保険料不払解除に関する保険法部会での経緯(其の壱)

保険法対応として約款にて定めた規定が変更されていますが、実際にはそれが保険法の条文そのものに存在しない例として、「保険料不可分の原則に関する保険法部会での経緯」(2009.11.8)で保険料不可分の原則を挙げましたが、保険料不払解除の規定も同じように変更されているようです。
これについては、最近ニュースとなった高裁でソニー生命が負けた件について書いたhttp://:title=「催告なしの保険料不払失効の否定」(2009.10.5)と密接に関係があります。
 
保険料不払解除の規定を保険法に置くかどうかについても、法制審議会保険法部会にて検討が行われました。
結果として、民法の規律に従うことで整理され、保険法に新たに保険料不払解除の規定は置かれませんでした。従って、保険会社の約款も一般的には民法の債務の履行遅滞の規律に従う内容に改定されているようです。

民法第541条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

 
保険料不払解除は、検討事項として法制審議会保険法部会第1回会議(2006.11.1開催)の配布資料の中において、以下のように取り上げられています。
「配布資料2 保険法の現代化に関する検討事項(1)」
http://www.moj.go.jp/SHINGI2/HOKEN/hoken02.pdf

この中の補足にある「さらに,保険料の不払を理由とする解除の要件に関する特別な規定(約款等によっても催告を不要とすることはできないとすること等)を設けるべきかどうか」の部分がポイントです。
 
この件に関する議論は、法制審議会保険法部会第2回会議(2006.11.22開催)にて行われており、その議事録を読むとどのような意見があったのかが分かります。

さらに,保険料の不払を理由とする保険契約の解除の要件に関して,保険契約者保護の観点から,民法第541条の債務不履行解除の要件を強行規定化し,約款等によっても催告を不要とすることができない旨の規定を設けるべきであるとの考え方がございます。しかし,これらの考え方に対しては,あらゆる債務不履行による解除に共通する問題でもあり,保険契約だけに特別な規定を設ける理由を合理的に根拠付けることは困難であるとも考えられます。

↑は進行役の発言です。

それから,先ほど御説明がありました支払時期の関係ですけれども,払込期月という概念が導入されておりますが,その翌月一杯が今度は猶予期間ということになっていまして,さらにまた責任準備金のある商品につきましては自動貸付けという制度もあったりして,なかなか契約が安易に失効しないように取扱いをしているわけです。それは保険会社のニーズにも合うわけなのですが,そういったことで契約者保護には十分配慮していると考えております。
そしてもう一つ,失効予告通知はがきを出したり,あるいは失効した場合には失効通知はがきを出して復活を勧奨するとか,そういったこともやっております。

↑は生保代表の立場からの意見です。

ほかに御意見がなければ,○○委員の御説明にありましたように,生保会社はきちんといろいろやっておられる。特にこの10ページの一番下のところの契約がなくなってしまうところ,これはとても消費者にとって,非法律家の契約者にとって重要なところで,催告がない。諸外国には,これは必ずやれと言っている法律もあるわけで,しかし,学者はどう考えているかというと,本当はそう言いたいのだけれども,業界の御説明を伺うと,どうもいろいろ,仮に払われなくても貸付制度があったり,後でまた取り消したら元へ戻しますとか,いろいろやっているから大丈夫だと。それはそれで一応飲み込もうと思っているのですが,問題は,損害保険会社,生保会社もいろいろ新規参入される会社もあるし,共済でおやりになっているときに,つまりそういう実質的に問題がないという状態が,今本当に全部あるのか,これからも保障できるのかという問題で,その1点だけ。もしその1点がないと,これはちょっと○○委員に伺わなきゃいけないのですけれども,催告なしとしてしまっていいのかと,こういう話だったと思うのです。

↑は消費者代表の立場からの意見です。
これに対して、共済代表の立場の委員と損保代表のの立場の委員がそれぞれについて以下のように述べています。

長期,短期ありますけれども,基本的にはやはり短期が主流の,例えば生協系の共済なんかは猶予期間を当然設けておりますけれども,応当月に入らない場合は必ず通知をして,それは厳密な意味での催告に当たるかどうかというのはありますけれども,必ず通知をして納入をしていただく。それが一定の期間支払がなければ契約としてなくなるという仕組みで,長期の場合は確かに貸付けという制度がありますので若干違いますけれども,いずれにしても,その種の手続というのは共済の場合はほとんどやっていると思っています。

↑は共済代表の立場からの意見です。

はがきで対応しております。

↑は損保代表の立場からの意見です。
これらを踏まえて、進行役の人が消費者代表の立場に戻します。

損保さんも同じようなことで……。これも昔から議論があって,学者は,○○委員が言われたように,催告を法律で義務付けるというのを昔から言ってきているのですけれども,なかなか技術的に難しい。これもあって今のような実務ができて,どうなのでしょうか。

それに対して、消費者代表の立場の人は以下のように述べています。

催告書が届かなくて知らないうちに失効したとか,それから,損保さんだと分割払で,生保さんだと例えば月払の場合に,翌月の末までだったのに翌々月の末までに延びたり,技術的にしているのですけれども,それでもやはり分からないでというトラブルはそれなりに一定数ございます。やはりそういうときに,消費者側としては,それを法律上の催告として見るかどうかという,そういう議論を別にして地べたの議論で言えば,例えば簡易書留で送ってくれとか,分かるようにもっと際立つような方法で送ってくれとか,そういう形で保険会社に申し上げるのですが,保険会社さんの方では,もちろんコストがかかるというお話がございますし,簡易書留を送ったからといって見ないでしょうみたいなことを言われたりします。言われたことがあるものですから,口が悪くてすみません。そういうようなお話がありますので,そこら辺はこういう形で取り上げていただいて,例えば催告をちゃんと法律的にしなさいという形でやっていただくのは歓迎でございます。

もうここまで来ると単なる我儘の言い張りのような気がします。
この消費者代表の人は、一部の声の大きい我儘な人のことを優遇しようという発言が随所に見られ、そもそもこのような場所に入る委員の資質として適切かどうか疑わしく思えます。

この先ほどの催告の問題なのですけれども,以前に判例評釈を書いたことがあって,その後,実務は改善されているとは聞いているのですけれども,それでもなお,こういう口座振替方式で本当にどういうときに失効してしまうかというのは,必ずしも契約者に分かりにくいことがありますので,そういう場合を考えると,やはり催告が必要な場合があり得るのではないかと考えております。

↑は学者の意見です。

催告が必要な場合はあると思いますし,それから,民法でも規定されていて,それを任意とするか,それとも片面的な強行規定とするかという議論もあると思うのですけれども,その場合に,この問題提起でよろしいのでしょうか。保険料の支払時期に関する特則というところ,これに関連する議論だとは思うのですけれども,できれば片面的な強行規定というのを設けた方がいいと思うのですけれども,ちょっとここにストンと落ちないかなというのが疑問です。<<
↑も学者かと思います。
 
とりあえず、ここで一旦議論は中断されており、その結果は「保険法の見直しに関する中間試案」に記載されています。
ここまでで随分長くなってしまったので、続きは(其の弐)に書きます。