FSAによる保険金支払遅延の監督の動き

読売新聞に金融庁が各損保に対して保険金支払管理についての報告を求めることとした記事がありました。
金融庁、損保に支払い遅れ防止策の報告要請へ」
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20091106-OYT1T00110.htm
YOMIURI ONLINE 2009.11.6)

金融庁は、日本興亜損害保険の保険金支払い遅れ問題を受け、損保各社に対し、支払いルールなどについて報告を求める方針を固めた。
損保業界は不払い問題以降、支払額の「適正さ」について対策を講じてきたが、支払いの「迅速さ」への対応は不十分だったとみられ、今後、改善を迫られそうだ。金融庁は、社内の支払い遅延防止策などの報告を各社に求める方針で、金融庁の定期検査で支払い遅れ事案などの調査も行うとみられる。
2010年4月に施行される保険法には、事故証明など、保険金の支払い申請書類がそろった時点から一定期間で保険金を支払うよう定める規定が盛り込まれる。だが、これまで多くの損保が「事故によって、調査などにかかる時間は違う」(大手)として時間的な基準は明確にせず、ルール作りも徹底していなかった。

これは言うまでもなく日本興亜損害保険株式会社の保険金支払遅延において、その原因が適切な期間内に支払う業務運営態勢および経営管理態勢ができていないことにある(うさんくさいのですが…)としたことにより、その他の損保でも同じ状況となっていないかを監督することにしたようです。
確かに、そういう点では、日本興亜損保だけの問題ではない可能性はありますし、各損保をそのような視点で金融庁が監督しなければならないというのは適切な判断かと思います。
 
従前も、稀に保険金支払遅延が裁判となることがありましたが、それはあくまでその個別事例に対してのみの判決であり、全体の態勢そのものに問題があるとされることはありませんでした。そもそも、個別事例の裁判において、その損保の保険金支払態勢にまで踏み込むことはないでしょうし、ましてや裁判官が保険金支払態勢ができていないからなんとかしろ!という判決を出すこともありません。また、仮に保険金支払態勢を改善しろと裁判所が言ったところで、その実施状況を監督する権限もありませんし、実質不可能でしょう。
当該事案に支払い遅延が認められたとしても、延滞利息を保険会社に支払うようにと求めるのみです。
 
一方で、個別事案として金融庁に要求しても、せいぜい一般的な解釈と相談先を教えてくれるくらいかと思います。
もし金融庁を動かすのであれば、個別事案としてではなく、その保険会社の態勢として問題があることを論理立てて述べ、自分の他にも同じ問題が生じていることを根拠を示して説明するくらいのことをしなければならないと思います。するとうまくいけば、金融庁は保険会社に報告を求めるでしょうから、そこでボロが出れば行政処分が出るかもしれません。ただし、保険会社は金融庁に嘘の報告をする可能性もあるかもしれません。
そして、それで金融庁が動いたとしても、自分の事案について直接の影響があるわけでなく、それはそれで保険会社と争う必要があります。
 
保険における問題の切り分けとして、個別事案に関しては司法に委ねることとなっており、保険会社の態勢の問題に関しては監督官庁が監督することになっています。
尤も、これは保険に限らず、監督官庁が存在する業界共通の話だと思います。
このことは割と理解されておらず、個別事案の問題なのに何でも金融庁に持ち込めばよいと思っている人が結構いるようです。
最近対応が進んでいる保険法と保険業法の違いもこの辺りと関連があります。
 
閑話休題
今回は、おそらく各損保にまずは現状のヒアリングを行い、その上でヒアリング結果を基に態勢整備を求めていくのではないかと思います。
そして、監査時にはこの観点でもよく調べるということになるのでしょう。
もしも、ヒアリングの結果で多くの損保で保険金支払遅延の実態があることが判明したら、また多数の損保が行政処分を受ける可能性もゼロではないと思います。