民法(債権関係)部会(1/26)議事録より

法務省所管の法制審議会の部会である民法(債権関係)部会の第3回(1月26日開催)の議事録がしばらく前から公開されています。
「法制審議会民法(債権関係)部会第3回会議(平成22年1月26日開催)」
http://www.moj.go.jp/SHINGI/100126-1.html
法務省 審議会等情報 > 現在審議中の部会 > 民法(債権関係)部会)
配布資料が公開された時点で、「民法(債権関係)部会(1/26)検討事項より」(2010.2.11)にて興味があるところをちらっと書きました。
その部分について、どんな議論がされたのか見てみました。
 
1つ目は、第2 債務不履行による損害賠償 4 損害賠償の範囲(民法第416条)の(3) 損害額の算定基準時(原則規定)の要否 です。
法務省民事局の大畑氏より、以下のように口火が切られています。

(3)では,損害額算定ルールの原則規定を置くことが望ましいという考え方を紹介しました。この点については,様々な判例があり,それを踏まえた様々な学説が主張されています。それらの具体例については,詳細版の43ページから44ページまでに記載されたとおりですが,いずれにしても,現行法の条文からルールを読み取ることができないという問題があることに変わりはありません。そこで,損害額の算定基準時に関する原則規定を設けるべきという考え方や,仮に規定を設けるとした場合,どのような規定を設けることが望ましいかという点について,ご意見をいただければと思います。特に,判例についての知見,あるいは,取引実務や裁判実務に与える影響等を踏まえたご意見をいただければと思います。

これは、議論の初っ端から、「損害賠償の範囲の問題と損害額の算定の問題を区別した上で,論点を整理しておられますが,この両者は必ずしもそのように截然と分けられるものではない」という京都大学教授の山本氏の指摘に始まり、予見可能性のルールの話になり、いろいろ議論されています。
前回紹介したA〜D案のどれになるのか、ずばっと結論がここで出るか、あるいはこのうちのどれが妥当であるのか明確に示唆されることを期待していたのですが、それほど単純でもなさそうです。
 
2つ目は、第2 債務不履行による損害賠償 7 金銭債務の特則(民法第419条)の(1) 要件の特則:不可抗力免責について と (2) 効果の特則:利息超過損害の賠償について です。
こちらも大畑氏により、以下のように口火が切られています。

7の(1)ですが,現行法が,金銭債務の不履行について不可抗力免責を否定している点を改めて,一般原則にゆだねるべきという考え方があります。この考え方が実務に与える影響等を中心に,この考え方についてご意見をいただきたいと思います。
7の(2)ですが,判例は,金銭債務の不履行について利息超過損害の賠償を認めていませんが,これを認めるべきという考え方があります。この点についても,この考え方が実務に与える影響等を中心に,ご意見をいただきたいと思います。

こちらは幾分議論が分かりやすいです。
まずは、(株)千疋屋総本店代表取締役社長の大島氏が借り手である一般企業の立場から、(1)不可抗力免責の撤廃を、(2)利息超過損害の賠償の否認を主張しています。
一方で、(株)三井住友銀行法務部長の三上氏が貸し手である銀行の立場から、(1)不可抗力免責の存続を、(2)利息超過損害の賠償の是認を主張しています。
一定の条件付ながらも、お互いに反対の主張をしており、その条件の部分を含めて論点整理にまとめることとなったようです。
余談ですが、前回(2)について書いた約款貸付の適用利率の話はピントが外れていた模様です。
 
今回の議事録を見ていると「責めに帰すべき事由」「帰責事由」の定義や取り扱いについての議論が相当されていることが気になりました。
損保の約款においても、この表現は普通に出てきます。例えば、「責に帰すべき事由」は東京海上日動のトータルアシスト(2010年1月改定)の約款では3回,損保ジャパンの ONE Step(2009年4月改定)の約款では10回も出てきます。
普通の人にとってなじみのない用語であるにもかかわらず、分かりやすさを目指したはずの約款に普通に出てくるのは、法律用語として普通に使われているものであり、別の分かりやすい用語への置き換えが容易ではないためと考えられます。
この機会にこのようななじみのない法律用語も平明化が図られればと思います。