AIUの火災保険の逆行

損害保険料率算出機構から一般向けにオープンになっていませんが、火災保険の純率の料率制度がしばらく前に改定されました。住宅物件と一般物件が先に行われ、工場物件と倉庫物件がその後に行われたのですが、その主旨はこれまでの料率区分を単純化して、主要構造部で料率区分を分けるのではなく、耐火だったら耐火,そうじゃなければ非耐火としようというものと私は聞いています。
ちなみに、住宅物件と一般物件は2008年の秋に純率改定の届け出が金融庁に受理されています。その頃のブログ「損保ジャパンの火災保険大改定(其の壱)」(2008.10.7)や「火災保険の大改定(其の壱)」(2008.10.19)でちらっとその話に触れています。
参考純率の料率制度を改定したのは、火災保険料の取り過ぎ問題の根本的な原因が、火災保険の料率区分の分かりにくさ・確認のしにくさという点にもあると考えられるため、その根本的な問題を解消しようと考えたからだと思います。
そして、その参考純率改定を踏まえた各損保の火災保険の商品改定が、軒並み2010年1月始期契約から実施されます。
いささか長くなりましたが、ここまでが前置きです。
 
上に書いたとおり、単純に耐火かどうかで判断するということは、具体的には耐火建築物,準耐火建築物,省令準耐火建物だったら、耐火として扱うことになります。それが木造であっても同様です。
言い換えれば、木造で準耐火建築物,省令準耐火建物にあたらなければ、非耐火…住宅物件ならH構造,一般物件なら3級になるということです。
これに対して、ALCを販売している旭化成建材株式会社は強い不満を持ったようです。地震保険のときも、「地震保険改定への異議申立とやりとり」(2009.3.23)で書いたとおり、自社製品を優遇するように主張するという見苦しい行動を取りました。
そして、今回はAIU保険会社ALC専用の割引を作らせました。
AIU保険と提携した木造ALC住宅用火災保険「トライアングルA」の取扱い開始について 」
http://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2009/co091210.html
旭化成建材株式会社 お知らせ 2009.12.10)

旭化成建材株式会社(本社:東京都千代田区、社長:小林 宏史)は、AIU保険会社(日本支社:東京都千代田区、日本における代表者CEO:横山 利夫)と提携したオリジナルの木造ALC※住宅用火災保険商品「トライアングルA」の取り扱いを本日より開始いたしますので、お知らせいたします。
 (略)
1. 背景
住宅用火災保険に関して、2010年1月1日より保険料算定の基礎となる構造区分が改定されます。従来、木造住宅で外壁にALCを使用した場合、一般の木造住宅より火災保険料は割安でしたが、来年1月からの新構造区分では外壁材の種類に関わらず、主に柱材(躯体)の構造種別で保険料が決定するため、今後は一般の木造住宅と同じ区分となる予定です。
そこで、当社はAIU保険会社と提携して、火災保険の構造区分改定後も外壁に当社が製造・販売する「ヘーベルパワーボード」、「ヘーベルライト」に代表されるALCを使用した一定の耐火基準に該当する住宅の火災保険に割引が適用される火災保険商品「トライアングルA」を共同で開発し、これを取り扱うことになりました。

パンフレットを見ると、火災リスクに対してのみ約15%の割引となっています。これは明らかに純率の割引です。
純率の割引ということは、金融庁の認可を得ているということを意味します。金融庁もよくこんな割引に対して認可したなぁと思います。
以下、何故、このことに対して不快感を感じるのか整理します。
 
トライアングルAが、旭化成建材の息のかかった代理店しか扱えないなら、それほど問題視しません。そこには、この割引の適用誤りのリスクは存在しないに等しいため、再び保険料取り過ぎ問題が発生する可能性は極めて低いからです。
しかし、トライアングルA というのはペットネームで、正式名称はホームライフ総合保険のようです。ちなみに、AIU はホームライフ総合保険をリテール向けのメインの火災保険として販売しており、そこではスイートホームプロテクションというペットネームを使っています。
つまり、ホームライフ総合保険は AIU の火災保険を扱える代理店なら、どの代理店でも取り扱うことができる商品のはずです。ということは、建物のオーナーが自分の建物の建材を知っていなければ、この割引の適用漏れが発生するリスクは極めて高いということになります。
勿論、AIU が全代理店に対して、この割引を周知徹底させて建材の確認をするようにすれば大丈夫ですが、まったく現実的ではありません。そんなことができたら、そもそも保険料の取り過ぎ問題は発生しませんでした。
ましてや、旭化成建材の息のかかった代理店だけが適用できる割引というわけでもないでしょう。先に述べたとおり純率の割引だったら、代理店によって保険料が変わることがあってはならないはずですから。
つまり、この割引はせっかく参考純率の制度改定で保険料の取り過ぎ問題を根本解決しようとしたのをひっくり返すようなものだと言えます。
 
もしも、AIU のこの耐火性能割引と同じようなことを他社が次々と行えば、損保料率機構が行った制度改定が無意味なものになってしまいます。
いつかまた、AIU でこの割引の適用漏れによる保険料取り過ぎ問題が発生し、行政処分を受けるという事態が起こることを密かに期待しています。