重要事項説明書の簡素化

金融審議会下にある「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」にて諮問事項の1つである『必要な情報が簡潔で分かりやすく提供されるための保険募集・販売の在り方』に対する検討を行う過程で、それとリンクして損害保険業界として一般社団法人日本損害保険協会にて「重要事項説明書(契約概要・注意喚起情報)」の見直しが行われてきました。
そして、関係各所との調整の結果を踏まえて、改定サンプルとガイドラインの見直しが確定しました。
「重要事項説明書をよりわかりやすく〜ページ数半減、文字数4分の1に〜【No.13-011】」
http://www.sonpo.or.jp/news/release/2013/1309_06.html
(一般社団法人日本損害保険協会 お知らせ > ニュースリリース 2013.9.19)

これまでの重要事項説明書は、情報量が多く、消費者にとって「読みにくく」「わかりにくい」との指摘がありました。
今回作成した改善案(プロトタイプ)は、消費者にとって読みやすく、募集人にとって使いやすいものにすることを主眼に置きました。

やはり昨今の「重要事項説明書」は、情報量が多すぎて却って分かりにくいし、読む気にすらならないという問題があるということが、報告書を読むと浮き彫りにされており、本当に重要なことが理解されるように見直しが進められたようです。
しかも、「保険会社向けの総合的な監督指針」に囚われずに検討されているようで、おそらく逆に監督指針の方が一部変更されることになると思われます。
個人的にも今回の改定は「重要事項説明書」本来のあるべき姿への正しい見直しが行われたものと思っています。
 
どうも「重要事項説明書」は、多くの一般的な顧客のためというよりも、?金融庁向けのポーズとして記載が増えているのではないかという疑いと?保険会社や代理店でのクレーム回避(「重要事項説明書」に書いてあったのに、それを読んでいないのは顧客が悪いという理屈を展開するため)と?数少ない口煩い契約者(何故大事なことなら「重要事項説明書」に書いていないのか!という輩)対策のために段々ボリュームが増えてきたのではないかと思われます。
今回?については金融庁と握っているでしょうからいいとして、?と?は相変わらず残っているので、時間が経つにつれて元の木阿弥となる懸念があります。
その辺りは今後各社が対応していくこととなると思いますが、クレーム回避だけを意識する部署や一部の煩い契約者を向くのか、真のあるべき姿を維持し続けるのか姿勢が見えてくることになりそうです。
 

アメリカンホーム自動車保険の衝突被害軽減ブレーキ装置割引の勇み足

ちょっと興味深いチョンボ(?)があったので、勝手な推測と共に取り上げておきます。
アメリカンホーム保険会社自動車保険の「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」と「年間走行距離区分」の導入について、募集開始後に撤回をしたというものです。
いずれも、先日付ではあるものの、その内容で成立した契約があった模様です。
「年間走行距離区分」はリスク細分項目として一般的なものであるため特に気になりませんでしたが、「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」の方は目を引くものかと思います。
おそらく、こちらが当局の目にとまったのでしょう。
これは私の推測ですが、
① アメリカンホームは「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」の認可を得ていないが、社内事情により商品改定を行ってしまった。(付加保険料の整理でOKと勘違いした?)
② 金融庁ニュースリリースを見て、アメリカンホームに説明を求めた。
③ 純保険料でのリスク細分であるため、認可なしでは不可と金融庁からNGを出された。
というところではなかろうかと思います。
 
昨今、自動車においては自動運転の研究が盛んであり、また自動ブレーキは実用化しているので、それを保険に結び付けようというのは分からなくもありません。
ただ、福祉車両エコカーとは異なり、事故の軽減を根拠に保険料を割り引くのなら、やはり認可は必要となるし、するとその装置により損害率がどの程度軽減するかのエビデンスが必要になるので、なかなか難しいのでしょうね。
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自動車保険に日本初の「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」を導入
 アメリカンホーム『ファミリー自動車総合保険』で、2013年9月1日より」
http://www.americanhome.co.jp/news/20130708.html
アメリカンホーム保険会社 ニュースリリース > 2013年 2013.7.8)

アメリカンホーム保険会社は、2013年9月1日以降に保険期間が開始となる自動車保険契約について商品改定を実施いたします。その商品改定において、主要な個人向け自動車保険としては日本初(*)となる「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」を導入いたします。
(*) 日本損害保険協会・外国損害保険協会に所属する損害保険会社各社のウェブサイト掲載商品を自社にて調査した結果に基づく。(2013年7月1日現在)
 
【 『ファミリー自動車総合保険』 商品改定の概要 】
1)「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」を導入します。【主要な個人向け自動車保険では日本初】
2)「年間走行距離区分」を導入します。
3)「対物超過修理費特約」の販売を開始します。

 
自動車保険『ファミリー自動車総合保険』 商品改定の見直しについて」
http://www.americanhome.co.jp/news/20130729.html
アメリカンホーム保険会社 ニュースリリース > 2013年 2013.7.29)

アメリカンホーム保険会社は、2013年7月8日に発表した自動車保険『ファミリー自動車総合保険』の商品改定につきまして、急遽見直しが必要な事実が判明しましたので、一旦導入を中止させていただくことをお知らせいたします。
お客様、並びに関係者の皆様にはご迷惑をおかけすることになりましたことを、心より深くお詫び申し上げます。
今回の商品改定(2013年9月1日以降に保険始期が開始となるご契約)においてご案内しておりました、「衝突被害軽減ブレーキ装置割引」、および「年間走行距離区分の導入」に関し、販売のための必要な手続きが不十分であったことが判明いたしました。今後必要な手続きを行い、導入することが決定した場合は、改めてご案内させていただきます。

 

みずほ銀行との保険契約と暴力団排除条項

株式会社みずほ銀行に対して、金融庁は2013年9月27日に次の認識を元に業務改善命令を出しました。

(1)提携ローン(注)において、多数の反社会的勢力との取引が存在することを把握してから2年以上も反社会的勢力との取引の防止・解消のための抜本的な対応を行っていなかったこと、
(2)反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていること、等
経営管理態勢、内部管理態勢、法令等遵守態勢に重大な問題点が認められた。
(注)顧客からの申込みを受けた信販会社が審査・承諾し、信販会社による保証を条件に金融機関が当該顧客に対して資金を貸付けるローンをいう。

「株式会社みずほ銀行に対する行政処分について」
http://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20130927-3.html
尤も、このうち(2)については事実と相違があり、実際には頭取まで情報が行っていたことが早くも判明しております。当然、金融庁行政処分前にみずほ銀行事実認識をすり合わせをみっちりしているはずですから、金融庁はカンカンに怒っていると思います。
 
ここではそんなことを今更掘り下げるつもりはありません。今回のテーマは、それで保険会社はどうするのか?ということです。
 
損害保険業界では、つい最近、保険約款に暴力団排除条項の組み込みの検討を終え、一部の保険会社ではその検討結果を踏まえた保険約款になっています。
「損害保険業界における反社会的勢力への対応に関する基本方針」
http://www.sonpo.or.jp/about/guideline/hansha/
(一般社団法人日本損害保険協会
この件に関して、生命保険業界は、損害保険業界よりも2年ほど進んでいるので、ほとんどの生命保険の保険約款には暴力団排除条項が既に入っていることでしょう。
 
暴力団排除条項とは、保険契約者や被保険者等が反社会的勢力に該当する場合等には、保険契約を解除(重大事由による解除)できるというものです。
ここでいう解除要件にあたる「保険契約者や被保険者等が反社会的勢力に該当する場合等」とは、例示されている火災保険の保険約款では次のようになっています。

③ 保険契約者または被保険者が、次のいずれかに該当すること。
ア.反社会的勢力(注2)に該当すると認められること。
イ.反社会的勢力(注2)に対して資金等を提供し、または便宜を供与する等の関与をしていると認められること。
ウ.反社会的勢力(注2)を不当に利用していると認められること。
エ.法人である場合において、反社会的勢力(注2)がその法人の経営を支配し、またはその法人の経営に実質的に関与していると認められること。
オ. その他反社会的勢力(注2)と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること。
     :
(注)暴力団暴力団員(暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含みます。)、暴力団準構成員、暴力団関係企業その他の反社会的勢力をいいます。

これは火災保険の保険約款例ですが、自動車保険や傷害保険や賠償責任保険においても解除の部分にはそれほど大きな違いはありません。免責の部分はかなり相違がありますけど。
 
みずほ銀行自身は、(注)でいう反社会的勢力には該当しないと思いますが、『イ.反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与する等の関与をしている』に該当する可能性が濃厚です。そうであるならば、みずほ銀行が保険契約者等になっている保険契約は暴力団排除条項に基づき、保険会社は保険契約を解除できることになります。
D&O保険,労働災害総合保険,社有車の自動車保険,持ちビル等の火災保険,福利厚生目的の生命保険や傷害・医療保険等が保険契約として存在することが考えられます。
 
ちなみに、暴力団排除条項導入前の保険約款だったら、解除は不要かという問題もあります。
保険法対応後の保険約款なら、重大事由による解除が必ず規定されているはずです。暴力団排除条項は、重大事由解除のバスケット条項の明確化であるにすぎないため、保険約款内に暴力団排除条項が存在しないことだけを理由に、解除しないという結論を単純に出すのは誤りかと思います。
 
それから、保険契約ではなく代理店委託契約にも暴力団排除条項はあるはずなので、そちらもどうするのか検討する必要があるでしょうね。
 

地震保険制度PT第1回より

東日本大震災地震保険での保険金支払が大量に発生するとともに、地震保険制度の課題がクローズアップされました。それを受けて、2012年4月に地震保険制度に関するプロジェクトチーム(以下、地震保険制度PTと書きます)が発足し、既に検討が進められています。
今回は、2012年4月23日に開催された第1回地震保険制度PTを見てみました。
地震保険制度に関するプロジェクトチーム 第1回(平成24年4月23日)議事要旨」
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/jisinpt/proceedings/outline/20120423.htm
地震保険制度に関するプロジェクトチーム 第1回(平成24年4月23日)配布資料」
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/jisinpt/proceedings/material/20120423.htm
財務省
 
まず、地震保険の認識についてですが、私はモノ保険と位置付けられるものと思っていました。しかし、地震保険制度PTにおいては、費用保険と主張されており、そのため損害額を払わないという説明がされているのが気になりました。それが以下のくだりです。

地震保険は火災保険に附帯されているにもかかわらず、火災保険とは趣旨が異なり、損害填補の保険ではないので、わかりにくいところがある。消費者側の地震保険に対する期待と現実との間にギャップがあると思われるので、加入時に、「地震保険はこういうことを目的とした一種の費用保険なんです」と、「だから、保険金の支払いも3区分の階段状にしているのです」と、そういうことを一生懸命説明していくしかないと思う。

これは損保業界での一般的な考え方と言えるのか、甚だ疑問です。
例えば、東京海上日動火災保険株式会社の「トータルアシスト超保険」の「地震危険等上乗せ補償特約」では、地震保険に加えてこの特約を付帯することで損害を最大100%補償できる旨の説明がされています。地震保険もこの特約もモノの損害を補償する保険であるという認識に立っているからこそ、このような説明になるのでしょうし、この説明を受けた側(保険契約者)もそう捉えることでしょう。
地震保険制度PTでは、費用保険と位置付けるのであれば、まずは損保業界全体でそういう認識であることを共有し、それを元に募集文書を作り直すべきかと思います。それをしなければ、一般消費者に費用保険だから…という説明は受け入れられないでしょう。
また、保険金の支払区分が3区分なのは、極めて広範囲に被害が及ぶことが想定される中で迅速に損害査定をするには一定簡便な基準にする必要があり、その検討の結果として現状では3区分(全損・半損・一部損)となっているのであって、費用保険だから3区分であるという理屈ではないと思っています。素直にそう一般消費者に説明してはいけない理由があるのでしょうか。
百歩譲って、仮に、地震保険を費用保険と位置付けるのであれば、建物を保険の目的とする部分に関しては、建物の評価額と連動させるような保険金額設定は改めた方が理解されやすいと思います。そうすれば、保険金で建物を再建できないことは自明ですし、契約時にもそのことが分かった上での締結となり、保険事故時のトラブルとなることも減ります。
余談ですが、SBI少額短期保険株式会社(旧 日本震災パートナーズ株式会社)の地震補償保険 Resta(地震被災者のための生活再建費用保険)は「地震等による損害を受けたことで、被災後に支出を余儀なくされる「生活を再建するための費用」を補償する保険」と契約概要に記載しており、費用保険であると最初から明らかにしています。
 
地震保険自体は、従前より保険になじまないものと考えられてきたが、1964年の新潟地震を契機に国が関与する形で地震保険制度が作られて保険ができたという経緯があります。そして、超長期で収支を相等させるために保険会社も国(特別会計)もせっせと準備金を積み立ててきました。今回の東日本大震災では、その積み立てた準備金があったからこそ、財務面に大きな支障を出すことなく、保険会社は保険金の支払ができたと言えます。
と思っていたのですが、このくだりを見て意外な印象を受けました。

外国損害保険協会会員会社は、全社とも準備金が底を尽き、自己資本・自己資金をもって保険金を支払っている。

確かに準備金を積み立てる期間が短ければ、これは当然に起こる事態です。国内社でも比較的最近に地震保険を販売し始めたところは同じ状況に陥っているものと思われます。

準備金の推移を見ても、民間負担分は余裕がなくなってきていることが分かります。これで首都圏に地震がきたら、ほぼ全ての損保会社の準備金は枯渇するのではないかと思えます。
この状況で、最大50%の付保を100%にするとか、半損・一部損の支払基準を引き上げるとかといった選択は、保険料を大幅に引き上げない限り無理な選択であろうことが分かります。
そういうこともあってか、議論としては地震保険制度は根本的な変更はせず、変更するとしても限定的なものにしようという方向となっていました。
 
そもそも地震保険で住宅を再建することはできないし、そのように制度が改正される見込みは非常に薄いと言えます。日本で持ち家を所有するのであれば、被災しても損壊しないよう耐震性能を高めるとともに、毎年100万円くらいずつ積み立てて、いざ被災したときには保険+自費で再建できるようにしておくというのが現実解のような気がします。
 

保険商品の提供在り方WG第2回資料より(3)

保険商品の提供在り方WG第2回資料より(1)」(2012.6.30)と「保険商品の提供在り方WG第2回資料より(2)」(2012.6.30)の続きです。
今回は、同志社大学法科大学院の木下参考人説明資料を見てみました。
 
これもまた議事録がないので感触での話になりますが、木下参考人の資料は事務局説明資料と共通する点が多く見られ、もしかしたら木下参考人の問題提起を元に事務局説明資料が作られているのではないかという感じがしました。

この表にまとめられている課題は実際そのとおりですが、すべてを規制対象にしようというのであれば無理があります。特に、右上の枠がそうです。
「非募集人による情報発信は、現状では規制外」とありますが、これを規制するなら、保険についての情報発信(クチコミや感想も含まれます)をする人は募集行為をしなくても規制対象になってしまいます。それはナンセンスですし、実施したら言論統制です。まさか、情報による対価を得ているかどうかで線引きをするというのでしょうか。
ふと思ったのですが、雑誌や新聞でも保険特集のようなものが組まれ、自称専門家が持論を展開してアレがいいコレがだめ等とやることがありますが、それはこの課題に含まれていないような気がします。保険会社からの直接の報酬は得ていないかもしれないものの、明らかに比較情報を提供していると言えるものもあります。その解説自体に誤りがあることがあり、誤った情報を広く発信していると考えられるケースもあります。
いずれにせよ、議論の行方を注視する必要があります。
 
保険者からの情報提供に係る内容として、「契約概要」「注意喚起情報」−所謂、重要事項説明書についても掘り下げた提言がされていました。

現行制度の下では、「契約概要」「注意喚起情報」の記述は、読ませて理解させるには量が多く、苦情対応を考えれば情報量が少なすぎる、等の指摘がある。
制度趣旨に遡ってこうした指摘を検討し、英国などで行われている「募集文書の読みやすさテスト」、認知心理学など消費者の理解に関する専門的知見を活用し、改善のための検討を行い、規律を整理すべきである。

この分量に関する提起は尤もなことです。一般社団法人 日本損害保険協会の「契約概要・注意喚起情報に関するガイドライン(2012年4月)」にもその点を配慮して「記載にあたっては、より重要な情報を慎重に選択し記載することで、「契約概要」「注意喚起情報」それぞれ、A3版1枚程度の分量を目安とする。」と書かれています。しかし、これはこのガイドラインの中で実際は一番軽く扱われている事項ではないかと私は思っています。発生するケースが限定される苦情のために重要事項説明書の分量を増やしているのであれば、それは分量の増加により一般的な顧客に分かりにくさを増すことを強いていると言えます。

1.重要事項説明義務を「契約概要」「注意喚起情報」の作成・交付義務と、説明義務に区分する。説明義務は、対面/非対面の別に応じて、募集人・仲立人として尽くすべき注意義務の水準及び説明の方法、程度を中心とした規律とする。
a)対面販売(電話販売を含む)の場合には、当該顧客が商品選択をなし得る程度の理解に達していないか、商品につき誤解していることが予見可能な場合に、顧客により適切な選択がなされるために必要な説明をなすべきものとする。
b)電話販売を除く非対面販売の場合には、顧客の苦情処理などの経験から顧客が陥りやすい事項について、当該商品の典型的顧客が容易にアクセスし得る適宜の方法で、追加的情報を提供していることを指摘し、その参照を促すほか、助力が必要な場合には口頭説明を受けられる方法を指摘することによる。
2.「契約概要」「注意喚起情報」の交付義務については、当該商品の典型的顧客の理解度に照らして、文書の目的ごとに、情報量の適正性と内容の理解可能性を確保できるような記載項目を明らかにすべきである。
a)契約概要については、商品選択/商品の基本的な仕組みの理解をさせる文書としての観点から、注意喚起情報に回せる事項がないか検証し、商品選択上の特記事項以外は、記述内容が標準化される方向で内容を整理すべきである。
b)注意喚起情報については、一般的、定型的な注意事項に加えて、当該商品に固有の注意事項を列挙できるような記載内容とし、情報不足に起因する苦情、紛争の防止に資する資料として活用される方向で内容を整理すべきである。

重要事項説明に関しての在り方の提言として、今までになかった切り口でなされています。それは、対面/非対面で変えるべきという考えです。募集自体の特性が実際違うのだから、これは非常に当を得た考え方であると思います。
ただ、この議論をするメンバーにはデジタルネイティブと言える年代がいないように見受けられ、実際に非対面の消費者の行動様式をどこまで正しく掴んだ上での議論ができるのか非常に不安です。また、オブザーバーで入っている損保・生保の人間を見ても、非対面募集をつぶしたいと思っている側の人間であることが一層不安を感じさせます。
厚生労働省の薬のネット販売のような不合理な規制をすることにならなければいいのですが…
 

保険商品の提供在り方WG第2回資料より(2)

保険商品の提供在り方WG第2回資料より(1)」(2012.6.30)の続きです。
今回は、ボストン・コンサルティング・グループ シニアパートナーの加藤委員説明資料を見てみました。
 
これもまた議事録がないので感触での話になりますが、加藤委員の資料は以下のことをバックボーンとして論理展開されているように感じられます。冒頭に書かれているとおり生保寄りの内容ですが、第三分野に関しては損保も共通する内容です。

①「家族のための保険」から、「自分のための保険」へ−死亡保障+特約だけでなく、医療・介護・所得補償・年金等の単品
②「情報の受け手」から、「情報を選択」する消費者へ−「情報を抑える」より、「公正な情報発信促進」が今後の力点では?
③「公助」中心から、「私助と公助が共働・連携」する社会へ−医療・介護等の分野では、公私連携・対話が市場育成の鍵

②に関しては、保険業界に言うよりも電力業界や政府に言うべきかと思いましたが、それは置いておくとして…。個人的には②が一番しっくりくる内容でした。
それを示しているのが下の図です。

 
もしも標本を適正に取れているのなら、この図は既存の昔からある国内生保はこのままではジリ貧であることを示し、一方、損保系生保・外資系生保・ネット生保は伸びるだろうと思わせます。
実際、デジタルネイティブと言われる世代がどんどん大人になり、保険の購入者として主流を占めてくるようになるにつれて、ネットで情報をあらかじめ得た上で複数の選択肢から保険を選ぶのが一般的になってくるのではないでしょうか。そうだとすれば、一社専属の生保レディは、他社との公正な比較情報の提供もできず、販売できる商品も極めて限定されることから、その規模は縮小するのが道理です。
また、消費者が主体的に選択するということは、分からないモノは買わない!という動きになってくると思われます。そういう意味ではシンプルな商品が好まれる可能性があります。
情報発信に関しては、知られると不都合だから出さないものと理解してもらうのが難しいから出さないもの、あるいはその両方があると思っています。これは生保に限らず、損保も同様です。特に、生保に関しては保険数理の基礎的な知識がなければ、保険料の基本的な事すら理解するのが難しいという事情もあるかと思います。損保も第三分野の保険や積立保険は同様です。
しかし、難しいことを分かりやすく伝えることができるのが真のプロフェッショナルだとすれば、その資格にある者がそろそろきちんと公開して説明してくれてもいいのではないかと思いますが、どうなのでしょう?
 

保険商品の提供在り方WG第2回資料より(1)

民主党政権になってから中間論点整理を出したまま中途半端な状態で2009年から休止状態になっていた金融審議会の「保険の基本問題に関するワーキング・グループ」が、一部の課題を対象に「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」(以下、保険商品の提供在り方WGと書きます)として漸く再開したようです。
保険商品の提供在り方WGは、第1回が2012年6月7日に、第2回が2012年6月27日に開催されており、その議事録は現時点では公開されていないものの、配布資料のファイルだけが公開されています。今日はその第2回の配布資料を見て、興味を引いた点について書こうと思います。
 
まずは、金融庁が作成した事務局説明資料からです。ここには【保険募集の定義について】【代理店に係る規制について】【契約概要等について】の3点が取り上げられています。議事録がないので、どういう問題意識をもたれているのかは推測にすぎないのですが、このうち前の2点について思うところを書いてみます。
 

【保険募集の定義について】
(略)
○募集形態の多様化
−募集人ではない事業者が、手数料を得て、店頭に保険商品の募集文書を備え置く行為
−比較サイトが、閲覧者を保険募集に誘導する行為

「募集人ではない事業者が、手数料を得て、店頭に保険商品の募集文書を備え置く行為」については、コンビニエンスストアや大衆レストラン等でレジ付近にチラシや申込書一式を置いていることを指していると思います。明らかに募集文書ですが、置いているだけで勧誘行為は全くされないはずです。おそらく店員に保険に訊ねても、内容は保険会社か代理店に訊ねるよう返答するよう教育されていることでしょう。つまり、保険に関して申込みの受付どころか勧誘も説明もしないことによって保険募集には当たらないという整理をしていると考えられます。また、手数料を得て と書いていますが、これも報酬体系は様々ではないかと思います。他の業務提携の一環として不可分な形で、行われているケースもありうるでしょう。要は、明確な手数料を得ずに行われているケースもあるのではないかということです。私は、これに関しては、その店頭に据え置かれている保険商品如何によっては問題ないと思っています。複雑な保険商品ならともかく、保険募集人がいたとしても通り一遍の説明しかされないような単純な保険商品なら、このような行為があっても顧客保護に反する事はないと考えられるからです。
「比較サイトが、閲覧者を保険募集に誘導する行為」については、比較サイトが代理店委託を受けている場合と保険会社が広告と位置付けて行っている場合に分けられます。前者については募集人が募集行為を行っているにすぎないので、問題にはならないでしょう。後者に関しては、保険会社が募集行為を行っているのであって、その広告の一環として比較サイトを利用しているという整理がされているのではないかと思います。比較サイトの場合はまだ一定の規模とシステム連携が必要なため保険会社の監督が行き届くと考えられるためいいのですが、細かいアフィリエイトあたりになると微妙なものがあるかもしれないと思っています。また、逆に代理店が行う可能性があるステルスマーケティングも類似の問題をはらんでいると思っています。
 

【代理店に係る規制について】
(略)
乗合代理店に係る論点
−推奨する商品の選定の適切性
−乗り合う保険会社間の情報の共有(不祥事件、個人情報等)及び責任の範囲
−保険仲立人制度との関係
○その他
−保険募集に係る業務の一部のアウトソース(テレマーケティング、募集管理業務等)
−代理店主による保険料の着服事例の発生

「推奨する商品の選定の適切性」に関しては、同種の保険商品を複数取り扱っている場合に、顧客にとって真にベストな保険商品を推奨しているのか、代理店にとって都合の良い保険商品を推奨しているのかという問題を常にはらんでいると思います。一応、形式上は「保険会社向けの総合的な監督指針」にて意向確認をすることが求められておりますが、その検証はされていないというのが実態かと思います。なぜなら、その検証は当然に代理店自身も引受保険会社も行うことができません。いや、仮に行ってもその検証結果は信用できないというべきかもしれません。そして、顧客からも検証不能です。保険商品の知識のある第三者にしかできないことでしょうが、その方法やコストを考えると厳しいものがあると思います。ベストアドバイス義務があり、保険会社の代理ではなく顧客側の立場に立てる保険仲立人が乗合代理店にとって代わるのも解決策の1つとなりうるかもしれません。この問題に切り込むのでしょうか?そうだとしたら、非常に興味があります。
「乗り合う保険会社間の情報の共有(不祥事件、個人情報等)及び責任の範囲」に関しては、他の引受保険会社の顧客情報をどこまで共有することが許容されるのかという問題があるかと思います。たまたま情報漏洩があって、そういうことが行われていることが発覚したことがありました。その事例は「損保ジャパンの6月8日の顧客情報紛失」(2008.6.15)です。ここでの株式会社損害保険ジャパンの対応を見ると、扱ってはいけないはずの情報を扱っていることに対する認識がまるで欠如しているように感じます。早い話が、情報漏洩を起こさなければ合法とは言えない情報も取り扱っても問題ないだろう!と読めます。それが、損保ジャパン固有の問題なのか、業界全体の認識なのかはここからは分かりませんが、いずれにせよメスを入れるべき問題かと思います。
「保険募集に係る業務の一部のアウトソース(テレマーケティング、募集管理業務等)」は、業務の分担と報酬に係る課題があるかと思います。そこには2種類のケースがあると思っています。アウトソース先が引受保険会社である場合とそれ以外の業者である場合です。前者の場合にはアウトソースに係る費用を代理店から保険会社に支払っている限りにおいては、問題はないものと考えられます。しかし、そうではなく業者にアウトソースしている場合、その業者が他の代理店であるか否かを問わず、現行制度では募集行為を代理店が他人に委託することは認められていないため、問題となります。勿論、募集行為ではないことを委託することは可能なので、募集行為ではないと位置付けて行っているのでしょうが、勧誘や異動受付まで委託しているとなるとクロじゃないかと思います。ここは、顧客保護を勘案した上で募集行為とは何かの整理をし、規制の見直しをする時期がきているのではないでしょうか。
 
長くなったので、他の配布資料については(2)以降で取り上げます。