朝日新聞の保険コラムのおかしさ

朝日新聞の記事に↓のコラムがあります。私は、このコラムを書いている後田氏は考え方がおかしいと思いますし、その後田氏にコラムを書かせ続けている朝日新聞も問題だと思っています。
「「先進医療特約」本当に必要ですか?」
http://www.asahi.com/health/seiho/TKY200909150269.html
asahi.com 2009.9.18)

「粒子線治療」の場合、「がん」を切らずに治療するため、体への負担が少ない点などが評価されています。一方で、健康保険が適用されないため、約300万円前後の医療費(技術料)が自己負担になります。したがって、100円程度の特約保険料で通算して1000万円といった限度額まで保障を持つことが出来る「先進医療特約」は、確かに魅力的なものだと感じます。
ただし、保険の活用を考える上でのポイントは、「300万円も治療費がかかるとしたら大変だ」ということ以上に、「実際にどれくらい保険の出番があるのか」というところにあるはずです。
そこで、「先進医療特約」付きの医療保険が、ここ1年ほどの間に約23万件売れたある保険会社の方に、保険金の支払い状況を問い合わせてみました。すると、7月時点までの支払いは5件。そのうち「がん」に対する粒子線治療は2件ということでした。

私は保険のポイントは、そのリスクが顕在化した場合に自己負担するかどうかで決定すべきであり、『「実際にどれくらい保険の出番があるのか」というところにあるはず』とは全然思いません。いざという時に300万円程度なら貯金の取り崩しで賄える金額だから、貯金をしているのなら、頻度を天秤にかけて考えるのもあるかもしれませんが、この記事はそんな風に書いていません。
寧ろ、普通の医療保険は民間保険がなくとも自己負担は大したことないので契約しなくとも良いと思っていますが、先進医療のように頻度は低いものの自己負担が大きいものは保険を利用することに大きな意義があると思います。
例えば、自動車事故において対人賠償で2億円を超える賠償損害を被る可能性は極めて低いから、対人賠償保険は2億円あれば充分ですなどと一般に向けて言う人は明らかにおかしいでしょう。
尤も、リスクを保険で転嫁しない分は自家保険で耐えうるから対人賠償保険を2億円にするという判断ならありえます。多分、損保に携わる者のほとんどは、そういう視点…頻度よりもリスクマネジメントの観点で保険を考えると思います。
 
保険会社の立場ではなく契約者の立場で考える場合は、貯蓄主体の保険なのか/補償主体の保険なのかによって何を重視するべきかは異なるのは明らかです。
貯蓄主体なら当然に払った保険料に対するリターンを考えるでしょう。掛ける保険料と保険事故の発生頻度と支払保険金のバランスで見れば良いと思います。
一方、補償主体ならリターンは度外視して、リスクマネジメントの観点から保険を考えます。これをきちんと理解している人は、保険の真の効用は比較的少額な費用の支払いで大きなリスクが発生する事業や行動を取ることを可能にしていることであることと分かっている人です。
保険料として掛けた分だけ保険金として取り戻さなければ損だという人は、前者の見方しかできていない人です。医療保険は貯蓄のための保険ではなく、補償のための保険ですから、払った分を取り返せないから無意味であるという理屈には納得がいきません。
この後田という人は、何でもかんでも保険は貯蓄主体だという見方しかできない人のようです。そのことは以下の部分からも明らかです。

一方で、人気の特約と言っても、その恩恵を受けた人は、11万人に1人もいないではないか?と、見ることも出来るでしょう。確率にしたら0.001%未満です。もちろん、支払いに関する査定が終了した後の実績ですから、請求件数は、もっと多いかもしれません。また、保険金の支払いは契約後の経過期間が短いほど少ないはずですから、今後、支払いが増加する可能性は高いと思われます。それでも、仮に倍増したとしても5万人に1人未満。0.002%に達するかどうか、というところです。

そう言えばこの後田氏は、生保会社はギャンブルの胴元だから儲かる一方で絶対に負けないという旨のことを朝日新聞のコラムに書いていましたが、大和生命が破綻してからは急にそのことを書かなくなったような気がします。
 
後田氏は営業しかやったことのない保険数理に関しては素人同然の人物であることは明白なのですが、あちこちに中途半端な本を出したり、このようなコラムで正しいとは思えない見解を述べたりして消費者をミスリーディングしているのが気になります。
本当は、アクチュアリーファイナンシャルプランナーの能力を兼ね備えた人物が消費者向けに生命保険について述べた本やコラムを読むべきだと思いますが、なかなかそれを見分けたり見つけたりするのは困難です。
この手の本で、私がいいなぁと思っているのは、『出口治明著「生命保険はだれのものか」ダイヤモンド社』です。出口氏自身はFPではありませんが、FPに相談する際のポイントが簡潔にまとめられています。また、出口氏はライフネット生命保険株式会社の社長なので、同社の宣伝めいたことが書かれているのではないかと危惧したのですが、そんなことはありませんでした。
余談ですが、損保の関してはこの手の本で「これは!」と思うものに会ったことがありません。商品や販売の多様化の中でそろそろ出てきても良い頃だと思います。