格付会社とその格付と金融庁

トリプルAの AIG が実質破綻したことによって、格付会社の格付は本当に信頼できるのか?格付会社に対する規制や監査が必要ではないか?と問題視されています。
会社の信用度を見る上で格付は利用されており、これをまったく利用しないようにすることは損保会社にとって公表用の資料を作る上で不都合が生じます。例えば、ディスクロージャー資料を見ると出再先の格付が載せられています。尤も、実際には格付会社の格付は参考としてしか使っていないでしょうから、文書はともかく実務面ではそんなに困らないかもしれませんけど。
そして、長期契約を考えている契約者にとっても、どの保険会社と契約するのかの判断する上で重要な要素かと思います。ぶっちゃけた話、手っ取り早く総合的かつ客観的に保険会社を判断する指標は、有名格付会社の格付,ソルベンシーマージン,規模というのが現状かと思ってます。
 
そんなことがあるためかどうか知りませんが、金融庁の金融審議会金融分科会第一部会でちょっと前から格付会社とその格付についての議論がされています。
10/15 に開催された金融審議会の議事録が掲載されており、そこにちょっと興味深いやりとりがありました。
「第53回金融審議会金融分科会第一部会」
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/dai1/gijiroku/20081015.html
金融庁 審議会・研究会等 > 金融審議会 > 議事録・資料等 2008.11.18)

○藤原委員  投資銀行で資本市場の仕事を長く続けてきた人間として、特に発行体サイドの仕事をしてきた経験から私見を述べさせてもらいますと、格付機関に関しては規制は必要だと思います。

かなり前から、格付機関が発行体からお金をもらってその発行体のために格付を決めるというシステムは利益相反の点からおかしいと思ってきました。今日皆様が、格付機関の独立性とか、政治的・経済的圧力から自由になるとかとご発言していましたが、「えっ、そんなことが言えるのかしら」と実は思いました。本日は、せっかくスタンダード・アンド・プアーズムーディーズの方がいらっしゃっているので、1つご質問させてください。

今、資本市場で起こっている混乱の原因の1つは、本来倒産するはずがないと思われていたトリプルA格のAIGがつぶれかけたということだと思います。国が救済をしていなかったらAIGはつぶれていたと思います。こういう前代未聞のことが起ったので投資家は何を信用して投資したらいいいのか分からなくなってしまっているのです。これに関して格付機関の皆様たちはどういう意見を持っているのでしょうか。皆様たちは、今日のプレゼンで格付とは信用リスクに関する将来に向けた意見であると発言してました。しかし、その将来の見方を大きく間違えてしまったわけです。シングルBの企業がつぶれるとかじゃなく、トリプルAの企業が倒産危機に陥ったのですが、例えば、AIGに対して社内で3カ月ぐらい前に、トリプルA格を下げなければいけないとかといった話はでていたのでしょうか。この辺について少し教えてください。

格付機関に対してどういう規制をしたらいいのかという、その度合いについてはあとで話し合えばいいと思いますが、そのためにもAIGのトリプルAという格付に関して何が起こっていたのかについて教えてもらいたいと思います。
 
○張参考人  私は直接AIGの格付のプロセスには残念ながらタッチしていませんので、詳細についてお答えすることはできませんが、一つお話をさせて頂きたいのは、格付がトリプルAであったとしても、それはデフォルトする確率の問題でありまして、トリプルAというものがデフォルトしないということではないということです。

かといって、トリプルAがデフォルトするというのはやはり大きな問題ですので、AIGに限らず、サブプライムだとかCDOの問題でそれだけデフォルトが発生したというのは、格付会社としては、やはりいろいろと改善すべき点が多々あるというふうに思っておりますので、そういった反省も踏まえて、いろいろなプロセスの改善をしていかなくてはいけないと考えております。
 
○北山参考人  ムーディーズの北山でございます。

先ほど、AIGの政府による救済の話ですが、AIG以外にも過去、金融機関、アメリカにおいてもヨーロッパにおいても、かなり私どもが、必ずしもトリプルAでなくても、ダブルA、もしくはシングルAという非常に高格付の金融機関において、政府のサポートを受けざるを得ないような状況に今なっているという観点においては、その金融機関の格付に関しても、非常に市場の信頼に大きな毀損を生じているというふうに認識をしています。

私どもは、先ほどS&Pの方がおっしゃったように、AIGの格付自身の、格付委員会に入っているものではございませんが、概論して申し上げますと、格付については、これはファニメイ、それからフレディ・マックのときもそうだったのですが、シニアのデッド商品に関する格付をやっております。一部優先株等の格付もやっておりますが、基本的にはそういった発行体のシニアのデッド部分の格付でございます。

そういった部分に関しましては、必ずしもすべての将来の予想をするということは私どもも不可能であり、昨今の未曾有の流動性危機ということをすべて予想し得たかというと、必ずしもそうではなかったかもしれませんが、私どもの格付においては、各国の主要な金融機関に関しましては、ご当局の日常ベース以外のサポート要因というのを格付の中に加味して行ってきたというところは申し上げられればと思っています。

ただ、金融機関のバランスシート、もしくは金融機関のバランスシート以外のCDSのマーケットが巨大化している中で、今の流動性危機に関して十分な織り込みができずに、一部の投資家の想定を大きく逸脱するレーティング・アクションが行われたというところは、確かにそういった面はあったのではないかと。首をうなだれて反省ばかりしていても仕様がないものですから、この状況を踏まえて、いかに信頼される格付を今後出し続けるのかというところで、今、鋭意努力をしているところでございます。

藤原委員は実に良い質問をしていると思います。
これに対して、回答しているのは、有名格付会社の2人
参考人スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)
北山参考人ムーディーズ
です。
質問に対する回答をアバウトに要約してしまうと、
・トリプルAだと破綻の可能性が低いと言っているだけで、0とは言っていない。
・将来の外部要因・内部要因を織り込んでいるつもりだが、できるとは限らない。
・直近の事象により格付を見直す動きがあったかどうかは回答なし。
という感じです。
報酬とリンクしていないことは別のところで建前として否定していますが、それはとりあえず置いておくことにします。
1番目はみっともない言い訳だと感じています。確かにそういうことになっていますが、それならそうとそれぞれの格付で破綻する可能性のパーセンテージを公表し、世間に認知してもらう努力をすべきです。今回の格付に関する大きな問題の1つは、世間ではトリプルAなら破綻しないと信じていたところにそこに反したことが起こったためだからです。
2番目は、まぁ仕方ないかなという気もします。しかし、内部要因(今回は CDS)についてはリスクをもっと正当に評価できたはずなのに、大甘…というか全然ダメだったのではないでしょうか。この点に関しては、利益相反の観点から掘り下げてもらいたいもんです。
3番目は非常に重要なポイントだと思います。1か月先というレベルならともかく、今の時世で半年先のことを見とおすのも、場合によっては困難なのは理解できます。それならそうと、必要な時点でタイムリーに格付の見直しをするしか手がないでしょう。
 
これらの回答から、いずれにせよ10年スパンの長期に関しては、格付会社の格付は信用に値するものではないし、格付会社もそんなつもりではないという印象を受けました。
ほとんどの生命保険や長モノや積立の損害保険を検討する際は、格付会社の格付はあまりアテにしないで、自分の尺度で会社の規模や勢いなどから判断するのが良さそうです。