朝日火災とヤマト運輸の運送保険不祥事

朝日火災海上保険株式会社ヤマト運輸株式会社沖縄ヤマト運輸株式会社に対して、運送保険の募集等の不祥事に対して金融庁から行政処分が下されました。
金融庁から行政処分が下される対象は、ほとんどの場合が保険会社なのですが、今回は保険代理店であるヤマト運輸も対象となっています。寧ろ、保険だけ見ると、業務停止命令を受けたのはヤマト運輸だけであり、厳しい処分を受けています。尤も、並みの代理店なら金融庁から処分を受ける前に廃業することになるでしょうから、このような事が珍しいのかもしれませんが。
金融庁、朝日火災、ヤマト運輸のそれぞれがサイトにて情報を公開しています。その中で、経緯から処分内容まで最も詳しく記載されているのは朝日火災の資料です。
「朝日火災海上保険株式会社等に対する行政処分について」
http://www.fsa.go.jp/news/21/hoken/20091228-6.html
金融庁 報道発表資料 2009.12.28)
 
「運送保険募集業務に係る行政処分について」
http://www.yamato-hd.co.jp/news/h21/h21_69_01news.html
ヤマト運輸株式会社 ニュースリリース 2009.12.28)
 
「弊社並びに弊社代理店(ヤマト運輸株式会社、沖縄ヤマト運輸株式会社)に対する行政処分について」
http://www.asahikasai.co.jp/topics/detail.html?id=134
(朝日火災海上保険株式会社 トピックス 2009.12.28)
処分の原因となった不祥事の「発生原因分析」を読むと、実際の様子が見えてきます。
まずは、無資格募集ですけど、これは最近はなくなってきているはずですが、この程度のことであれば探せばありそうな気がします。そう言えば、ペリカン便だけは保険料が料金の外枠で見えていたような気がしますが、他は内枠だったのでしょうか?よく分かりません。
それよりも興味深いのは、以下の部分です。

(2) ヤマト運輸社の不適切なコンプライアンス態勢
平成16 年1月にヤマト運輸社保険担当部門は、取扱店における法令違反状態を察知し、同社コンプライアンス委員会に付議し、取扱店におけるヤマト便にかかる保険付保の中止を決定しましたが、現場部門の営業部門との連携が機能することなく違反状態が継続されました。
また、同社コンプライアンス委員会は、同社内のコンプライアンス規程に反し法令違反状態を改善できませんでした。

5年以上も前に保険の無資格募集に気付いていながら、それを改善できずにいたということです。つまり、ヤマト運輸において、保険募集についてこれほど軽く見られていたということです。(それが業界全体のことかどうかは分からないので言及を避けます。)
そして、それを助長したのは、朝日火災です。以下にあるとおり、朝日火災はヤマト運輸から相談されていたにも関わらず、放置していました。

(3) 弊社の不適切なコンプライアンス態勢
平成16 年1月に弊社は、ヤマト運輸社保険担当部門から取扱店における法令違反状態の相談を受けたにもかかわらず、弊社内のコンプライアンス規程に反し組織的に対応することなく法令違反状態が改善されませんでした。弊社のコンプライアンス態勢が機能しておりませんでした。

放置の理由について書かれていないので分かりませんが、朝日火災がこの事態を軽視したのか、ヤマト運輸に対して監督するだけの力がなかったのかいずれかだと思います。
 
実のところ、私は放置の理由は後者の方…力関係の問題だと思っています。その理由は、リリース資料の「事実確認」に記載の以下の部分から、弱い立場に朝日火災があったことが分かるからです。

(4) 運送約款の賠償責任範囲に対する求償権の行使について
弊社は保険金をお客様へお支払した際、お客様のヤマト運輸社に対する損害賠償請求権が弊社に移転することとなりますが、当該求償権を適切に行使しておりませんでした。

普通の保険会社なら回収できる可能性のある損失(保険金)は、当然に回収しようとします。回収が見込めるのに回収をしようとしない理由は、1つしか考えられません。
今回のリリース資料では、求償権を行使したなら保険料を下げることができた可能性があると書いていますが、それ以外に特定の企業に対して便宜を図った…つまり利益供与した…ことも問題だろうと思います。
 
運送保険についてはタッチしたことが全くないのであまり詳しくないのですが、宅配便の実情と保険の性質からするとまだまだ似たような事例はあるのではないかと思います。
物凄く僅かな保険料のために、保険業法で定められている募集ルールを実施するのは到底現実的とは思えませんから。