金融検査指摘事例集(平成20検査事務年度)

金融庁のサイトで、金融検査指摘事例集(平成20検査事務年度)が公開されています。
昨年に引き続き、今年も保険会社の箇所(P.111〜128)を読んでみました。
「「金融検査指摘事例集」等の公表について」
http://www.fsa.go.jp/news/21/20090703-6.html
金融庁 所管金融機関の状況 2009.7.3)
掲載事例の数について、前年度との対比をすると下表のようになります。

内部管理態勢,顧客保護等管理態勢,資産運用リスク管理態勢の3項目が増えています。ということは、これらの点が特に重点的に検査時に見られたものと思われます。
特に昨年後半は、リーマンショックAIG の実質破綻によって、資産運用にスポットが当たった年でもあったので、「資産運用リスク管理態勢」は厳しく見られたと思います。尤も、この分野に関しては私自身が素人なので、指摘事例に対するコメントはできませんが。
 
指摘事例のうち、気になったものについてコメントします。
 

保険募集管理態勢

代理店が独自に作成する募集資料について、募集コンプライアンス担当部門は、同部門による事前承認が必要となる範囲を代理店に明確に示していないことなどから、代理店において、事前承認の申請をせずにウェブサイトを開設し、誤った商品説明を掲載している事例が認められる。また、営業推進部門は、代理店ホームページ構築支援サービスとして、代理店ウェブサイトから参照可能な各種商品内容のウェブサイトを開設しているが、販売停止商品や改定前商品の情報を掲載している事例が多数認められる。[損害保険会社]

保険の募集資料は、保険会社が作成するものに限らず保険代理店が作成するものについても、保険会社がチェックすることとなっています。私の経験からすると、この手の役割を担う者はロートルだったり仕事が遅かったりするくせに権限だけは強いというチェックを依頼する営業担当からすれば迷惑極まりない存在のことが多いです。
しかし、やはり、Webサイトに販売停止商品や改定前商品を載せていては、管理態勢以前の問題として拙いでしょう。管理態勢はNGだけど募集資料はOKという状態ならともかく、募集資料がNGならお話になりません。契約者に対する募集行為としての適切性を欠きます。
それは自社商品ではなく他社商品であっても同じだと思います。そのあたりは「イーデザイン損保のパンフレットの失敗?」でちょっと触れたばかりです。
 

顧客保護等管理態勢

商品開発担当委員会は、募集態勢に係る自主点検において、複雑な商品内容に係る顧客への説明不足等の問題点を要因として顧客が不要な保険料を負担している事案が判明しているにもかかわらず、同種の事案が生じていないかどうか洗出しを行うよう各担当部門へ指示していない。
また、自動車保険担当部門は、同点検時に、自動車保険の特約等の重複補償により、顧客が不要な保険料を負担している事案を把握しているにもかかわらず、同委員会への報告を行っていない。
このため、複数の自動車保険契約を締結している契約者や世帯の保険契約において、特約等の重複補償により、顧客が不要な保険料を負担している事例が多数認められる。[損害保険会社]

中段「また」以降の部分が気になります。一世帯が複数の自動車を持ち、それぞれの車に自動車保険を掛けた場合に生じる問題を指しているのではないかと思われます。
例えば、人身傷害保険については、一世帯に複数の自動車保険があるケースでは、ノーマルな人身傷害保険では保険料の払い過ぎになります。なぜなら、自動車事故に遭った場合、すべての自動車保険の支払い要件を満たしますが、実損填補なので2つ目以降の自動車保険からは実質支払われないからです。従って、2つ目以降の自動車保険の人身傷害保険は「被保険自動車搭乗中のみ」とするのが無駄のない掛け方となります。
他にもメジャーな特約として重複が生じやすいものとしてファミリーバイク特約があります。この特約は、一世帯に複数の自動車保険があるケースでは、どれか1つの自動車保険に付けておけば充分で、全部に付ける必要はありません。
尤もな指摘だと思いますが、非常にレベルの高いことを求めていると思います。この指摘を完璧にこなすのは相当に難しいのではないでしょうか。とは言え、問題を放置しておいても良いということにもならないと思いますが。

保険料の確定精算について、契約管理部門及びシステムリスク管理部門は、前回検査において未精算となっている保険契約が多数認められるとの指摘を受けたにもかかわらず、社内規程において決算書等の確定精算を行うための明確な根拠資料の提出を義務付けていないほか、営業所等から提出された確定精算書類について処理の内容を検証していないことから、精算金額が相違しているなどの事例が認められる。[損害保険会社]

これ、前年度の指摘事項にあったものの続きのようです。去年のブログでも取り上げて『これも例の巷でいう保険料取り過ぎの一種』とコメントしました。
去年指摘された点だけ改善したようですが、結果としてはまだ正しい精算には至っていないことが指摘されています。是正する気がないと謗られても仕方のない対応状況と言えると思います。
 

財務の健全性・保険計理に関する管理態勢

支払備金の積立てについて、取りまとめ担当部門は、内部監査において所管部署の支払備金の積立ての適正性に問題があるとの監査結果報告を受けているにもかかわらず、所管部署が行った備金の積立てについて、支払備金の総額等の報告を受けるにとどまり、個々の積立事案の適正性についての検証を行っていないことから、過大計上及び過小計上が認められる。[損害保険会社]

先月大騒ぎになっていた日本興亜損害保険株式会社が「決算を良く見せるために保険金支払を遅らせたのではないか」という話題がなければスルーするつもりでした。
マスコミは↑のような論調で書いていたと思いますが、実際には事故発生の報告を受けた時に支払備金を立てるので、保険金支払を遅らせても決算の数字は良くならないはずです。せいぜい、正味損害率が良く見えるくらいでしょう。尤も日本興亜損保社長の兵頭氏は損害率改善を掲げていたので、当人にとっての個人的な目標達成には影響があると思ったのかもしれません。
財務的な観点から見れば、支払備金を適切に積まないことは保険金支払の遅延よりも問題です。決算を良く見せるなら、支払備金を過小にするのが手っ取り早いです。また、支払備金を過小に立てた場合、保険金支払い時に適切な金額で払われているのか不安になります。
 

オペレーショナル・リスク等管理態勢

システム障害への対応について、システム部門は、発生したシステム障害の内容に係る全体的傾向やその発生原因の分析を行うよう常務会から指示を受けているにもかかわらず、当該傾向や原因の分析を実施していない。このため、システム開発のテスト時等における、テストパターンの洗出し不足を原因としたシステム障害が繰り返し発生しているが、同部門は、発生原因を踏まえた障害の再発防止策を策定していない。[損害保険会社]

随分とレベルの低い指摘を受けた損保会社があるもんだというのが私の印象です。大手損保のシステム部門がこんな低レベルなはずはないでしょうから、中小損保ではないかと思われます。
特に怪しいのは、システム開発アウトソーシングしている場合です。外注先のITベンダーのレベルが低い場合、余程しっかりと検収時の確認をすること、障害の責任をきっちりと取らせることをしないとこういうことになりがちです。ITベンダーが有名な会社であっても障害防止に対する意識は低いというのが私の認識です。

「顧客へのお知らせ」の発送について、システム部門等は、同お知らせに係るプログラムの修正において、修正依頼箇所以外の部分に影響が生じていないかどうかの検証を十分に行っていないことから、保険金の振込金額欄に誤った金額が記載された同お知らせを契約者へ発送している事例が多数認められる。[生命保険会社]

生保会社の事例ですが、これも随分とお粗末な失敗だと思います。起こしてしまった最初の障害は仕方がないかもしれませんが、そこにミスの上塗りをするとは救いようがないです。
目先の修正しかせず、全体として不適切なものを平気でアウトプットするとは、経験の浅い低レベルなシステム部員のなせる技と言えます。そして、それをチェックしない上長にも問題があります。会社としてのサービスという観点を忘れ、請負仕事をこなすだけのシステム部門にありがちな現象だと思います。