第3分野での告知事項・保険金支払と行政処分

第3分野である医療保険に関連すると思われる質問として、Yahoo!知恵袋の保険のカテゴリに以下のようなものがありました。
「保険の告知」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1223931792

慢性疾患を持った人が、告知せずに保険に加入したとします。その疾患とは関係のないケガで保険を請求したとします。
すると保険会社は過去の医療を調べて告知義務違反を理由に解約するうえ、保険は降りないんでしょうか?

保険金請求事由と告知事項に因果関係がない場合において告知義務違反を理由に保険会社は保険金支払を拒否できるか?ということに関しては損保・生保共にNoのはずです。
 
損保関係者にとって、この質問は比較的ホットな話であり、これに対して2年ほど前まで誤った対処をしていたために「第三分野商品に係る保険金の多数の不適切な不払い」として金融庁から2007年3月14日に行政処分を多数の損保会社が受けました。
その時に不適当な事例として挙げられたのは、以下のとおりです。質問のケースは正に(2)にあたります。
「損害保険会社10社に対する行政処分について」
http://www.fsa.go.jp/news/18/hoken/20070314-2.html
金融庁 2007.3.14)

(1)保険責任開始以前の発病(以下「始期前発病」という。)について、約款上は医師の診断により始期前発病が認定された場合に保険会社の免責が適用されることとなっている。この始期前発病の取扱いについて、社員が医師の診断に基づかずに判定を行う等、免責が不適切に適用された事例【1,213件・34%】
(2)契約者から保険加入時に告知されなかった病歴等と保険金請求原因との間に因果関係がないにもかかわらず告知義務違反を適用して不払いとしたり、保険会社が除斥期間経過後に解除を行う等、告知義務違反を理由とする不払いが不適切に行われた事例【1,210件・34%】
(3)特定の疾病を不担保とする特約が付されていないにもかかわらず、社員が特約は付されていると錯誤する等により、不担保特約を不適切に適用した事例等【252件・7%】
(4)その他、顧客が保険金の請求を放棄する旨意思表示をしたとして不払いとしている事案につき、経緯が検証できない事例等【910件・25%】

 
保険金の不払いに関しては、生保も「保険金等の支払漏れ等」として2008年7月3日に多くの生保会社に行政処分が出されています。
その時に不適当な事例として挙げられたのは、以下のとおりです。意外と先に損保に出された行政処分の事例と共通点が少なく、冒頭の質問に対する事例はここには含まれていません。
「生命保険会社10 社に対する行政処分について」
http://www.fsa.go.jp/news/20/hoken/20080703-6/01.pdf
金融庁 2008.7.3)

① 保険金等の請求に必要な診断書等(以下「診断書等」という。)に記載された入院、手術等に関する情報の見落とし又は見誤り等により、本来、支払われるべき保険金等が支払われていなかった事例
② 診断書等に記載された内容から、請求を受けた保険金等以外にも支払える可能性がある保険金等があったにもかかわらず、契約者等へ請求が可能な保険金等があることを案内していなかったことから、他に支払可能であった保険金等が支払われていなかった事例
③ 複数の保険契約の加入がある契約者等から、一部の契約について保険金等の請求を受けた場合に、当該契約以外の契約に基づいて支払える可能性がある保険金等があったにもかかわらず、契約者等へ請求が可能な保険金等があることを案内していなかったことから、他の契約に基づき支払可能であった保険金等が支払われていなかった事例
④ 失効契約に係る返戻金について、契約者等への案内が不足していたことから、当該返戻金が支払われていなかった事例、遅延利息について、計算誤り等により支払金額が過少となっていた事例等

余談ですが、②と③は2005年にほとんどの損保会社に出された行政処分「付随的な保険金の支払漏れ」と共通する問題だと思います。
今更ですが、これらの行政処分を見ていると金融庁内における生損保の垣根の高さを感じます。保険商品は似通っていても保険会社の保険金支払部門においても結構違いがあるんじゃないかと思いますが、その違いについてネット等で見る限りではあまり話題にならないような気がします。
 
ちなみに、おそらく来年施行される保険法においては、損害保険(傷害疾病損害保険を含む)に関しては第31条(解除の効力)第2項第2号で、生命保険に関しては第59条(解除の効力)第2項第2号で、傷害疾病定額保険に関しては第88条(解除の効力)第2項第2号で、告知事項と保険金支払に関して定められています。いずれも片面的強行規定ですから、これよりも契約者等が不利な扱いをされることはないです。