民法(債権関係)部会(11/24)検討事項より

民法(債権関係)改正にむけて、法務省所管の法制審議会の部会である民法(債権関係)部会の第1回が11月24日に開催され、その時の資料の一部が以下リンク先にて公開されています。
「法制審議会民法(債権関係)部会第1回会議(平成21年11月24日開催)」
http://www.moj.go.jp/SHINGI/091124-1.html
法務省 審議会等情報 > 現在審議中の部会 > 民法(債権関係)部会)
 
保険契約に関しては物凄くざっくりと書くと、保険約款→商法(2009.4.1以降は大部分が保険法)→民法の順に規定が適用されるので、民法の変更により実務上影響を受ける部分が発生することが考えられます。また、保険約款そのものの一部が民法を根拠とした規定となっているため、その根拠となっていた民法の条文が変更になれば、保険約款の改定もありえます。
そのため、民法(債権関係)部会でどのような議論がされて保険のどの部分が変わることになりそうなのかを見ていくのは意味がありそうです。
今回の議事録はまだ公開されていないのですが、配布資料である「民法(債権関係)の改正検討事項の一例(メモ)」に検討事項が列挙されているので、そこから気になる部分を軽く見ていくことにします。
 

01 意思無能力の意義と効果
(略)
この点については,高齢化等の進む社会状況の下で,意思能力の有無をめぐる法的紛争が現実にも少なくないことを踏まえ,明文規定を設けるかどうかを検討する必要があるのではないか。また,その際には,意思無能力を主張することができる者の範囲(表意者側に限るかどうか)等についても,併せて検討する必要があるのではないか。

保険募集上、保険契約者の選別(←適切な用語ではありませんが、妥当な表現が思い当たらないので)が必要になるかもしれないとちょっと思っています。
ちなみに、ダイレクト系損保は、そのほとんどが現状は20歳未満は保険契約者にはなれないよう制限しています。
 

03 錯誤の効果(民法第95条)
意思表示に錯誤がある場合の効果は,条文上,取り消し得るのではなく,無効(民法第95条)とされているが,この点については,原則として表意者以外の者が無効を主張することは許されないという判例法理が確立している状況にある。
そこで,錯誤の効果については,このような判例法理を明文化するかどうかを検討する必要があるのではないか。また,その際には,無効ではなく取り消し得るものとするかどうかという点についても,併せて検討する必要があるのではないか。

実務上、保険契約において錯誤による無効(大抵、契約取消にて対応していると思います)を扱うことは珍しくないと思います。その根拠は、民法第95条にあると思いますが、その根拠に変更があれば扱いが変わることも考えられます。
 

06 短期消滅時効の廃止と消滅時効制度の全般的な見直し
(略)
ところで,仮に短期消滅時効を廃止しつつ,原則10年という債権の時効期間(民法第167条第1項)は現状を維持するとすれば,多くの事例において時効期間が大幅に長期化する結果となるので,一般の消滅時効期間についても,併せて見直しの対象とする必要がある。また,時効期間の長短という問題は,起算点の定め方と不可分のものであり,かつ,時効の中断・停止事由の定め方とも密接に関連している。そこで,短期消滅時効の廃止について検討する際には,消滅時効制度の全般について総合的な見直しをする必要があるのではないか。

保険金請求権の時効は保険法で定められたのでもういいのですが、例えば、積立保険の満期返れい金請求権:3年などが影響を受けるかもしれないと思います。
 

07 法定利率(民法第404条)
現行の民事法定利率は年5分(民法第404条)であるが,近時,市場金利との乖離が著しい状況が続いており,そのために弊害が生じているとの指摘もある。
そこで,現行の民事法定利率について,商事法定利率(商法第514条)との関係も含めて,見直しを行う必要があり,その際,現行法のように固定的な数値で利率を定めることの当否についても,検討する必要があるのではないか。また,法定利率の見直しに当たっては,判例が中間利息の控除割合は法定利率によるとしているので,この点も併せて検討する必要があるのではないか。

保険において、民法第404条の民事法定利率:5%と商法第514条の商事法定利率:6%はいずれもがケースによって使い分けられているようです。
このうち、民事法定利率:5%が変更になるなら、それを用いている箇所について当然に影響が出ます。例えば、自動車保険では、将来の逸失利益分を現価にして一括で支払う対人賠償保険や人身傷害補償保険の保険金に影響がありそうです。利率が下がれば保険金が上がるので、保険料も上がるのは必至です。
 

09 追完請求権
(略)
追完請求権は,不完全な履行がされた場合に債権者が行使することのできる基本的で重要な権限の一つであるから,これを条文上明確にすることを検討する必要があるのではないか。

請求した保険料のうち一部のみ払われた場合が、これに当たるのかどうかよく分かりません。もしも、これに当たるということになるなら、追加保険料の未払の取扱いが変わるかもしれないと思っています。
 

11 債権者代位権の制度の在り方
(略)
そこで,このような指摘を踏まえて,債権者代位権の制度の在り方について再検討をする必要があるのではないか。

保険法の第24条(残存物代位)・第25条(請求権代位)にて代位の規定が明確化されたばかりですが、民法改正に伴って保険法も手直しされることになれば影響が出てきます。
 

16 債権譲渡の対抗要件民法第467条)
指名債権が二重に譲渡され,それぞれ確定日付のある証書により債務者への通知がされるという事例は,実務上しばしば見られるところであるが,現行法はこの場合の優劣基準を明示していない。(略)これまでの判例・学説の到達点を踏まえて,規定内容の整理を行う必要もあるのではないか。
(略)

保険金請求権や満期返れい金等請求権に質権が設定されることがよくありますが、これはその質権設定の実務に影響がありそうな気がします。現状は1契約に複数の質権が設定されている場合、確定日付が早いものほど優先することにしているかと思います。この改正によって実務に影響がある可能性があると思います。
 

17 債務引受
(略)
そこで,債務引受の意義や,その要件・効果に関する判例・学説の到達点を踏まえて,新たに債務引受に関する規定を設けるかどうかを検討する必要があるのではないか。

現行は、保険契約者=契約の当事者=保険料支払債務を負う人ですが、もしかして、保険契約者=契約の当事者≠保険料支払債務を負う人という形態が認められるということでしょうか?既に、契約者≠被保険者は一般化しているので、こちらもありかもと思います。
 

22 契約の申込みと承諾(民法第521条から第528条まで)
契約の申込みと承諾に関する一連の規定(民法第521条から第528条まで)については,交通手段や通信手段が高度に発達した現代社会において,なお合理性があるかどうか等の観点から,全般的に見直す必要があるのではないか。
(略)

電話や対面での募集や通知ではあまり意識する必要のない問題ですが、郵送やインターネットでの募集や通知の場合は、発信主義/到達主義のいずれをとるのか常に意識をする必要があります。なお、通知とは、通知事項の通知と事故時の通知の2つが主なものと思っています。
民法の規律によっては、そこの扱いに影響が出ることが考えられます。
 

23 約款
民法には,現在,約款に関する特別な規定は存在しない。しかし,現代社会において,約款は,鉄道,バス,航空機等の運送約款,各種の保険約款,銀行取引約款等,市民生活にもかかわる幅広い取引において利用されており,大量の取引を合理的,効率的に行うための手段として重要な意義を有している。他方で,約款については,その内容を相手方が知るための機会が十分には無く,相手方の利益が害される場合があるのではないか等の問題も指摘されている。
そこで,約款に関して指摘されている問題点に対処しつつ,約款を利用した取引の安定性を確保する等の観点から,民法に規定を設けるかどうかを検討する必要があるのではないか。

保険約款については前から問題視されていた問題が、広く他の約款についても取り上げられたという見方ができます。民法にも保険法のような片面的強行規定を置くということになるのでしょうか?あるいは、契約前に重要事項の説明が必須となるのでしょうか?
 

24 債務不履行による解除の要件(民法第541条から第543条まで)
(略)
債務不履行による解除については,以上のような点を踏まえて,その要件の在り方について再検討をした上,これを条文上明確にするかどうかを検討する必要があるのではないか。

保険法対応で保険約款に定める保険料不払解除が民法第541条(履行遅滞等による解除権)に準拠した規定になったことは、「保険法改定による自動車保険の約款変更(其の弐)」(2009.12.6)等で書きましたが、その民法の内容が変われば当然に保険約款も見直しが必要になります。
 

29 各種サービスの提供契約
(略)これらのサービスの提供契約について,民法の典型契約の規定で受皿となり得るものとしては,準委任の規定(同法第656条)が考えられる。しかし,準委任では,サービスの提供者側にも任意の解除権(同条及び同法第651条)が認められることなど,現実に行われている各種サービスの提供契約の規律として必ずしも適当でないという問題がある。また,各種サービスの提供契約の中には,請負と性質決定されるものもあり得るが,その場合であっても,例えば,講演や演奏のように目的物と結びつかない仕事の完成を内容とするものでは,目的物の瑕疵に関する規律(同法第634条以下)を始め,請負の規定の多くが適用されないため,結局のところ,標準的な契約の内容を提示するには足りないといった問題も指摘されている。
そこで,各種サービスの提供契約の標準的な契約内容として,どのような規律を設けるのが適切であるか等について,請負,委任等との関係を含めて,検討する必要があるのではないか。

自動車保険などでよく行われている付帯サービスがこれにあたると思います。これについては、私のブログでも数回に渡って、会社によって『A.付帯サービスが「保険会社の奉仕」という位置付け』/『B.付帯サービスが「保険商品の補償の一部」という位置付け』の2種類があるということを書いてきました。(例えば、「付帯サービスについての豆知識(其の参)」(2008.8.31))
民法の規律にてこのあたりが整理されれば、付帯サービスの在り方について見直す必要が生じるかもしれないと思います。
 
ざっくりと思ったことをコメントしましたが、私は法律家ではないので、見当外れがあるかもしれません。
ともあれ、これから少しずつまた勉強していくことになろうかと思います。