損保業界と消費者視点(日経ビジネスより)

日経ビジネスオンラインの今年10月の記事に保険を含む金融業が今後どのようになっていくのかについて、中央大学法科大学院教授の野村修也氏へインタビューしたものがあります。勿論、将来の予測ですから必ずそうなるか分かりませんが、野村氏はその方向性に大きな影響を与える金融審議会の委員でもあることから概ねそのとおりだろうと私は思っています。
「金融ビジネスが様変わりする
 「消費者視点」の取り込みが金融機関生き残りのカギ」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091013/206919/
日経ビジネスオンライン 投資・金融 > The Report  2009.10.19)

金融ビジネスはこれまで金融庁のお墨付きを得ていればOKでしたが、これからは消費者目線に立った業務の点検が急務になります。消費者目線重視の傾向は、民主党への政権交代もあって、いっそう厳しくなるはずです。

損保の商品は金融庁の認可がなければ始まりませんから、認可を取得することが必要になります。その後も募集や支払で金融庁の監督や検査があります。
そして、それらをクリアしていればOKという風潮があるのは事実だと思います。
この点に関しては、数年前から少しずつ変わってきたと見ることができると思っています。
例えば、保険料の取り過ぎ問題に関して言えば、これまでの業界の考え方はどちらかと言えば「契約者から申し出れば割引を適用することができる」という見方に近かったはずです。それと「実態に合わせて適切に割引を適用する必要がある」という見方とのズレが顕在化したのが社会問題化したものだと私は思っています。後者の見方は明らかに消費者よりのものです。
また、付随的保険金の不払い問題についても同様です。保険金に関しては、「保険金請求されれば損害調査を開始する」というスタンスだったために、「保険金請求されないものは払わなくて良い」というのが業界の常識でした。保険料単価を上げるために普通保険約款や自動付帯の特約に契約者が気がつかないような補償を一方的に盛り込んだにもかかわらずです。消費者の立場からして、問題視されたのがこの問題であるという見方ができます。
政権交代がなかったとしても、この傾向への流れはより一層顕著になってくると私も思います。
 

日本の金融機関にはマーケティングがほとんどありません。保険金不払い問題が起こったのも、損保各社がリスク細分型商品の投入によって目減りした保険料収入を特約で埋めようとしてきたのが原因でした。自分たちが作りたい商品を作ったために、特約が多くなりすぎて顧客は保険事故が起こっても気づかなくなってしまいました。金融機関は、商品の開発、アフターケア、顧客満足度向上などのために、もっと顧客の声を生かしていく必要があります。

この点について概ね同感です。ただ、リスク細分だけが原因とは思いません。リスク細分が出る前から、契約更改時に保険料単価UPのために補償を増やした内容でおすすめするのが一般的でしたから。特に自動車保険はノンフリート等級の進行のために保険料が安くなるため、その傾向がありました。
現実的なところで、顧客の声を活かしてというのはなかなか難しい気がします。保険会社側からは、よくお客様の声を活かして開発しましたといいますが、自社に都合の良い声を拾っているだけという感が否めません。
この問題を解消する鍵は、消費者自身が良いものを良いと選択することにあるのではないかと思っています。
 

国の規制は余計なところまでふさいでしまいがちです。金融機関自身、あるいは自主規制機関を通じて、進んで消費者保護の窓口を作ることが、国による過剰な法規制や行政介入から身を守る手段になります。
現在の金融庁の規制に対する基本的な考え方は「ルール(規則)とプリンシプル(原則)の最適な組み合わせ」です。ただ、この大本になった英金融サービス機構(FSA)にある「規制影響評価」の仕組みは未整備のままです。数量データを集めて規制の理念が通用しているかどうかを頻繁に分析・評価し、余計な規制はやめていくことが行政側には求められます。

これもそのとおりだと思います。
特に認可部分について、そう思います。お役人は先例がないものを否定する傾向にあるのは事実だと思っています。金融庁は認可を出せば、その認可に対して責任があると考えるので非常に保守的であり、新しいものを拒む傾向があるように感じます。
この点に関しての規制の緩和がなければ、保険会社は金融庁の規制ばかりを意識しなければならない従来の考えを変えるようになりにくいと思えます。
一方で、緩和によって好き放題にやって、結局は問題を起こしてしまっては意味がありません。そこは述べられているように適切な自主規制が必要だと思います。
ただ、その自主規制も誰のための自主規制なのかを忘れてはいけないと思います。代理店や既存保険会社の利益を守るためではなく、消費者のための規制であることを念頭におく必要があります。
現在は、日本損害保険協会ガイドラインという形で自主規制を作成していますが、2つ問題があると思っています。1つ目は外資系損保・少額短期保険業者が参加していないことです。もう1つは大手損保の意向ばかりが通ったルールになりがちということです。きちんとやるなら、消費者を主体とした第三者機関が全ての損保・少短を対象として、公正な自主規制を作るのが望ましいと思います。