利益相反管理方針の文書のクオリティ

先週末から本日にかけて、ほとんどの保険会社が「利益相反管理方針」の公開を一斉に行いました。
私がそのことに気付いた損保をざっと列挙すると、以下のとおりです。
東京海上ホールディングス株式会社
東京海上日動火災保険株式会社
日新火災海上保険株式会社
三井住友海上グループホールディングス株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
株式会社損害保険ジャパン
ソニーフィナンシャルホールディングス株式会社
アクサ ジャパン ホールディングス株式会社
富士火災海上保険株式会社
共栄火災海上保険株式会社
スミセイ損害保険株式会社
SBI損害保険株式会社
アリアンツ火災海上保険株式会社
カーディフ損害保険会社
 
おそらくトリガーは金融庁の「利益相反管理態勢の整備等に関する検査マニュアル」かと思います。5月20日にも「利益相反管理態勢の整備等に関する検査マニュアルの一部改定について」が出されていましたから。
 
中身自体にあまり興味はないのですが、各社の文書としての出来については気になる点がありました。この手の公式な文書はきちんとチェックされてから、社内の承認手続きを経るため変な文書は滅多にありません。しかし、変な文書がいくつかあったのです。
 
まずは、スミセイ損保です。

1.管理対象とする取引
本方針の対象となる「利益相反のおそれがある取引」は、当社もしくは当社の親金融機関等が行う取引のうち、…

「または」と「もしくは」の使い方がおかしいです。ここは、「もしくは」ではなく「または」にするのが普通です。
 
次は、富士火災です。

4.利益相反管理体制
…、利益相反のおそれのある取引の特定及び利益相反管理を的確に実施するとともに、…。また、…、本方針及び本方針を…。
 
5.利益相反管理の対象となる会社の範囲
…、弊社および弊社グループ会社内の…。

↓は、共栄火災です。

第1条 …、当社及び当社のグループ金融機関(以下「当社等」といいます。)が…。
(定義)
第2条 …、全国共済農業協同組合連合会(以下「JA共済連」といいます。)及び農中全共連アセットマネジメント株式会社のことをいいます。
   (中略)
[2] 取引条件又は方法の変更、一方の取引の中止
…、当該判断に関する権限及び責任を明確にします。
   (中略)
利益相反のおそれのある取引の管理の記録および保存)
第6条 …利益相反管理部署は、対象取引およびその管理のために行った措置について…。

いずれも、「および」が、かなと漢字混在になっています。
SBI損保も同じ過ちをしている上に、「または」についても、かなと漢字混在になっています。そして、もう1つ付け加えるなら、「並びに」の使い方もおかしく、普通は「および」を使う箇所があります。

…、当社または、当社の親金融機関等(以下「当社グループ会社」といいます。)が…。
1.法令等の遵守
当社及び当社グループ会社は、…。
2.利益相反のおそれのある取引の類型・特定のプロセス
(1)対象取引
…、当社又は当社グループ会社(別表に定義します。)が行う取引において、当社又は当社グループ会社が行う保険関連業務又は金融商品関連業務に係るお客さまの利益を…。
(2)判断する事情
利益相反のおそれのある取引」に該当するか否かを特定する上においては、以下の事情を検討いたしますが、これらに限りません。
・…、当社又は当社関係者が経済的利益を得るか又は経済的損失を…
・…、財貨若しくはサービスの形で誘因を得る場合、又は将来得ることになる場合
なお、…、当社および当社グループ会社の…。
(4)利益相反のおそれのある取引の特定のプロセス
① …、営業部門の管理担当者及び利益相反管理統括部門…。
② …、「利益相反のおそれのある取引」の「特定」及びその「管理方法」…。…、コンプライアンス統括部又は営業部門の管理担当者から「利益相反のおそれのある取引」の「特定」又は「管理方法」の指示があった場合には、…。また、「利益相反のおそれのある取引」に該当するか、又は、その管理方法について、…、コンプライアンス統括部又は営業部門の管理担当者の…。
③ …「利益相反のおそれのある取引」の「特定」及びその「管理方法」…。
3.利益相反管理の対象となる会社の範囲
…、当社又は当社の親金融機関等若しくは子金融機関等が行う取引です。
…、金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介を業として行う者並びに外国の法令に準拠して外国において銀行業、金融商品取引業、又は保険業を行う者…。
…、当社の①子法人等又は②関連法人等のうち、…、金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介を業として行う者並びに外国の法令に準拠して外国において銀行業、金融商品取引業、又は保険業を行う者…。
…、当社の「親金融機関等」及び「子金融機関等」に該当します。
4.利益相反のおそれのある取引の管理の方法
・対象取引又は当該お客さまとの取引の条件又は方法を変更する方法
・対象取引又は当該お客さまとの取引を中止する方法
・対象取引に伴い、…(ただし、当社又は当社グループ会社が…。)
5.利益相反管理体制
(1)利益相反管理統括責任者及び利益相反管理統括部門の設置
当社は、利益相反管理統括責任者及び利益相反管理統括部門を設置します。
…、利益相反のおそれのある取引の特定及び利益相反管理に…。
(2)利益相反管理統括部門の責務
…、利益相反のおそれのある取引の特定及び利益相反管理を…。…、当社及び当社グループ会社の役職員に対し、本方針及び本方針を…。
(3)内部監査室による内部監査
…、利益相反管理に係る人的構成及び業務運営体制について、…。

意味もなく混在するのは見苦しいので、どちらかに統一すべきです。ちなみに、保険約款の作成上では、「および」,「または」,「もしくは」は平仮名で統一されています。
 
また、SBI損保においては、『「利益相反のおそれのある取引」に該当するか否かを特定する上においては、以下の事情を検討いたしますが、これらに限りません。』も意味不明です。これらに限りませんということは、恣意的に判断するとでも言うのでしょうか?
約款においては「この限りではありません」という文言がかつてよく使われましたが、今ではNGワードになっています。その理由は何をどの範囲で否定しているかどうにでも取れて分かりにくいからです。そのことは損保協会のガイドラインにも記載されています。それと同じ趣旨で、あいまいに解釈できる言葉を使うのは避けるべきです。
 
それほど文字数の多くない文書の割に、公式な文書としてはアラが目立ちます。SBI損保は特に酷いです。
私の経験上、このような文書は仮に文書を作り慣れていないヒラが作ったとしても、しかるべき上長がきちんとチェックをします。一般的に上長は文書の校正に慣れているので、私がここで指摘した程度のことはできるはずです。そうでないなら、余程の脳なしか手抜きかのいずれでしょう。
脳なしがあてがわれたのか手抜きなのか知る由もありませんが、少なくとも利益相反管理方針について、会社として興味が持たれていないと言えると思います。
利益相反には、私も興味ないのですけど。)