遅延損害金の扱い

2010年4月施行の保険法では第21条・第81条・第52条にて保険給付の履行期…保険金の支払時期の規定が新設(商法には存在しませんでした)されたため、その規定を踏まえた内容に各損保は約款を改定しています。全ての損保の約款を見たわけではありませんが、少なくとも現時点で大手損保を中心に公開されている保険法対応約款を見る限りでは、そのようになっています。
具体的には、保険金支払期限について、標準は30日、標準以外については5類型を想定して60〜180日の範囲で約款にて定め、その期限を過ぎた場合は保険会社が責任を負うこととしています。その責任を負うことの内容について、具体的に公言しているのは共栄火災海上保険株式会社の保険法対応案内くらいですが、各損保で違いはないものと思われます。
ちなみに、その共栄火災のお知らせの該当箇所は以下のとおりです。後ろの方のカッコの中身がそれです。つまり、延滞利息を払うということです。
「保険法対応にかかる自動車保険商品の改定について」
http://www.kyoeikasai.co.jp/info/090915.html
共栄火災海上保険株式会社 共栄火災からのお知らせ 2009.9.15)

保険事故が発生した場合は、保険金の請求が完了した日(保険金のご請求に係るすべての書類が当社に到達した日)からその日を含めて30日以内に保険金をお支払いすることとしています。しかしながら、保険金のお支払いにあたり、30日を超えて特別な調査が必要である場合、従来の保険約款は、保険会社は調査を終えた後遅滞なく保険金を支払う、としており、保険金支払時期に明確な定めがありませんでした。改定後商品では、特別な調査が必要な場合を分類したうえで、支払期限を明確化しました。(保険金をご請求された方に、支払期限を超えて保険金をお支払いする場合は遅延利息をお支払いします。)
(注)30日を超過する場合は、お客さまにその旨ご通知いたします。

保険給付の履行期の話は、10月24日に「保険法−給付の履行期と実際の対応事項」である程度書いたので、今回は踏み込まないことにします。
 
前置きが長くなりました。ここから本題です。
保険会社は、支払期限までに保険金を支払わなかった場合に遅延利息(以下、遅延損害金と書きます)を支払うとしています。
この遅延損害金について、いくつか疑問があります。
まずは、単純なところで、利率はどうなのか?利息の計算(単利/複利)はどうするのか?といった点があります。利率は法定の6%ではないかと想像がつくのですが、利息の計算方法は各社マターなのではないかと思っています。
 
そして、もう1つ、この遅延損害金の経理的な扱いについてです。
これは2つの考え方があります。損害保険金の一部である損害調査費用の中に含めてしまう考えと保険金とは別枠の雑損とする考えです。
遅延損害金が発生する理由として、大きく分けて次の2種類が考えられます。
1つは、保険金支払に関する真にやむを得ない裁判のために日数がかかるものや本当に調査で時間がかかってしまうものがありえます。約款では5類型のそれぞれについて支払期限を設けていますが、そもそもこの期限自体が絶対にこの日数に収まるものとして規定したものではなく、ほとんどのものが収まるであろう日数ですので、ほとんどではないものについて一定数存在し、それらについて期限内に支払うことができないことは当然に存在しうる話です。
そして、もう1つとして、保険会社の支払担当の怠慢,失念等や上層部からの指示・管理による意図的なものがありえます。これはあってはならないことですが、現実に起こり、先般(10月23日)日本興亜損害保険株式会社が保険金の支払遅延で金融庁から行政処分を受けたばかりです。
このことを踏まえると、遅延損害金に関して、前者については損害調査費用として扱い、後者については雑損として扱うのが妥当ではないかと思います。
なお、損害調査費用なら、損害率に影響を及ぼし、再保険に出しているなら、その回収の対象となり、共同保険の場合は各社で分担することになります。一方で、雑損なら、元受保険会社だけが全てをかぶることになります。
このような違いもあるので、遅延損害金の経理的な扱いに関しては、その発生事由によって分けるべきだと思うのですが、どちらか一律の扱いにする方向という噂を聞きます。
しかも、ほとんどの大手損保は一律で損害調査費用にすることを主張しているらしいです。当然に日本興亜損保もこの立場をとるでしょう。自社の都合で遅らせたことによって発生した費用の一部(場合によっては全部)を他社に押しつけることができるのですから。
一方で、一律にするなら雑損とすべきと主張している損保会社については、私は非常に好感を持ちます。その理由は↑のことの裏返しです。
地震保険自賠責保険はともかく、それ以外の保険がどういう扱いとなるのか興味があります。ただ、私にそれを知る機会はこないかもしれませんけど。