日本興亜損保の株主総会開催差止の仮処分申立

日本興亜損保の真の発展を願う株主有志」と自ら名乗る松澤氏らが、日本興亜損害保険株式会社が12月22日に開催する臨時株主総会の開催差し止めの仮処分申立を行ったようです。
勿論、その狙いは臨時株主総会にて付議することとなっている株式会社損害保険ジャパンとの経営統合を阻止することであることは明白です。
誰がどのような動機で申し立てをしたのかということについて目をつぶれば、この仮処分命令申立書の内容は筋が通ったものと言えます。寧ろ、もしもこの申し立てを行ったのが松澤氏らでないのなら、私は論理的には申し立て側を支持するでしょう。
「臨時株主総会開催差止の仮処分申立をしました」
http://nk-y.blogspot.com/2009/12/blog-post_11.html
日本興亜損保の真の発展を願う株主有志 2009.12.11)
以下は、仮処分命令申立書のうち、差し止めの根拠にあたる部分です。

(2)臨時株主総会通知の参考資料の虚偽記載
①、日本興亜損害保険株式会社の経営統合計画の相手側である損保ジャパンは、平成21年5月27日に劣後債1,280億円(以下「本件劣後債」という)を発行した(甲7)。
   (略)
④、なお、損保ジャパンはホームページでIRニュースとして、本件劣後債の発行を平成21年5月20日に掲載公表しているが、英文版のニュースでは本件劣後債についてはニュースとして掲載されていない。このため、日本興亜損保の議決権の40%以上を占める海外投資家は、この劣後債の発行の事実を知ることは困難な状況にある。
⑤、そもそも劣後債の発行は、資産に重大な問題があるためにその対策として発行されることが一般的であり、どのような重大な問題があるかを的確に株主が認識することができるようにするため、その発行を公表することが必要である。
この点に関し、損保ジャパンの有価証券報告書(第66期平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)には、本件劣後債について「重要な後発事象」としてその発行が明記されている(甲6、162ページ)。
⑥、ところが、平成21年12月1日付けで発送された日本興亜損害保険株式会社の「臨時株主総会招集のご通知」の「別冊1 株主総会参考書類 7ページ」(甲4)における損保ジャパンについての事項は下記のとおりであり、本件劣後債が発行されていることについて何ら記載はなく、「最終事業年度の末日(平成21年3月末日)後に生じた会社財産の状況に重要な影響を与える事象はない」旨記載されている。
   (略)
⑦、以上のとおり日本興亜損害保険株式会社の経営統合計画の相手方である損保ジャパンは平成21年5月27日に高金利で且つ資本金を大きく上回る額の本件劣後債を発行しているにもかかわらず、日本興亜損害保険株式会社は、本件臨時株主総会を開催するにあたって、本件劣後債の発行の事実は、「会社財産の状況に重大な影響を与える事象」に該当しないことを前提として本件臨時株主総会招集の参考資料を各株主に発送している。
しかるに、会社法第301条1項並びに会社法施行規則91条3号及び同206条3号ハは、「他の株式移転完全子会社において最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容」を株主総会参考資料に記載しなければならない旨規定しているところ、本件臨時株主総会参考資料には上記の通り「該当なし」との虚偽の記載がなされているのであるから、本件臨時株主総会の招集手続きはこれに違反し、従って、総会決議取消の原因になり得ることは明らかである。

この点について、公認会計士に調査を依頼しており、その公認会計士から以下の結論を得ています。

上記のIV、検討事項にあるように株式会社損害保険ジャパンの最終事業年度の末日後に生じた会社財産の状況に重要な影響をあたえる事象の内容について上記の事実関係3,に記載したように金融商品取引法に基づく財務諸表に「重要な後発事象」として記載されている内容、即ち平成21年5月20日の取締役会で「本社債」の発行決議がなされており、社債総額は1280億であり、払込期日及び発行日は平成21年5月27日とされている等々の事実関係が記載すべき事象の内容である。
したがって、「該当事項はありません」との記載は当該利害関係者に伝えるべき重大な情報が伝えられていないものと考えられ、この意味において重大な誤りがあると考えられる。

早い話が、日本興亜損保は株主に対して、経営統合の判断に重要な情報を隠したまま、その判断をせまろうとしたので、「ちょっと待て!」とストップをかけたということです。
 
間違いなくこれは重い話であり、日本興亜損保は単なる言いがかりと無視することができないものと言えます。だからこそ、対外的に以下のリリース文書を出して時間を稼ぎ、この仮処分命令申立書に不備がないかを必死になって探しているのでしょう。
「仮処分命令申立に関する一部報道について」
http://www.nipponkoa.co.jp/news/whatsnew/2009/news2009_12_11_ichibuhodo.pdf
日本興亜損害保険株式会社 ニュースリリース 2009.12.11)

一部報道機関により、平成21年12月22日開催予定の臨時株主総会について一部株主から開催差し止めの仮処分命令申立があった旨の報道がありました。当該申立があったことは事実であり、現在その内容を確認中です。

日本興亜損保の立場だったら、以下の3点のいずれかまたは組み合わせを起点に論理を組み立てることがぱっと考えられますが、貧弱で説得力のないものしかできそうにありません。
・松澤氏らの妨害行為の一環なので無効
・指摘の事実は損保ジャパンが公開しているため、株主は知ることができる
・指摘の事実は日本興亜損保の重要な事実にあたらない
そもそも、この仮処分命令申立書を招いた原因は、明らかに日本興亜損保側にあります。どうしても損保ジャパンとの統合を済ませたい経営陣が都合の悪い部分を故意に隠したと言われても仕方のない状況です。
もう1つ、日本興亜損保が取り得る別の手が考えられますが、時間的に無理そうな気がします。
 
実際にはこの行為を行っているのが例の松澤氏らですから、個人的には今回の行為にも嫌悪感を感じています。
流れとしては、「損保ジャパンと日本興亜損保の経営統合(其の弐)」(2009.10.31)で書いたとおり統合反対を他の株主に呼びかけをしたが、「サウスイースタンのNKSJへ統合支持の表明」(2009.12.5)で票数では勝てない気配が濃厚になったため、今回の切り札を出したという感じです。おそらく、松澤氏らはあらかじめプランBとして用意しておいて、このタイミングを狙って行ったのでしょう。
 
経営陣と株主が、最も今回の件で影響を受けることとなります。
ほとんどの社員や代理店にとっては、統合してもしなくても多分気の毒な将来になるような気がします。
契約者にとっては、おそらくどちらでも大した影響はないでしょう。個人的には自動車保険に関しては損保ジャパンのOne-Stepよりも日本興亜損保のカーBOXの方が良心的な商品だと思いますが、それはまた別の機会触れたいと思います。
三者として傍観している分には、なかなか興味深い展開です。