中間利息控除の行方−民法(債権関係)部会

2009年末から民法改正の論議民法(債権関係)部会にて行われています。
民事法定利率については5%から変更されるようですが、中間利息控除がどうなるのかの方が気になっています。
これが変わってしまうとライプニッツ係数等が変更されて、対人賠償保険や人身傷害保険の支払保険金が大きく変わってくるからです。勿論、保険金が変われば、いずれ保険料も変わってくることになるでしょう。(ここでいう変わるというのは、今の金利状況では保険料は上がることになります。)
 
現状の検討状況は以下のようです。中間利息控除の利率を現行どおり5%のままにする方向に読めますが、はっきりした結論は出ていないみたいです。
民法(債権関係)部会資料50
 民法(債権関係)の改正に関する論点の補充的な検討(1)」
http://www.moj.go.jp/content/000103867.pdf
法務省 審議会等 > 審議会 > 法制審議会 - 民法(債権関係)部会)

3 中間利息控除
損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には,それに用いる割合は,[年5分]とする旨の規定を設けるという考え方があり得るが,どのように考えるか。
(補足説明)
中間利息控除については,部会資料31第2,5(2)[57頁]で取り上げられ,第36回会議及び第3分科会第1回会議で審議された。
前記1のように法定利率を変動制に改める場合には,これに伴い,中間利息控除に用いる割合として法定利率を利用する根拠が現状よりも希薄になると考えられる。その場合に,中間利息控除の在り方を解釈運用に委ねるのみでは損害賠償算定の実務に混乱が生じるおそれが否定できないとの指摘がある。このような指摘を踏まえると,中間利息控除につき法定利率を統一的に用いている現在の損害賠償額算定の実務への影響を避け,現状を維持するために,中間利息控除に用いる割合を年5分とする旨の規定を法定利率とは別に法律で定めることが考えられる。
他方,中間利息控除に関する明文規定を設けると,中間利息控除の割合を見直すのに法律改正が必要となって,損害賠償額の算定につき柔軟な工夫をする余地を狭めることになるが,それは相当でないとの批判があり得る。第36回会議等においても,中間利息控除に用いるべき割合について法定利率を用いることができなくなった場合における具体的な実務の在り方は運用に委ねるべきであるとして,中間利息控除に関する明文規定を設けることに消極的な意見があった。また,そもそも損害賠償額の算定において中間利息控除を行うという実務の在り方(とりわけ逸失利益の算定の在り方)について,擬制の上に擬制を重ねる非常に不自然なものであるとの批判があり,不法行為法の見直しをする機会にはこの問題を正面から議論すべきである等の指摘もある。
以上のような指摘を踏まえ,本文では,中間利息控除を行うべきかどうかは引き続き解釈運用に委ねることを前提として,仮に中間利息控除を行うとした場合に用いるべき割合を定める規定を設けるという考え方を取り上げ,その当否を問うている。
中間利息控除に用いる具体的な割合については,将来の予測という本質的に困難な検討課題であることを踏まえつつ,過去数年間の金利の平均等といった計算方法によって,より金融市場の実勢に近いと考えられるもの規定するとの考え方があり,第3分科会第1回会議においてもその旨の提案があった。もっとも,前述のようにそもそも中間利息控除という手法への批判も少なくないことを踏まえると,今回の法定利率の見直しに伴って中間利息控除の割合まで直ちに改めることに対しては,異論も少なくないように思われる。そこで,本文では,現状と同じ年5分とする考え方を,ブラケットで囲んで提示している。

 

東京海上日動の自動車保険支払い漏れ(続)

このブログは世の中の動きから出遅れてばかりで、またちょっと出遅れの内容ですが…
東京海上日動の自動車保険支払い漏れ」(2014.2.16)で書いた件について、東京海上日動火災保険株式会社が再びニュースリリースを出しました。
自動車保険「臨時費用保険金」のお支払いに向けた対応について」
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/j0201/pdf/140217.pdf
東京海上日動火災保険株式会社 ニュースリリース 2014.2.17)
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残念ながら約款の詳しい内容は不明なので前回のブログが正しいという前提で改めて私の考えを書いておきます。
2008年7月以降は、臨時費用は実際の費用の発生有無は問わないとのことなので、約款も支払運用も下図のようになっており、整合していました。

また、2003年6月以前は、請求教示が的確に行われていたなら、約款も支払運用も下図のようになっており、やはり整合していました。勿論、請求教示が的確に行われていなければ、その点は不親切であるとの誹りは免れませんけど。

一方で、2003年7月〜2008年6月は、約款は2番目の図のようになっているにも関わらず、支払運用は1番目の図のようになっており、整合していませんでした。ただ、これは不必要な支払いの発生の可能性は出てしまいますが、不払いは生じないので大きな問題にはならないでしょう。
そして、今回、約款と支払運用の整合している2003年6月以前について不払いの可能性があると騒がれました。上で書いたとおり、請求教示が的確に行われていたなら特に問題はないのではないかと思います。
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これが今更取り上げられたのは、東京海上日動の内情を知る社内あるいは退社した者が同社を貶めようとして起こしたことのような気がしてなりません。
 

保険募集の再委託

先月の話になりますが・・・
保険募集の再委託は、保険業法第275条(保険募集の制限)第3項で規定されている者に限って行うことができ、保険業法施行規則第212条の6の3(保険募集の再委託の認可の申請等)に金融庁の認可について定められています。
しかし、実態はそうではないということが、金融審議会の保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループで指摘・論議されてしまいました。
同WGでは将来的に保険募集の再委託を視野に入れて報告書を作成していますが、現時点ではNGであるのは明白であり、その点に関して「保険会社向けの総合的な監督指針」に明記されることになりました。
「「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について」
http://www.fsa.go.jp/news/25/hoken/20130116-1.html
金融庁 報道発表資料 2014.1.16)
 
また、金融庁は保険募集の再委託を行っていないか、行っている場合には適法な状態に是正するように各社に報告徴求命令を出して求めているようです。
 

東京海上日動の自動車保険支払い漏れ

自動車保険の「付随的な保険金の支払漏れ」に関しては、2005年に金融庁より多くの損害保険会社に行政処分が出され、既に全て決着したものと思っていました。
それが、突然、東京海上日動火災保険株式会社での過去の自動車保険の支払い漏れについて、マスコミにて取り上げられ、自社でもニュースリリースしていました。
最初は、対人臨時費用保険金にスポットがあたっていましたが、遅れて対物臨時費用保険金と人身傷害臨時費用保険金も取り上げられていました。
「対人臨時費用保険金のお支払いについて」
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/j0201/pdf/140207.pdf
東京海上日動火災保険株式会社 ニュースリリース 2014.2.7)
「人身傷害臨時費用保険金・対物臨時費用保険金のお支払いについて」
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/j0201/pdf/140210.pdf
東京海上日動火災保険株式会社 ニュースリリース 2014.2.10)
いずれもマスコミが先で、自社リリースが後でした。
普通に考えれば、対人臨時費用保険金の指摘があれば、対物臨時費用保険金と人身傷害臨時費用保険金もあるのではないかと容易に推測できるのに、マスコミに後れをとって対物臨時費用保険金と人身傷害臨時費用保険金の公表しているあたりは、東京海上日動が余程慌てて場当たり的に対応した感が否めません。
 
さて、対人臨時費用保険金について整理してみます。なお、対物臨時費用保険金と人身傷害臨時費用保険金も同様と思われます。
東京海上日動ニュースリリースには以下のように記載されています。

○従来より、臨時費用保険金は、お客様に実際の損害が発生し、お客様からご請求をいただいたものについて保険金のお支払いを行っておりました。
○しかしながら、お客様対応の向上を目的として、2003年7月に運用方針を変更し、対人事故発生時には一定の臨時費用保険に係る損害が生じていると見なして原則お支払いすることにいたしました(*)。
○なお、2008年7月には、保険約款を変更し、一定の条件を満たす場合には、お客様の費用負担の有無に係らずお支払いが可能となるようにするとともに、併せて臨時費用保険金のお支払いのみの場合には次年度保険料に影響が生じない運用変更も行っております。

2008年7月1月改定の総合自動車保険(トータルアシスト)の約款は入手できるのですが、それ以前の約款は入手できませんでした。
そこで、2003年6月時のSAPの標準約款(普通保険約款 賠償責任条項 第12条)と比較しつつ、上に書かれていることを整理し、下表のようなことだろうと推測しました。

つまり、2008年6月以前は必要な臨時費用が生じたなら被保険者は対人臨時費用保険金を請求をする必要があり、その保険金請求がなければ対人臨時費用保険金は支払わないということになっていました。ただし、それは約款上の話であって、約款よりも顧客有利な運用を2003年7月以降は行っていたということです。
2003年6月以前は約款どおり運用しており、その観点で支払漏れがないか2005年当時に確認を行ったということです。
 
マスコミの書きぶりでは、東京海上日動の論理を説明せず、一方的に保険会社を悪者にしたいように感じます。記者のレベルが低くて、裏付けの確認を十分していなかったり、理解が及ばなかったりしているのかもしれません。
いずれにせよ、今回の件はどういうことなのか正確に理解しておきたいところです。
 

自動車の衝突回避装置と保険料リスク区分

アメリカンホーム保険会社がやろうとした衝突被害軽減ブレーキ装置割引ですが、去年、日経ビジネスでその可能性について既に取り上げられていました。
「自動事故回避技術、普及は「ガイアツ」頼み?」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121113/239378/?P=2
日経ビジネスONLINE 総合トップ > IT・革新 > 記者の眼 2012.11.15)

トヨタで安全技術を担当する吉田守孝常務役員は「安全技術の普及にはアセスメントと保険制度が重要」と指摘し、国内保険会社に安全技術の説明をしているという。だが、現時点で国内自動車保険大手に問い合わせると「衝突回避などの安全技術で保険料を割り引くにはまだ実績が少ない」と口を揃える。
保険が割引になれば、安全技術へのコスト負担は和らぎ普及が加速する可能性は大きい。突破口を開く保険会社はどこなのだろうか。ある国内自動車メーカーの幹部は「海外で実績を積んできた外資が先行するのでは」という見立てを披露する。

 
先日の記事も併せて読むと、日経ビジネスでは実績がないことと規制が阻んでいることが問題であるように認識していると思われます。
私はそれはちょっと違うのではないかと思っています。
まず第一に実績がないことは、自動車メーカーと保険会社がタッグを組んで実際の多数の事故データを元に衝突回避装置が仮にあったとしたら事故が回避できたか/回避できないとしても損害額が軽減したかをシミュレーションをして、料率を算定することは不可能じゃないと思います。
そして、そのシミュレーションの精度が十分高ければ、金融庁はおそらく割引を認めるのではないかと思います。
つまり、自動車メーカーはその気のようですから、後は保険会社が本気で取り組めばクリアできるのではないかと考えています。
 
しかし、保険会社は自動車保険の悪い収支を改善したいと考えており、割引を設ける状況ではないような気がします。
勿論、余程の自動車メーカーからの圧力があれば状況は変わるかもしれませんが。
また、自家用普通乗用車・自家用小型乗用車に関しては、型式別料率クラスがあるので、ある型式で衝突回避装置の装着率が高まり、その型式の損害率が低下すれば料率クラスが下がることにより、わざわざ割引を導入しなくても自動的に保険料が下がることになります。
 
個人的には、装置による割引が増えることは保険料制度が再び複雑化するため、好ましくないと思っています。
前々回の参考純率改定でこの手の割引が減ったのに、逆行する動きとなってしまいます。
また、実際に衝突回避装置の装着有無やどの衝突回避装置であれば割引の対象になるかという確認もあまり簡単なものではなく、また仮に割引が適用できるのに適用していなかったケースが発生した場合に数年前に主に火災保険で問題となった保険料の取り過ぎ問題が再び起こります。
ただ、自動車の衝突回避装置の装着は、今の感じでは大勢となりそうですから、いずれ保険の対応がなされる時が来るかもしれません。
 

反社会的勢力情報の保険業界と警察の連携

多数の反社会的勢力との取引を知りながら放置したことで株式会社みずほ銀行金融庁から行政処分を受けたことをきっかけに、マスコミ等を見ていると銀行業界では反社会的勢力に対する取組みが加速しているように感じられます。一般社団法人全国銀行協会は反社会的勢力に関するデータベースの接続に向けて11月にも警察庁と協議を始める方針だそうです。
保険業界はどうなのかと見てみると、生命保険に関してこんな記事がありました。
「生保協も警察情報活用へ=暴力団らと関係根絶」
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20131018-00000010-jijnb_st-nb
時事通信 2013.10.18)

生命保険協会(加盟43社)が、暴力団員らとの契約や取引を未然に防ぐため、反社会的勢力に関する警察庁のデータベース(DB)を活用したシステム導入の検討に入ることが17日、明らかになった。年内にも協会内で意見集約を図り、警察庁と細部を詰めた上で、来年中には運用を始めたい考えだ。
みずほ銀行は系列信販会社を通じた暴力団融資を2年以上放置し、金融庁から行政処分を受けた。これを受け全国銀行協会の国部毅会長は17日、全銀協警察庁のDBのシステム接続を本格検討すると表明。保険業界も足並みをそろえることにした。

ただ、「保険業界も足並みをそろえることにした。」とありますが、生命保険業界のみで、損害保険業界の方は記事には書かれていません。
保険契約への暴力団排除条項の導入の取組みに関しては損害保険業界は生命保険業界よりも遅れており、今年度(しかも始期ベースでは下期)になって漸く数社が実際に暴力団排除条項を組み込んだ保険約款を適用し始めたという状況なので、おそらくまだ『反社会的勢力に関する警察庁のデータベース(DB)を活用したシステム導入の検討』は具体化していないのではないかと思います。
 
もう1点、気になる事があります。
警察庁のサイトの以下のページを見ると、「生命保険約款への暴力団排除条項の導入について(平成24年1月19日)」という文書があります。
http://www.npa.go.jp/pdc/notification/keiji.htm#bouryokudan
内容は、反社会的勢力に関する生命保険業界と連携の強化等に関する各都道府県警察への要請です。同様の内容の損害保険版があってもいいはずと思いますが、現時点では見当たりません。
単に警察庁による公開が遅れているだけならいいのですが、もし警察庁が損害保険業界に対する情報連携について及び腰だとすると問題が生じそうな気がします。(暴力団排除条項における賠償責任保険の整理がどうなっているのかを知っている上で私は書いています。)
 

アメリカンホーム自動車保険の衝突被害軽減ブレーキ装置割引の失敗と顛末

10月13日に書いた「アメリカンホーム自動車保険の衝突被害軽減ブレーキ装置割引の勇み足」に関して、日経ビジネス(2013.10.14 第1711号)でも『時事深層 安全カーが衝突した保険の壁』で取り上げられていました。
そこには当事者であるアメリカンホーム保険会社に取材しなければ分からないことが書かれており、私の推測は概ね合っていたけど一部外れていました。
そこで、記事の解説を兼ねて思うところを書いてみようかと思います。
私の推測で外れた部分は「(付加保険料の整理でOKと勘違いした?)」です。ここは記事には以下のように書かれています。

同社は、各保険会社の裁量によって料率を変更できる範囲料率という仕組みを使って割引しようと考えていた。だが、金融庁は「安全装置は事故低減効果を検証して、料率に反映すべきというのが法律の趣旨」(保険課)と、範囲料率の適用領域外であるという判断を示した。

これは、保険業法施行規則第12条(保険料及び責任準備金の算出方法書の審査基準)第3項に次のとおり規定されていることに関する内容です。

自動車の運行に係る保険(自動車損害賠償保障法 (昭和三十年法律第九十七号)第五条 (責任保険又は責任共済の契約の締結強制)の自動車損害賠償責任保険を除く。)の引受けを行う場合においては、次に掲げるすべての要件を満たすものであること。
イ 純保険料率の算出につき危険要因を用いる場合には、次に掲げるいずれかの危険要因により、又はそれらの危険要因の併用によること。
(1) 年齢
(2) 性別
(3) 運転歴
(4) 営業用、自家用その他自動車の使用目的
(5) 年間走行距離その他自動車の使用状況
(6) 地域
(7) 自動車の種別
(8) 自動車の安全装置の有無
(9) 自動車の所有台数
ロ イに規定する危険要因による純保険料率の格差が統計及び保険数理に基づき定められていること。
ハ イに規定する年齢、性別及び地域に係る純保険料率が、別表の上欄に掲げる区分に応じ、同表の下欄に掲げる要件を満たすものであること。
ニ 法第四条第二項第四号 に規定する書類に、免許に係る保険料を中心とした一定範囲内で保険料を修正することを記載する場合には、その範囲が免許に係る保険料に対し、千分の百二十五を乗じたものを加えたもの又は減じたものを、それぞれ上限又は下限とするものであること。

この「ニ」の12.5%で調整できることを範囲料率と記事では書いています。
この範囲料率というのは、好き勝手に保険料を12.5%の範囲で上げ下げして良いということではなく、リスク区分の中で使うべきであり、安全装置についてはリスク区分として設けた上で純率の認可を取得すべきというのが金融庁の見解です。
ちなみに、12.5%の範囲での調整に関しては、金融庁の認可不要で適用できます。
だから、アメリカンホームは認可不要と思って割引をしたけど、結局認可が必要と金融庁に言われて撤回することになったのでしょう。