合、逆にパンフレットの内容は重要事項説明書に盛り込まれ、パンフレット自体はなくなることになるかもしれません。