保険法改定による自動車保険の約款変更(其の弐)

「保険法改定による自動車保険の約款変更(其の壱)」(2009.12.1)では保険法改定による自動車保険の普通保険約款の変更内容を、ソニー損害保険株式会社の総合自動車保険 Type S で見ることにしました。
前回までで、第7条まで見てきたので、今回はその続きからです。
 

第8条(被保険自動車の入替)

所謂、車両入替に関する規定で、改定前約款の第6条(被保険自動車の入替)にあたります。表現は変更されていますが、内容そのものは変更されていないようです。
ちなみに、7月26日に「業界横並びと各社マターの境目(自動車保険の車両入替)」で書いたとおり、ソニー損保の規定は標準約款のものよりも拡大した内容になっています。
 

第9条(保険契約の無効)

無効に関する規定で、改定前約款の第9条(保険契約の無効)にあたりますが、無効の要件が大幅に変更されています。改定後の内容は以下のとおりです。

保険契約者が、保険金を不法に取得する目的または第三者に保険金を不法に取得させる目的をもって締結した保険契約は無効とします。

改定前にあった保険契約者等が既発生損害を知っていたことに関しては、保険法第5条(遡及保険)第1項・第68条(遡及保険)第1項にて無効と定められており、これは絶対的強行規定であるために約款にて規定する必要性がないことから、削除されたと思われます。
一方、他保険の無告知は保険契約として有効な扱いとなったようです。
 

第10条(保険契約の取消し)

取消しに関する規定で、今回の改定により新たに新設されたものです。従来は保険契約者・被保険者の詐欺は無効としていましたが、それが取消しに変更になりました。そして、ついでに強迫も追加になっています。

保険契約者または被保険者の詐欺または強迫によって当会社が保険契約を締結した場合には、当会社は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を取り消すことができます。

 

第11条(保険金額の調整)

これも新設規定です。保険法第9条(超過保険)にて、超過保険で善意無過失の場合は超過部分を取り消すことができると新たに定められたため、それを受けて設けられたと思われます。

(1)保険契約締結の際、車両条項の保険金額が被保険自動車の価額を超えていたことにつき、保険契約者および被保険者が善意でかつ重大な過失がなかった場合には、保険契約者は、当会社に対する通知をもって、その超過部分について、この保険契約を取り消すことができます。
(2)保険契約締結の後、被保険自動車の価額が著しく減少した場合には、保険契約者は、当会社に対する通知をもって、将来に向かって、車両条項の保険金額について、減少後の被保険自動車の価額に至るまでの減額を請求することができます。

ちなみに、ソニー損保の自動車保険の車両保険はデフォルトでは評価済保険ではないために↑のようになっています。一方、価額協定特約が車両保険に組み込まれている自動車保険の場合は、評価済保険となるために保険法第9条(超過保険)ただし書きを踏まえた内容になったいる約款もあるようです。
 

第12条(保険契約の解除)

解除に関する規定で、改定前約款の第10条(解除)にあたります。
改定前は管理義務違反・調査拒否が解除要件にあったのですが、この2つは今回の改定により解除要件から削除されています。それに伴い、改定前約款の第7条(管理義務)・第8条(調査)も削除となっています。
また、通知義務違反による解除に関しては、第5条(通知義務)(2)に移しています。保険金詐欺に関しては、第13条(重大事由による解除)(1)で解除できるため、ここから移したようです。
そして、相当事由解除に関しても、今回の改定を機に撤廃されました。「この保険契約を解除する相当な理由があると認めた場合」というのが曖昧で保険会社の裁量でどうにでもなるため、昨今の消費者保護の流れからなくなったものと思われます。
以上のことより、改定後の第1項に関しては以下のとおりとなっています。

(1)当会社は、第7条(被保険自動車の譲渡)(1)または第8条(被保険自動車の入替)(1)の規定により承認の請求があった場合において、これを承認しなかったときは、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。ただし、被保険自動車が廃車、譲渡または返還された場合に限ります。

一方で、保険料不払解除について、以下のとおり規定されました。これは、10月5日に書いた「催告なしの保険料不払失効の否定」と被る内容です。要するに民法第541条(履行遅滞等による解除権)に準拠した規定にしたということのようです。

(2)当会社は、保険契約者が第15条(保険料の返還または請求−告知義務・通知義務等の場合)(1)または(2)の追加保険料の支払を怠った場合(注)は、保険契約者に対する書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。
(注)当会社が、保険契約者に対し追加保険料の請求をしたにもかかわらず相当の期間内にその支払がなかった場合に限ります。

他にも違いはありますが、解除に関する大きな変更点は以上です。
 

第14条(重大事由による解除)

これも新設規定です。
(1)は、保険法第30条(重大事由による解除)・第86条(重大事由による解除)にて、重大事由解除が新たに定められたため、それを受けて設けられたと思われます。ほとんど保険法の条文をそのまま約款に記載しています。
一見、保険法も約款も第3項で保険会社の裁量で重大事由と判断できるように見えますが、保険法制定時の衆議院付帯決議・参議院付帯決議にて慎重な適用をするように求められており、金融庁がそれを監督すると考えられることから、余程のことでなければ第3項は使えないと思います。
(2)は、重大事由解除の場合の解除の効果を定めたもので、保険法第31条(解除の効力)第2項第3号・第88条(解除の効力)第2項第3号を約款にて規定したものです。
 

第15条(保険契約解除の効力)

解除は将来効であることを規定した条です。保険法第31条(解除の効力)第1項・第88条(解除の効力)第1項を改めて約款にて規定したものですが、第10条(解除)第3項を独立した条にしただけとも言えます。
 

第16条(保険料の返還−無効または失効の場合)

無効,失効の場合の保険料返還に関する規定で、改定前約款の第12条(保険料の返還−無効、失効の場合)にあたります。
改定前は故意・重過失の有無によって返還しない/するを定めていましたが、改定後は無効の場合は一律返還しない、失効の場合は一律日割で返還すると定められています。
 

第17条(保険料の返還−取消しの場合)

取消しの場合の保険料返還に関する規定で、新設規定です。第10条による取消し…詐欺・強迫による取消しの場合は、保険料を返還しないことが定められています。
 

第18条(保険料の返還−保険金額の調整の場合)

保険金額調整の場合の保険料返還に関する規定で、新設規定です。
(1)は超過部分の取消しなので、その部分の保険料を始期に遡り返還…実務上はおそらく契約訂正…する旨を規定しています。
(2)は異動時の返還の計算について規定しています。
 

第19条(保険料の返還−解除の場合)

解除の場合の保険料返還に関する規定で、改定前約款の第13条(保険料の返還−解除の場合)にあたります。
解除はすべて将来効であると第15条にて規定しているため、解除の場合はその将来部分について保険料を返還するように規定が改めらたようです。