民法(債権関係)部会(1/26)検討事項より

法務省所管の法制審議会の部会である民法(債権関係)部会の第3回が1月26日に開催され、その時の資料の一部が以下リンク先にて公開されていました。
「民法(債権関係)部会(11/24)検討事項より」(2009.12.13)の最後で触れたとおり、この第3回から具体的に中身の議論になっています。
残念ながら、現時点で公開されているのは配布資料のみで、議事録はまだ公開されていないので、どのような議論がされたのかは不明です。それでも議論の対象は分かるので、見る価値はそれなりにあります。
「法制審議会民法(債権関係)部会第3回会議(平成22年1月26日開催)」
http://www.moj.go.jp/SHINGI/100126-1.html
法務省 審議会等情報 > 現在審議中の部会 > 民法(債権関係)部会)
 
民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1) 詳細版」から、「民法(債権関係)部会(11/24)議事録より」(2010.1.16)で行ったように、保険に関係がありそうなところを見てみました。なお、この資料はかなりのボリューム(119ページ)があるので、第3回では全部は議論していないかと思います。
 

4 損害賠償の範囲(民法第416条)
   (略)
(3) 損害額の算定基準時(原則規定)の要否
填補賠償がされるべき場合において,賠償されるべき損害の範囲が確定しても,その損害の具体的金額が時の経過によって増減する可能性がある。例えば,中古車の売買契約において,売主の不注意による事故により車が大破したため,買主が中古車の価値相当分の填補賠償を求める場合,中古車が大破したという点が損害賠償の範囲に含まれるとしても,その中古車が事故後に製造中止となったため,その時価が契約締結時の5倍に跳ね上がったなどということがあり得る。そのため,いつの時点の価値をもって損害額とするかという損害額の算定基準時が問題となる。
現行法は,この損害額の算定基準時に関する規定を置いていない。そのため,判例は,この問題を民法第416条の損害賠償の範囲の問題と捉えた上で,具体的事例に応じて算定基準時の判断を重ねてきた。その結果として,履行不能による填補賠償については,確立した判例法理が形成されたと評価されることがあるが,その判例法理を現行法の条文から読み取ることは困難であるし,解除による填補賠償については,判例上も複数の異なる判断が示されている。
そこで,損害額確定ルールの透明性を確保する観点から,これらの判例を踏まえて,損害額の算定基準時に関する規定を設けることが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。
   (略)
学説は,判例の整合的理解を試み,損害額の算定基準時に関する原則規定として様々な見解を示している。以下は,その具体例である。
[A案]填補賠償請求権が発生した時とする考え方
[B案]口頭弁論終結時を基準としつつ,債権者の損害軽減義務の観点から損害額の調整を図る考え方
[C案]債権者は,填補賠償請求権の成立要件となる複数の時点から有利な時点を選択できるとする考え方
[D案]裁判官の裁量にゆだねる考え方

賠償責任保険の保険金支払いに影響しそうです。もしも、その債務不履行時の保険金支払い基準が変更になれば、募集時における支払限度額の設定基準も変更する必要があるかもしれません。
あるいは、あまりにも賠償額の不確定要素が多いなら、約款で損害額の算定基準時を定めてしまうということも考えられます。
 

7 金銭債務の特則(民法第419条)
   (略)
(1) 要件の特則:不可抗力免責について
民法第419条第3項は,金銭債務の不履行について不可抗力免責を否定しているが,例えば,債務者が大震災の被害に遭った場合等,金銭債務においても不可抗力免責を認めることが妥当な場面が存在するとの批判がある。そこで,金銭債務の不履行について不可抗力免責を否定する民法第419条第3項を削除し,金銭債務の債務者にも債務不履行の一般則による免責の余地を認めることが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。

保険料の収受に関して影響があるかもしれません。現在は、約款上は保険料の支払いについて不可抗力免責を規定していませんが、実務上は災害救助法が適用された地区について保険料の支払いを一時的に猶予する運用を行っています。
民法で不可抗力免責を規定することになれば、約款にも不可抗力免責を規定することになるかもしれません。また、その適用について災害救助法適用時だけで充分かどうかについても業界内あるいは保険会社内で検討・議論されて見直されるかもしれません。
 

7 金銭債務の特則(民法第419条)
   (略)
(2) 効果の特則:利息超過損害の賠償について
民法第419条第1項は,金銭債務の不履行の場合において,法定利率あるいは約定利率により損害賠償の額を定めるとしているところ,判例は,これらの利息を超過する損害の賠償を否定している(最判昭和48年10月11日判例時報723号44頁)。この点については,利息超過損害の損害額が多額に及ぶ事案もあり得るところ,その損害の立証が容易な事案についてまで,一律に利息超過損害の賠償を否定することは不合理であるなどの批判がされている。そこで,金銭債務の不履行について利息超過損害の賠償を認めることが望ましいとの考え方があるが,どのように考えるか。

こちらも「(1) 要件の特則:不可抗力免責について」の続きの話になりますが、貯蓄性のある保険(損保なら積立保険)における約款貸付−契約者貸付・自動振替貸付−の適用利率をどうするのか?という話になります。これも既に運用ベースでは行われていることかと思います。
(1)と同様に民法で不可抗力免責を規定することになれば、災害時の約款貸付の適用利率は法定利率が上限ということを約款で規定することになろうかと思います。
 

債務不履行解除の不履行態様等に関する要件の整序(民法第541条から第543条まで)
   (略)
(1) 民法第541条「債務を履行しない場合」の限定の要否
現行民法は,第541条において,「債務を履行しない場合」に催告の上,解除できると規定しており,伝統的理論は,これを主に履行遅滞に関する規定と理解しているところ,同条は,履行しない「債務」の内容を何ら限定していない。しかし,判例は,付随的義務等の義務違反の場合には,解除の効力を否定しており,条文の文言と裁判実務上の取扱いが必ずしも整合していない状況にある。
そこで,条文の文言と裁判実務上の取扱いのそごを是正するとともに,同条による解除が認められる場面を適切に規律する要件(例えば,「重大な不履行(義務違反)」等の要件)を設けることが望ましいという考え方があるが,どのように考えるか。

保険料不払の場合の契約解除は、このあたりが根拠となっていると私は思っているのですが、その根拠となる部分が変われば約款も変えざるを得ないかもしれません。現状では保険料について完全履行をしなければ契約解除できる規定になっています。つまり、一部入金や追加保険料の不払いは、契約解除の対象となります。もしも、一部入金を是とすることになれば、大変な影響が考えられます。
また、無催告解除を規定するかどうかについても検討事項に挙げられています。無催告解除については、「催告なしの保険料不払失効の否定」(2009.10.5)にて書いたとおり、最近保険においても話題になりました。