地震保険制度PT第1回より

東日本大震災地震保険での保険金支払が大量に発生するとともに、地震保険制度の課題がクローズアップされました。それを受けて、2012年4月に地震保険制度に関するプロジェクトチーム(以下、地震保険制度PTと書きます)が発足し、既に検討が進められています。
今回は、2012年4月23日に開催された第1回地震保険制度PTを見てみました。
地震保険制度に関するプロジェクトチーム 第1回(平成24年4月23日)議事要旨」
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/jisinpt/proceedings/outline/20120423.htm
地震保険制度に関するプロジェクトチーム 第1回(平成24年4月23日)配布資料」
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/jisinpt/proceedings/material/20120423.htm
財務省
 
まず、地震保険の認識についてですが、私はモノ保険と位置付けられるものと思っていました。しかし、地震保険制度PTにおいては、費用保険と主張されており、そのため損害額を払わないという説明がされているのが気になりました。それが以下のくだりです。

地震保険は火災保険に附帯されているにもかかわらず、火災保険とは趣旨が異なり、損害填補の保険ではないので、わかりにくいところがある。消費者側の地震保険に対する期待と現実との間にギャップがあると思われるので、加入時に、「地震保険はこういうことを目的とした一種の費用保険なんです」と、「だから、保険金の支払いも3区分の階段状にしているのです」と、そういうことを一生懸命説明していくしかないと思う。

これは損保業界での一般的な考え方と言えるのか、甚だ疑問です。
例えば、東京海上日動火災保険株式会社の「トータルアシスト超保険」の「地震危険等上乗せ補償特約」では、地震保険に加えてこの特約を付帯することで損害を最大100%補償できる旨の説明がされています。地震保険もこの特約もモノの損害を補償する保険であるという認識に立っているからこそ、このような説明になるのでしょうし、この説明を受けた側(保険契約者)もそう捉えることでしょう。
地震保険制度PTでは、費用保険と位置付けるのであれば、まずは損保業界全体でそういう認識であることを共有し、それを元に募集文書を作り直すべきかと思います。それをしなければ、一般消費者に費用保険だから…という説明は受け入れられないでしょう。
また、保険金の支払区分が3区分なのは、極めて広範囲に被害が及ぶことが想定される中で迅速に損害査定をするには一定簡便な基準にする必要があり、その検討の結果として現状では3区分(全損・半損・一部損)となっているのであって、費用保険だから3区分であるという理屈ではないと思っています。素直にそう一般消費者に説明してはいけない理由があるのでしょうか。
百歩譲って、仮に、地震保険を費用保険と位置付けるのであれば、建物を保険の目的とする部分に関しては、建物の評価額と連動させるような保険金額設定は改めた方が理解されやすいと思います。そうすれば、保険金で建物を再建できないことは自明ですし、契約時にもそのことが分かった上での締結となり、保険事故時のトラブルとなることも減ります。
余談ですが、SBI少額短期保険株式会社(旧 日本震災パートナーズ株式会社)の地震補償保険 Resta(地震被災者のための生活再建費用保険)は「地震等による損害を受けたことで、被災後に支出を余儀なくされる「生活を再建するための費用」を補償する保険」と契約概要に記載しており、費用保険であると最初から明らかにしています。
 
地震保険自体は、従前より保険になじまないものと考えられてきたが、1964年の新潟地震を契機に国が関与する形で地震保険制度が作られて保険ができたという経緯があります。そして、超長期で収支を相等させるために保険会社も国(特別会計)もせっせと準備金を積み立ててきました。今回の東日本大震災では、その積み立てた準備金があったからこそ、財務面に大きな支障を出すことなく、保険会社は保険金の支払ができたと言えます。
と思っていたのですが、このくだりを見て意外な印象を受けました。

外国損害保険協会会員会社は、全社とも準備金が底を尽き、自己資本・自己資金をもって保険金を支払っている。

確かに準備金を積み立てる期間が短ければ、これは当然に起こる事態です。国内社でも比較的最近に地震保険を販売し始めたところは同じ状況に陥っているものと思われます。

準備金の推移を見ても、民間負担分は余裕がなくなってきていることが分かります。これで首都圏に地震がきたら、ほぼ全ての損保会社の準備金は枯渇するのではないかと思えます。
この状況で、最大50%の付保を100%にするとか、半損・一部損の支払基準を引き上げるとかといった選択は、保険料を大幅に引き上げない限り無理な選択であろうことが分かります。
そういうこともあってか、議論としては地震保険制度は根本的な変更はせず、変更するとしても限定的なものにしようという方向となっていました。
 
そもそも地震保険で住宅を再建することはできないし、そのように制度が改正される見込みは非常に薄いと言えます。日本で持ち家を所有するのであれば、被災しても損壊しないよう耐震性能を高めるとともに、毎年100万円くらいずつ積み立てて、いざ被災したときには保険+自費で再建できるようにしておくというのが現実解のような気がします。